執着

詐欺のバイトをやめてしばらくってから俺はコンビニのバイトをしながら大学生活をおくっていた。

バイト仲間にお疲れ〜と言ってアパートへと向かう。

今日は寒いな。早く帰ろう。

急ぎ足で歩いていると後ろから声をかけられた。


「あ、みーつけた」


振り返ると見たこともない男が立っている。

20代くらいだろうか。

気味の悪いニヤニヤとした笑顔でこちらを見ている。


「結構前だけど電話してくれたでしょ?

僕嬉しくって」


何の話だ。

こんなやつに電話した覚えはないぞ。

「人違いだと思います。

俺はあなたを知りません」


「またまたぁ。8万円払ってて電話してきたじゃない。

覚えてないの?」


ハッとした。

この声は…もしかして…あの訳の分からない

男か?

何でここに…


「僕たち友達じゃない。

住所も教えてくれたから探したよ〜」


いや、あの住所はデタラメだ。

本当の住所を言うわけがない。

何でここが分かったんだ…

こんなに寒いのに汗がでてきた。

とりあえず知らないで通すしかない。

「人違いですよ。

俺はそんな電話したことないです」


男はニヤニヤしたまままばたき一つしないで言った。

「人違いじゃないよー。

君だったよ」


「違います!違いますから」

俺はそう言って走って友達の家へ向かった。

家で一人で過ごすことが怖かったからだ。

友達には適当な理由を言って一晩泊めさせてもらった。


翌日アパートへ帰宅して昨日のことを思い出していた。

あの気味の悪い男の顔が忘れられない。

笑顔が顔に張り付くという言葉がピッタリの顔で喋っているときも表情が変わらずまばたきをしない。

思い出しながらあまりの気持ち悪さに身震いしてしまった。

すると携帯が鳴った。

友達からのメッセージで“昼ごはん一緒に食べない?”と書いてある。

“オッケー”と返信して昼まで家でゴロゴロすることにした。


友人と待ち合わせしてハンバーガーの店へ向かう。

いつものようにくだらない話をして笑い合っていた。

その時、ふと違和感を感じた。

周りを見回すとあの男が窓際の席に座り顔だけこっちの方に向けてニヤニヤ笑っている。

俺は驚きのあまり声も出なかった。

友人は「うん?どうした?」と目線の先を追う。

「何だアイツ。気持ち悪いな。

おい、お前のこと見てないか?

知り合いかよ?」


「いや、知らない。

マジで気持ち悪いな。

早く出ようぜ」

友人と足早にハンバーガー屋を後にした。

ヤバイ。ヤバイぞ。

もしかしてあいつずっと後ついてきてたのか。

パニックになっていた。

俺は友人に「悪いんだけどさ、食い過ぎたのかちょっと気分悪くなってきて。

今日は帰るわ」

と言った。


「大丈夫か?家まで一緒についていこうか?」


「いや、大丈夫。ありがとな」


「そうか、気をつけて帰れよ」


頭が混乱していて一人で考えたい。

あの男はいつから後をつけていたんだろう。

恐る恐る後ろを振り返る。

いない。

このまま家に帰っても大丈夫だろうか。

後ろに注意をはらいつつ無事に帰宅した。

それから気分が落ち着かず気づいたら日が落ち辺りは暗くなっていた。

もうこんな時間か。

電気をつけカーテンを閉める。

ちょっと待て。

今…

少しだけカーテンを開け隙間から外を覗くと

あいつが立っている。

笑顔のままでじっと見ている。

何でだ!何でいるんだよ。

家に帰ってきたときはどこにもいなかったはずだ。

最悪だ!どうする?!どうしようか。

そうだ!どこでもいいからすぐに引っ越

そう。

俺は急いで引っ越しの準備にとりかかった。


うまく引っ越すことができた。

はずだった。

結局無駄だったんだ。

あいつはすぐに突き止めて家の外に毎日笑顔で立っている。

こっそりと買い物や友人とめしを食いに行ってもいつの間にか現れてあのニヤけた顔でずっと俺を見ている。

気が狂いそうだ。

警察に相談したいが、そんなことしたら俺が詐欺をしていたことがバレてしまう。

あの男はたぶん厳重注意くらいだろうが、

俺は逮捕だ。

友達にも相談できない。

一体どうしたらいいんだ…。

クソ、あんなバイトしなきゃよかった。

まさか頭のおかしいやつにストーカーされるなんて思ってもみなかった。

ピンポーン。

突然インターホンが鳴った。

ゆっくり歩きながらドアスコープを覗く。

目の前にあいつの顔があった。

叫び声をあげそうになるのを必死でこらえる。

ピンポーン。

ピンポーン。


「ねぇ、いるんでしょう?知ってるよー。

僕達友達じゃない。

出ておいで〜」


ピンポーン。ピンポーン。ピンポーン。


やめてくれ!

どうすればいいんだ、どうすればいいんだよ…。

しばらくしたらインターホンは鳴り止み部屋は静かになった。

耳をふさいでいた手をゆっくり離ししばらく外の様子をうかがった。

するとドアの鍵がゆっくりと回り始めガチャといた。

唖然としているとあの男が笑顔のままゆったりした動作でドアを開け中へと入ってくる。

俺は叫び声を上げ土下座しながら

「ごめんなさいごめんなさい許してください、許してください」

と半泣きで言い続けた。


「どうして謝ってるの?

何か悪いことでもしたの?」


「いや、だから以前の電話で…お金の請求したこと…本当にすみませんでした」


「あー、やっぱり君だったんだ」


「あ、その…申し訳ありませんでした!

謝るのでもう許してください。

お願いします!」


「謝らなくていいよ〜。

だってこうやって会えたのも電話かけてくれたからじゃない」

そう言いながらいつも以上にニタ〜っと

笑う。

俺は土下座したままこの男をどうにかできないかと頭をフル回転させていた。

でも次の言葉を聞いて逃げられないことを悟った。


「お陰で友達になれたしね。

嬉しいよ、僕は。

こうやって家の鍵もあるしこれから

ずーっと一緒だね」



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執着 梅田 乙矢 @otoya_umeda

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