執着

梅田 乙矢

電話

突然電話が鳴った。

いや、電話は突然鳴るものだ。

携帯が普及してからというもの固定電話にかけてくる人は少ない。

珍しいなと思いながら僕は受話器を耳にあてる。

「はい、もしもし」


「あ、もしもし?」

何とも不機嫌そうな若い男の声が聞こえてきた。

「はい、何でしょうか?」


「あのさぁ、お金払ってもらわないと困るんだよね。

ずっと滞納してるじゃん」


何の話だ?

「言ってる意味が分かりませんが…

滞納してるお金はないはずですよ?」


「あんたサイトに登録してるでしょ。

その料金が未納なんだよね」


「いや、全然知らない」


「知らないじゃなくて。

登録してるんだって。

早く払ってもらえます?

未納金8万円」

いきなり訳の分からない電話かけてきて態度も横柄おうへいだ。

「8万って…なんでそんなに高いんですか?」


「登録したときに書いてあったでしょ?読まなかったの?」


「はい。だって登録してませんから」


「いや、だから登録してるんだって」

と男はイライラしながら言った。


「いや、そんなこと言われても知らないものは知らないし。

あんたも知らないし、どこの会社ですか?

住所は?」

電話の男は住所を読み上げる。


「はい、分かりました。

メモしました。

それで何ですか?」


「はっ?金払えって言ってるんだよ!」


「えっ?何でですか?」


「さっき話しただろうが!」


「えー!!そうなんですか?」


「お前馬鹿なのか。聞いてなかったのかよ!」


「それで何で8万という金額になったんですか?」


「は?」

詐欺師の男は意味が分からずキョトンとしてしまった。

電話口の男と話が噛み合わない。

「だ、か、ら登録料が8万!」


「僕は馬鹿じゃないぞ!

ちゃんと聞いてた」


「えっ?」


「あなたはどなたですか?

声が若いから高校生くらいかな。

バイト?」


なんだコイツ。意味がわからないぞ。

「とにかく払えよ!!!」

と俺は怒鳴った。


「いや、だって知らないもん」


全く動じない。

こっちの頭が痛くなってきた。

「払ってもらわないと裁判することになりますよ〜」


「えー!それは困るなぁ」


「それなら明日までに振り込んでください」


「無理」


「無理じゃねぇよ!!

いい加減にしろテメェ!!!」

受話器に向かって大声で叫んだ。


「もしもし?もしもし?」


「なんだよ!」


「もしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもしもし」


何だ?

何なんだ?!

もしかしてヤバい奴に電話しちまったかな。

「い、いいからとにかく明日までに振り込んどけよ」


「えっ、何の話?」


俺は電話を切った。

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