第25話 エピローグ
「よ。おかえり」
「……はっ?」
泣いて泣いて、散々泣いて。
ようやく少し落ち着きを取り戻し、部屋に戻ってきたところでわたしを出迎えたのは。
わたしの涙の元凶であった当の――、レイヴンだった。
「え? な、なんでいるの?」
「……、いちゃ、悪いかよ……」
問われた方も罰の悪そうな顔で、読んでいた本に目線を戻す。
え?
ほんとになんでいるの?
わたし、あれだけ泣いたのに?
どういうこと?
「あ〜あ。そんなことだと思ってましたよどうせ」
呆然と立ち尽くすわたしとアスラン様の背後から、リリスが飽きれたような声を上げながら室内に入ってくる。
「……なんだよ」
「どうせあなた、私のお目付け役でもういっかい聖獣やってこいー! とか言われてきたんでしょ? そうなんでしょ」
「……」
どうやら図星らしい。
リリスに指摘されたレイヴンは、わたしたちの方に背を向けるようにして、何も言わずに黙り込む。
「あれっ、そういえばまた、なんか体が縮んでる?」
「縮んでるとか言うな! これは……、聖獣にもう一度転生させられて、あいつの力で適当に成長させられたところで、疲れたとか言われて放置されてだな……」
そういうレイヴンの見た目は、最初に出会った頃の、5、6歳くらいの姿に戻っていた。
レイヴンの言う『あいつ』とは、おそらく神様のことを指しているのであろう、と何となく口振りから察する。
「いやいや、いいじゃないですかー! 私、そっちの方がだいぶ可愛らしくて良いと思いますよ! うんうん、神様もたまにはいいことしますね!」
「たまには……?」
ウキウキと喜ぶリリスに、アスラン様が疑問を挟む。
確かに、リリスの発言にはわたしもアスラン様と同じく疑問を禁じ得ないのですけど……。
「もう、いい加減察してくださいよ!
まったく! と言わんばかりにリリスにぷりぷりと言われたところで、この世界の神様がマイペースマイウェイなことなど到底理解できないし、逆に大丈夫かと心配にしかならないのですが……。
「と、言うわけで。私とアナタがこれから、聖女の聖獣になるってことですね! よろしく相棒! ですね」
「あ、相棒……?」
リリスの言葉に、レイヴンがギョッとする。
「アスラン様をゲットできなかったことは残念ですが……。新しいおもち……、じゃなくて、新しい可愛いショタボーイをゲットできたので、わたしはしばらくこれで満足です!」
「おま……、いまおもちゃって言おうとしたろ!」
リリスの発言を聞き逃さなかったレイヴンが、ばさっ! とリリスに向かって持っていた本を投げつける。
「あああ〜! 女の子に本を投げつけたあ! 神様にいいつけないと!」
「てめぇ……」
それまで静かだった室内がにわかに騒がしくなる。
わたしは、ただそれを呆然と見つめることしかできず。
調度品の修繕費とか大丈夫だろうかと、こころのかたすみで考えながらそれを見つめていたら、ふいに隣に立っていたアスラン様から、きゅっと手を握られた。
見上げた先で、アスラン様の笑顔とぶつかる。
それは、王太子としてのアスラン様の笑顔ではなく、素のアスラン様のこころからホッとした表情の笑顔で――。
わたしはそれで、ようやくこの一連の騒動が、終わりを迎えたことを感じたのだった。
――
それから後。
史上初の、二匹の聖獣を従える聖皇后として立后し、帝国は最盛期を迎えていくわけになるのだが。
それはまた、別の話である。
【完】
――――――――――――――――――
ここまでお読みくださり、ありがとうございます!
本作は私が始めて執筆した作品なのですが、
カクヨムでは1部だけ上げて
2部を上げずに一年以上置きっぱなしにしていました……。
何というか、初期作と向き合うのって恥ずかしいですね……。
なんだか勢いづいて一晩で一気に投稿したのですが
少しでもお楽しみいただけたなら幸いです。
【書籍化進行中】もう私『へとへと聖女』ではありません! 〜婚約者から偽聖女扱いされて追放された私は、隣国で皇太子に溺愛されました〜 遠都衣(とお とい) @v_6
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