第6話
「サリ……もしかして」
私はにこりと微笑みかけ、自分の首元を覆っていたニットソーの襟に指をかけ、引き下ろした。そこには、所謂『喉仏』と言われるものが見えたはず。
ミクが目をいっぱいに見開く。
「女の人だから、ノーカンだって思ってたのに」
身を引いたミクが唇を押さえてふるふると身を震わせ、真っ赤になる。
「ああいう格好してる方が、お客さんウケがいいので」
「……見通してもないし、魔女ですらないじゃない」
ミクは、うーっと唸って私を睨むが、私は笑って受け流す。
「今回の事でミクさんは『呪い』と縁が出来てるみたいなんですよね。だから、私と繋がっておく方が安心ですよ?」
「本心は?」
ミクはじっと私の顔を睨みつけて問う。
「次も美味しい『呪い』を楽しみにしてます」
私の心からの言葉に、ミクは手近な所にあったボールを掴んでこちらに投げつける。
「サリの所なんて、絶対もう行かない!」
私はそれを片手で受け止めて、走り去るミクの背中を笑顔で見送る。
「いつでも、あの場所で待ってますから」
答えは返ってこなかった。
◇◇◇
サリは薄暗い中を落ち葉を踏み締めて歩く。ミクの学校裏の雑木林。
その奥に分け入り、サリは目当ての物を見つけた。
崩れかけた小さな祠。そこに、復讐を願えば叶えてくれる神様が居るという。
「学校の七不思議なんて子供っぽいと思ってましたけど」
確かに、居る。ユカに憑いて呪いを振り撒いてた主が。
先ほど殆ど食べてしまったので、もう残り
「味は期待できないですけど、お残しはいけないですからね」
サリは笑顔で、大きく口を開けた。
◇◇◇
翌日、体育館の用具倉庫で倒れていたユカが朝練の準備に来た生徒に発見され、それも『首絞め魔』の事件の一つという事になった。
すっかり『呪い』に関わっていた時の記憶が消えていたようで、何も覚えていないと言っているらしい。
そしてミクからは、彼女と縁を切ったとだけメールがあった。
◇◇◇
「うーん、なかなかお客さん来ませんねえ」
私はギシギシと音を立てる折り畳みの机に両肘をついて、手の上に顎を乗せ呟く。
何度かスマートフォンの通知を確認するも、予約のメールが来ている様子はない。
顔を俯けると、少しでも雰囲気が出るかなと伸ばしている長い髪が、机の上に小さな渦を作る。
そこにすっと白い手が伸び、机の上の料金表をひっくり返した。
「裏メニューお願い」
素気ない声。
私は、メニューに添えられた手に優しく触れる。
触れた肌はひたりと冷たくて、でも体温だけじゃ無い何かがじんじんと指先に伝わる。
「呪われてますね」
私はにっこりと笑う。
顔を上げると、つるんと艶めくミクの赤い唇が、決まり悪そうに、それでいて少し恥ずかしそうに、きゅっと一文字に結ばれていた。
END
【完結】その魔女に気をつけて 〜見通す魔女の運命診断〜 オトカヨル @otokayoru
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