第5話
「全部終わったの?」
ミクがぽつんと問う。
「はい、終わりましたよ。呪いは全部喰べちゃいました」
ミクは恐る恐ると言った風に私に近づいてくる、私は久しぶりの満腹感に大きく伸びをした。
「あ、これお返ししておきます」
私はミクにスマートフォンを渡す。
「ありがと」
受け取り、ミクはそれから改めて私に聞いてくる。
「それで、結局サリってなんなの? 見通す魔女ってだけじゃ誤魔化されないから」
「うーん、そう聞かれると、『
「呪い喰い?」
ミクは不穏なその名前に身を引きそうになるが、ぐっと堪えて踏みとどまってくれた。
「……ちょっと怖そうな名前だけど、サリは怖くない」
「ありがとうございます」
その言葉が嬉しい。頬が緩むのを感じながら、私は口を開く。
「私、『呪殺』を家業にしている家で育ちまして」
「じゅさつ?」
ミクが首を傾げる。
「呪い殺すってことですね」
「そんな事サラッと言う!?」
「え、だって聞かれたので」
そこで言葉を切り、私は自分の胸の辺りに手を当てる。
「私は万が一呪いが返された時に備えて、呪いを『食べる』役割を持つ『呪い喰い』として、外に出ることを許されず育てられた、まあ囚われの身だったんですが」
「その家から逃げてきたの?」
私は首を振った。
「『呪殺』用に育てていた『呪い』に家ごとまるっと飲まれまして。結果、私だけが元気に生き残りました」
皆が『呪い』に食われた後で、それを食い破って外に出た、なんて物騒な話はミクは知らなくていいだろう。
本当なら助けられたのを、見て見ぬふりをした事も。
「外に出られたのはいいんですが、生きるだけでもお金って必要じゃないですか。なので、何かできることが無いかな〜って色々とやってみて一番向いてそうだったので、『見通す魔女』をやってます」
私はそう言うと、指で作った輪から目をパチパチと瞬かせそう言う。
「呪い食べるのと、その『見通す魔女』っていうの、どう繋がりがあるの?」
首を傾げるミク。
「ずっと家から出してもらえなかった間、デジタル機器だけは好きなだけ与えられたので、家族が『呪い』を育ててるみたいに、私も私なりの『呪い』をPC上で育ててまして。……感染すると、どんな端末でも裏口から私が入り放題になるっていう『呪い』なんですけどね」
ミクは、手元のスマートフォンを思わず見つめる。
「安心してください、ちゃんと消してます」
「入れてたんだ……」
そう、『見通す』のにはタネがあった。
私なりの『呪い』。バックドアを仕込むコンピューターウイルス。『運命診断』の時は予約のやり取りの時か、飛び込みの相手なら無線接続を通じてその場で感染させる。
そこからウェブブラウザの履歴、メールやSNSでのやり取り情報をざっと読み取り、それらしく肉付けして話せば、運命を見通していると誤解してくれるから。
ちなみにミクの情報は、最初にタクシーに乗車した時にはもう一通り見ておいた。
「ズルいのは知ってたし、占いじゃないって言ってたけど……」
私は誤魔化すように笑う。
「せっかく家からは出られたんですが、結局、私は『呪い』の味が忘れられなくて。……あ、さっきの『呪い』も中々美味しかったです」
「全然共感できない感想を聞かされても困る」
眉を下げてそう言うミクに構わず、私は話を続ける。
「『運命診断』なんて占いまがいの事をやってるのも……ああいう場には、オカルト絡みの相談が来ることもあるからなんです。一石二鳥なんですよ。生活費の確保と、美味しい『呪い』探しに。ミクさんが書き込んだ相談掲示板も、そういう情報収集の場の一つですし」
「じゃあ、あの書き込みの答えはサリが?」
素直に頷く私。
そんな私を見て、急に不安そうな表情で、ミクは口を開いた。
「なんで私にそんな事まで、教えてくれるの?」
私はゆっくりと手を伸ばし、ミクの頬に優しく触れる。びくりとミクの肩が震える。
「ミクさんが、逃げられなくなるように」
顔を近づけて耳元で低い声で告げる。
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