第3章05 決意

「結たちはどう思う? 僕、やっていけるかなぁ」


 久遠は苦楽をともにした白樺さん達に意見をあおいだ。確かな信頼関係を気づいた3人の考えを聞きたいんだろう。


「全然問題ないと思うよ? 久遠と一緒にVtuberとして活動できるって思うとすごく楽しみ」

「うちも! 一緒に色んなゲームやろうよ。僕っ娘ってキャラ付けも出来るし、TBと他のゲームのギャップとかも面白そう」

「私も一緒にやりたいです。初めての後輩がコーチかぁ。立場は変わらなそう」

「あはは、確かに。朝顔の下っ端卒業はお預けだね~」

「逆に敬語使わせてみたら面白そうだけど」

「日和それいいね。すっごく面白そう」


 ぶいあど組の中ではすでに加入前提で話が進められている。まぁ白樺さん達は気心知れてるからウェルカムだろうな。


「僕緊張しぃだからなぁ。それに、嫌なコメントとかたくさんあったらどうしよう」

「緊張は…頑張ってとしか言えないけど、変なコメントは私たちがモデレーターになって片っ端から消してあげるよ」

「目に余ったら開示請求すればいいし」


 柊さんが言うように、ひよりの新衣装お披露目配信前後でぶいあどはアンチや荒らしに対して積極的に法的措置をとるようになった。すでに何件か開示請求が認められてるらしいし、もうじき地獄を見る連中も出てくるんだろうな。


「ちなみに、この子の名前とかって決まってるんですか?」

「そうですね。久遠さんが受けてくださったときの名前は考えています。樟 凛音。名前を略せば”くおん”になるんですよ」

「樟 凛音…」

「久遠さんでない方になる場合は考え直しますけどね。私は久遠という名前も大切にしてほしいと思っているのでこの名前でどうかなと。いかがですか?」


 名前までしっかり考えてくれてる。デザインを起こして配信での動きも準備するとなればそれなりの準備と費用がかかったはずだ。久遠はこれからもTBに関わる選択をしてくれた。なら、俺も背中を押してやりたい。


「久遠、やってみたら?」

「H4Y4T0…」

「樟 凛音。いい名前じゃん。ここまでお膳立てしてもらって、みんな歓迎してくれてるんだし。断る理由なくないか?」

「それはそうなんだけど」

「いきなりの話でびっくりしてるんだろうけど、Vtuberとして大きな箱に所属できるってすごいことだろ? 入りたくても入れない人がごまんといるって聞くし。ちなみに、朝顔さんのときのオーディションって」

「書類だけで2000件は来てましたね。しぃともう一人が合格になりましたから、実質倍率は1000ちょいってところでしょうか」

「そんなに…」

「うちは女の子だけの箱ですし、コンセプトも明確なのである程度絞られますからね。Rootsさんなんかはもっとすごい倍率だと思いますよ」


 倍率すごいと思ってたけど予想を遥かに超える狭き門だった。個人としてデビューすることはできても、界隈が生まれてから10年以上が経過しているからなかなか伸びることは難しい。だからといって箱に所属しようにもライバル多数ってことかぁ。


 倍率1000倍ってグランデと同じ割合だからな。ぶいあどは今まで卒業とかした人もいないらしいし、茜さんの見る目も確かなんだろう。


「俺もいいと思うぜ? 久遠って素で言いそうで怖ぇけどな」

「それは俺も思った」

「お二人が接するときは久遠さんとしてでいいと思いますよ。要はそのあたりを最初にはっきりと示せばよいだけです。樟 凛音として、久遠としての在り方を伝え、それを応援してくれる人たちと活動すればいいんです。全員から好かれるということは難しいかもしれませんけど、応援してくれる人を大切にして」

「あたしもそう思うよ。自分が楽しいと思える配信をして、一緒に応援してくれる人を大切にすればいいんだよ」


 ひよりはここ最近の実体験もある分説得力があるよな。今活き活きと配信をやれてるっていう感覚もあるだろうし。


「皆さん概ね賛成してくれているようですね。あとは久遠さんの気持ち次第です。もちろんいきなりのお話でしたからこの場でとは言いません。ゆっくり考えて結論を出してください」


 数日持ち帰ってゆっくり考えればいいかと思ってたけど、久遠は何か茜さんに聞きたいことがあるようだ。


「…茜さんは、僕なら出来ると思って誘ってくださってるんですよね?」

「はい」

「僕は茜さんにすごく助けてもらいました。ほんとはちゃんと恩返ししたいのに、与えてもらってばっかりで…」

「私が気に入ってしまったんだからしょうがないですね。惚れた弱みですよ」


 いつものように穏やかな笑みをたたえる茜さん。判断を委ねられた久遠は、一度この場にいる全員を見回してから、決然とした表情で茜さんに向き直った。


「みんなも後押ししてくれてるし、この場でお返事させてください。どうかよろしくお願いします」


 そう言って、久遠は深々と頭を下げた。茜さんは久遠の両肩に優しく手を置いて顔を上げさせ、少しかがんで両手を包み込む。


「いいお返事が聞けて嬉しいです。ようこそぶいあどへ」

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Triumph Bullet【トライアンフ バレット−栄光の弾丸−】 〜プロゲーマーとVTuberの運命の出会い~ 葉月幸村 @2136masa

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