GIFT短編

クレイG

サンタクロースは二人いる

12月24日クリスマスイブ

この日になると街にはリア充共がイチャイチャし始める。

(ま、迷惑かけてねぇだけましか。)

オレはそんなリア充のイチャつく街で1人、ある人物を待っていた。

別に彼女とか、そんなロマンチックなもんじゃない。

おっと、自己紹介が遅れたな。

オレは明里尚あけさとなお。独断龍っつーところで隊員として働く男だ。

最近の悩みは同僚のストライキに誘われることだ。

ま、そんなこたぁどうでもいい。

オレが待っているのは、この近くで起こる事件だ。

この季節になると、おもちゃ屋は稼ぐ。

ソレを知ってる面倒くせぇ奴は強盗を仕掛ける。

あとはサンタに扮したヤクザがガキを誘拐しようとしたり、そういった事件が起こりやすい。

オレはその事件に巻き込まれたガキの親を待っていた。

理由はソイツに色々聞くためだ。

(しっかし、寒空の下ずーっと一人で待つのはキツイな………しかもオレ一人。やっべ虚しくなってきた。)

独断龍はその名が指す通り、独断で動くことが隊の規律となっている。

つまり、稼ぎてぇなら自分から依頼を取りに行くしかねぇ。

(一応公営なんだけどなぁ……)

そんな風に思っていると、怪しい男が少年に話しかけていた。

「メェリィ~クリスマァ〜ス坊やぁ………」

そいつは黒いサンタの格好をしていた。

また、全身タイツのようなモノをしているのか、頭部はよく見えないし、顔は仮面をしていて顔は分からねぇが、高身長でスラ〜っとした印象だった。

(アイツ……もしかして………)

そう思ったオレは男に近づいた。

「おじさんだれ?」

子供が黒いサンタ野郎に質問する。

「サンタクロースだよ!それ以外何に見える?」

男は怪しさ満点の口調でそう言った。

「キミにプレゼントだ……ほら、この箱をお取り?」

そう言ってプレゼントの包装がされた箱を渡そうとする。

オレはそんな男の肩を掴んだ。

「おっとお兄さんそこまでだぜ?」

オレがそう言うと男は振り向いて驚いたようにこう言った。

「あ、え、人?人なんで?」

心なしか、仮面の表情が変わった気がした。

「お前の目的とその仮面の下の醜い面を見せてもらうぜ?」

そう言って仮面に手を伸ばす。

「あ、ちょっ…待って……って、あ!!」

男はそう言って少年がいた方を指差す。

「あん、どうしたいきなり……ってあ?」

ふとその方向を見ると、少年は黒い服の男に連れ去られようとしていた。

「やろー!ふざけた真似を!!"ルドルフ"!!」

オレはそう叫ぶと、体がトナカイの獣人と化す。

この世界には50人に1人、オレみたいな特殊能力を持った奴がいるらしい。

「ホホ…これはこれは……」

男はオレを見てなにか言ってたが気にしてる余裕はねぇ……

オレは走って車に近寄った。

「おい、アイツ追いかけてきたぞ?」

「安心しろ!車はそう簡単には止まらねぇよ。」

そう余裕そうに車内で言っているのが聞こえる。

「おじさんたちだれ?」

怯えた少年の声もだ。

「いいだろう。テメェの車とオレの角、どっちが強ぇか勝負だ!」

オレがそう言って車と距離を離し、車の前に立つ。

「おう?なんだアイツ?何する気だ?」

車はどんどんオレに近づく。

「うぉぉぉぉぉ!!」

オレはそう叫ぶと車を止めようと突進をしかける。

「うぉ!?なんだこのデタラメなパワー!!」

「動物系能力の強みかこれが!!」

車からそんな声が聞こえると、車は停車する。

「よし、止まった……」

そう呟くと、中からヤクザらしき黒服が出てくる。

「テメェ何が目的だ?ヒーローごっこか?」

ヤクザらしき男の一人がそう言う。

「オメェこそなんだ?そのガキに何するつもりだったんだ?」

オレの質問にもう一人が答える。

「オレたち妖死鬼ようじきはよぉ?ガキを欲に溺れた大人に売って商売してんだ。ヤクを売るよりも金になるぜ?ガキは扱いやすいしよ!」

ゲラゲラと汚ねぇ笑いをしながらそう言う男に腹がたった。

しかし、そこで意外なことが起きる。

「ホッホッホ……イケマセン……それはイケマセンねぇ………」

なんと、あの黒いサンタが何処からともなく現れたのだ。

「あん?なんだテメェ?」

男の一人がガンを飛ばす。

「んんん……解答に困りますが強いて言えば……スタイリッシュサンタさんです。覚えてもらわなくて結構。アナタ達はムカつくのでここで始末させてもらいます。」

そうサンタ野郎が言うと、男はでっかい袋から箱を取り出した。

「"クリスマス"……アナタの罪の生産は子供のおもちゃとして雑に扱われてようやく晴れるでしょう。」

そう言ってプロの野球選手顔負けの投球ホームで箱を投げる。

「あ?あぁぁぁ!!」

男は高速で飛んでくる箱を避けきれず、直撃する。

すると、男の体はビニールのような光沢を放ちはじめ、どんどん縮小していく。

瞬きをする頃には、男二人のいた場所には、今やってる戦隊モノのソフビ人形が落ちていた。

そしてその人形は箱に吸い込まれた。

「お似合いですよ……お二方。まあ、こんなゲスでできた玩具なんて渡しませんが……」

サンタ野郎はソレを回収すると、ポケットに入れた。

「………」

サンタ野郎は車に近づき、中にいた少年を外に出す。

「怖かったでしょう?ごめんなさい。私はサンタ失格です……」

今度はちゃんと認識できた。サンタの"マスクが変わった"ことを。

「あなたはなにもの?」

少年に聞かれたサンタは答える。

「見習いのサンタです。」

そう言うと、サンタは少年に質問する。

「アナタは手紙に本当の家族を知りたいと書きました。それの意味を訪ねたかったのです。」

それを聞かれた少年は少し悲しげな顔をした。

……………………………………………………………

暖炉がある木製のお家、そこから叫び声が聞こえた。

「おい!お前は何者なんだ!!」

明らかに不良という見た目の少年が赤い服を着た太った白髭の老人に尋ねる。

少年は柱に縛り付けられていた。

「知らんのか?」

老人はその少年に軽蔑した視線を向ける。

「知ってたら聞かねぇだろ!馬鹿じゃねぇのか!早くオレ家の拘束をとけ!さもないとテメェを……」

そう言われた老人はおもちゃの見た目をした銃を少年の足に向け、発泡する。

銃からはレイザーのようなものが射出され、少年の足に怪我を負わせた。

「いてぇ!いてぇいてぇいでぇぇぇよぉぉぉ!!」

少年は情けない声をあげる。

「わしはな、お前みたいな奴が憎い。お前みたいな子供だからという理由で人をレイプして殺したクソガキなんかは特に念入りに苦しめたい。」

老人は苛立たしげにそう言うと、今度はその少年の頭に銃を突きつける。

「でも、今夜だけでも1万人殺さないといけないんじゃ。特に罪の重いのはこうやって個別に殺す。何人がこうやって直々に殺されると思う?今日は100人じゃ。お前が丁度50人目だったかのう?」

「お願いだ……頼む……命だけは……」

少年のその声に老人は言い返した。

「お前はその言葉を言った人間を殺しただろう?」

そう言うと、引き金に手を当てる。

「最後に、ワシが何者か教えてやろう。"サンタクロース"じゃよ。」

バンッ!という音が家中に響き渡る。

「さて、この少年を素材に"人形"を作るか……」

そう言ってサンタクロースは、少年を何処かへと持っていった。

……………………………………………………………

サンタにプレゼントのことについて聞かれた少年は、ソワソワしながらも話し始めた。

「ぼくね、こじいんってところにすんでるの。本当のおとうさんとおかあさんはどこにいるのかわからないの。」

そう言う少年に、サンタは問いかける。

「なんで孤児院にいるのかはわかりますか?」

それに少年は首を横に振って答える。

「わからない。」

オレはだろうなと思った。

もし、この子の親が死んで引き取り手がいないで孤児院に入れられたとしたら残酷だ。孤児院側の人間も言いにくいだろう。

だが、引っかかるところがあった。

少年の口ぶりでは、まだ親がいるようだった。

「キミ、お父さんとお母さんはどういう人だったか覚えてるかい?孤児院の様子とか色々教えてくれると嬉しいかな?」

オレはついそう質問してしまった。

依頼内容の確認のために依頼者を尋ねる任務があるのに、それを忘れて……だ。

少年はオレの質問に対して、ゆっくりと話し始めた。

「おとうさんとおかあさんはね、とってもやさしいの。ボクのことをたっくさんあいしてくれるの!」

そこまでは嬉しそうな表情で話していたが、孤児院の話になると、様子が変わった。

「こじいんのひとはね、はんたいなの。ボクの毎をやほかのこをキライだっていうの。ひどいことをたっくさんいってくるの。ボクはなにもしてないのに……」

オレはそれを見て、ある事件のケースを思い出した。

昔、ある国でギャングに誘拐された子どもたちが、ギャングの運営する孤児院で虐待を受けていたというものだ。

そのギャングは、孤児院でもっとも売れそうな子供を早くて11歳くらいに自身の運営する風俗などで働かせたり、働けないような子供でも、健康的な臓器があれば、臓器を売りとばしたりして利益を得ていたそうだ。

だから子供を調教しやすいように自己肯定感をなくしていうがままの操り人形にしていたってことだろう。

オレはそれに近いもんなんじゃないかと思った。

異国の話だからと言って、日本で起こらないとは限らない。

もっと深入りする必要があるが、寒空の下で色々聞くのはアレだとおもった。

「なあ、サンタ野郎。」

オレはサンタ野郎に話しかける。

「なんです?」

サンタが反応したのが聞こえたオレは、ある一枚の紙を渡した。

「コレにはオレの家の住所が書いてある。ココにこの少年を連れてけ。寒かったら暖房をつけてもいい。生憎と、こちらは少々忙しいんだ。いいか?絶対にその子を元の孤児院には戻すなよ?絶対に裏があるからな。」

オレがそう言い終えると、サンタはその紙を受け取る。

「わかりました。ではまた……」

そう言ったサンタは少年を連れてオレの家へと行った。

オレは元の場所へ戻る。

誘拐事件に巻き込まれた子供の親との待合場所に…

数分後

オレは待合場所にしていたモミの木の下にいる女性に声をかけた。そう、この女性が依頼主だ。

色々事情聴取をしたいところだが、外じゃ寒い。

オレは女性の話を聞く前に近くのカフェで話をすることに決めた。

カフェ

「あれは3年前のことです……私たち家族は丁度この日にこの街でショッピングをしていました……」

ぽつりぽつりと女性が話し始める。

「それで息子がトイレに行きたいといったので夫がトイレまでついていきました。夫はその時、息子が個室トイレに一人で入ったと言っていました。」

そこまで言うと、女性は目に涙を浮かべた。

「そして……息子が個室トイレから出ようとして個室トイレの鍵を開けたときだと夫が言ってました。ドアが開いた瞬間、息子の姿は消えたそうです。きっと何者かのGIFTだと思います。どうか!あの子を!骨だけでもいい!もう一度あの子に合わせてください!」

その悲痛な叫びに、オレが過去に見てきた遺族の顔を重ねる。

元々オレは警察官だった。

正義を信じて突っ走っていた。

だが、警察として働くうちに、どっちが悪なのかわからなくなった。

気に入らないから殺した。

邪魔だったから殺した。

欲しかったから盗んだ。

金がなくて盗みでもしないと生きていけないから盗まざるを得なかった。

政府から支援が受けられず、心中をせざるを得なくなった。

いじめっ子を殺した。

虐待していた親を殺した。

そんな犯罪者を幾度となく見てきた。

そして同僚もたくさんいた。

オレと同じで正義を信じるやつ。

悪を滅ぼそうと躍起になるやつ。

汚職をして成り上がったやつ。

人の手柄を自分の手柄にして喜ぶやつ。

そんな奴らをたくさん見てきた。

だからオレは人との関わり合いがなさそうなこの職場を選んだ。

……………………………………………………………

明里宅

サンタは悩んでいた。

少年の話を聞いただけでは何も分からなかったからだ。

今サンタが聞き出せた情報は3つだ。

少年は親と離れ離れにされたこと。

今は孤児院に住んでおり、そこの環境が劣悪であるということ。

そして、少年は孤児院から脱走してあの街を歩いていたということだ。

この情報だけで、少年の親を探し出すことははっきり言って不可能に近い。

サンタは焦燥感にかられる。

もし"明日の明け方まで"に犯人を探せなかったらどうしようと、本気で悩み始める。

彼は存在が少々特殊で、彼の正体はサンタクロースという概念を具現化したモノである。

彼の役割は、身寄りのない子どもたちにプレゼントを渡すこと。

普通の子どもたちは、サンタクロースに扮した親からプレゼントを渡される。

だが、身寄りのない子どもたちにはそれがない。

だから彼はサンタという概念として、25日の明け方までにはプレゼントを渡さなくてはいけないのだ。

それだけではない。

彼が存在を維持できるのは丁度25日の明け方まで。

明け方をすぎれば来年のクリスマスまでその存在はなかったモノになってしまうのだ。

とりあえず彼は明里尚の帰りを待った。

尚の職業はよくわからない彼だが、彼ならさらに多くの情報を持ち帰って来るだろうと信じたからだ。

……………………………………………………………

(依頼を引き受けたはいいが、手がかりがすくねぇな……)

オレは頭をかかえる。

(さて、どう調べるか……)

そう思ってると、携帯に連絡がかかってくる。

「オレだ。」

オレが携帯にでると、聞き覚えのある声が聞こえる。

『尚く〜ん、おっひさ〜!』

その声の主は、オレの幼馴染でスターズ隊の隊長、"星空キララ"だ。

「アンタか…なんだ?クリスマスで特に遊ぶ相手もいないからお誘いか?それなら断りたいが……」

オレはキララの声に少し安心して他愛のない会話をした。

『違うよ〜!あのね、今"月島長官"から任務がきちゃってさ〜 行方不明事件なんだけどね〜どうやら毎年この日にある場所のトイレで子供が行方不明になるみたいなんだけどね〜……』

オレはソレを聞いてもしかしてと思った。

だが、同時になんでオレにソレを言うんだと思った。

「ソレをなんでオレに言う?」

つい質問すると、キララはよくぞ聞いたというような声で答えた。

『いや〜、今日ね、ウチの部隊が私以外皆休みをとっちゃっててね〜そこで幼馴染で独断龍の隊員のキミにお願いがあるんだ〜』

オレはキララの言いたいことをすぐに理解した。

「一緒にその任務の解決に協力してくれ……か?」

オレがそう言うと、キララはテンション高めの声で『そうそう!一緒にやらない?流石に一人じゃ色々面倒だし、なにより捨て身の調査に出るつもりだからもう一人誰かがいないと捜査がなんこうしそうでさ〜……』

オレは一応場所を聞こうと思った。

もしかしたらオレの追いかけてる事件と同じ事件かもしれないと思ったからだ。

「場所を聞いて判断させてもらう。生憎、こちらも依頼が来てるのでね………」

……………………………………………………………

謎の工房

「ホッホッホッ……さて、このガキをこの機械に入れて……」

赤いサンタは、殺した少年をプレゼントボックスのような形をした機械に入れる。

少しすると、ゴウンゴウンと音をたて始める。

もう少し経つと、機械は動きを止めた。

赤いサンタは機械を開けると、そこには生気を失った目をした、人形のような四肢を持つ少年がいた。

「ホッホッホッ……"よい肉人形"じゃ……オマエはこれからワシのいいなりじゃ……」

恐ろしい笑みを浮かべると、赤いサンタは少年にこう言った。

「ワシの変わりにあと数人を殺せ。リストはここに置いとく。」

その声を聞いてようやく少年は動き出す。

少年はリストを一通り読んだ後、何処かへと行ってしまった。

「ふむ、ああいうのはもっといたほうがいいかもしれんな。まあ、後で"処理"するのが面倒じゃが……」

ホッホッホッと小さくサンタが笑うと、外に出る。

「さて、クリスマスが今年もやってくる……惨劇のクリスマスが!」

サンタはそう言うと、とある街へと向かった。

……………………………………………………………

「まさか、同じ場所で同じ事件を追っかけていたなんてね……」

キララがそう言う。

「まあ、別に驚くことでもねぇだろ。薄々同じ事件を追っかけてる感覚があったしな。」

オレがそう言うと、キララは意を決したかのようにこう言った。

「私、GPSをつけてるからさ、もし何処か変な場所に行ったらそこを特定して私を探してくれる?」

キララの言葉に強く頷く。

オレたちがいる場所、そこはある個室トイレの前だ。

このトイレは本来、障害のある人とかの使うトイレだが、普通の人も使う。

おそらく、ここで依頼主の子供は連れ去られたのだろう。

(転送系か異空間系か……どちらの能力でも厄介だ。転送系であることを願おう。)

そう思うと、キララにその個室トイレに入らせた。

キララは年齢はオレと同じくらいだが、見た目だけなら(いろいろあって)中学1年生だ。

だからきっと犯人は連れ去るだろう。

そして、キララはカギを開ける。

そしてドアを開こうとしたとき、キララの姿が消えた。

「やはり連れ去ったか!まずはGPSの確認を……」

オレはそう思いスマホでキララの位置を確認する。

「ここは……孤児院!?」

意外な場所に少し驚く。

(まさか……)

オレはそこであの少年が浮かんだ。

(急いで行くしかない!)

オレはその場を全速力で離れる。

向かう先はもちろん孤児院だ。

……………………………………………………………

孤児院

「ここは……?」

意識が朦朧とする中、彼女は目覚めた。

スターズ隊隊長、星空キララ。

彼女はある行方不明事件を追っているとき、ある個室トイレで行方不明者が多発していることに気がついた。

そして彼女はそのトイレに入り、出るときにトイレから謎の場所に転移したのだ。

「また誰かが来たな。あの方に渡す前に色々見てみるか。」

男の声が聞こえる。

(きっとこの声の主がこの事件の犯人!)

そう思った彼女は能力を使用する。

"いないいないばあ"……彼女のGIFTで、能力は"自分の存在を消す"。

消えている間は誰も彼女を認知できない。"触れることも、触れられることもできなくなる能力"だ。

手で顔を覆い呟く。それが彼女の能力の使用条件である。

「いないいない……」

そう彼女が呟くと、存在がどんどんと消えていく。

(絶対に掴んでやる!この事件の犯人の正体を!)

丁度存在を完全に消したころ、1人の男が入ってくる。

「あん?誰もいねぇじゃねぇか…オレの能力が誤動作したか?いやいやそんなはずは……」

男はそんな風に呟く。

男の見た目は見るからにヤクザという風貌で、サングラスをかけている。

「たく、珍しく味見できるチャンスだってと思ったのに……いっつも孤児院で育てさせてからやってるけどよぉ、オレはガキを犯してぇんだよクソ!」

キララは直感的にこう思った。

(コイツは殺さないとまずい!)

彼女は怒りに震えていた。

だが、それを察知する奴は誰一人としていない。

だからこそ恐ろしい能力とも言える。

(とりあえず、ナオが来るまで待とう……一人だけじゃ危険すぎる……)

そう思った彼女は、じっくりと待つことにした。

……………………………………………………………

尚宅

オレは一旦家に帰って少年にあることを聞く。

「なあ、少年、キミがいた孤児院ってここかい?」

オレの質問に少年はうなずいた。

「そうか……ならやっぱり……」

一人で呟いていると、サンタが質問してくる。

「あの…その孤児院に何かあるんですか?」

その質問にオレはこう返した。

「ある行方不明事件の手がかりになるかもしれないんだ。そして、この少年の親の手がかりもあるかもしれない。」

それを聞いたサンタはオレにこう言った。

「私、ついていきます!この子のために……」

オレはそれを止めようとする。

「その間この子を誰が守るんだ?」

オレのその声にサンタはハッとした表情になる。

「オレ一人で行く。お前はその少年の近くにいろ。オレがこの孤児院の裏を暴く。」

そう言うと、オレは孤児院へ向かった。

……………………………………………………………

「ウィーウィッシュアメリークリスマス♪」

赤いサンタは楽しそうな様子である孤児院に向かっていた。

「サンタさん!よくぞおいでになられました!」

孤児院にいた一人の男がサンタに声をかける。

「メリークリスマス!さて、子供は用意できてるか?」

サンタに聞かれた男は営業マンスマイルで答える。

「もちろん!上質な子供を調教しましたから………ドウゾこちらへ……」

男に案内されたサンタは、孤児院の地下室に連れて行かれた。

孤児院の地下室には、全身にアザのある裸の子が椅子に縛り付けられ、絶望の表情を浮かべたままヨダレを垂らしている子供達がたくさんいた。

「ホッホッホッ……これはこれは……」

サンタは最低な笑みを浮かべる。

「どうです?お気に召しましたか?」

その言葉にサンタはとてもうなずいた。

「うむ、これでよい。サンタの任を降りて新たなサンタに任せたかいがあったというものじゃ。全部引き取らせてもらおう。」

サンタがそう言うと、男は領収書を取り出した。

「はい、こちら1億円になります!」

それを聞いたサンタは懐からカードを取り出す。

「これで頼むよ。」

それを受け取った男は、機械にそれを通し、丁度1億円が払われたことを確認した。

「はい、では……」

男はその場を離れる。

そしてサンタは袋を取り出し、オレに子どもたちを入れる。

「ホッホッホッ……ではまた来年……」

子どもたちは袋に入れられても抵抗しなかった。

いや、抵抗する気力がなかったのだ。

そしてサンタは地下室から出ていく。

彼らはまだ知らない。

彼らに来年が訪れないということを。

……………………………………………………………

孤児院

孤児院についたオレは、早速怪しい男が出てくるのが見えた。

男はオレらがよく知るサンタクロースの格好をしている。

そして無駄にデカい袋を担いでおり、怪しい笑みを浮かべている。

そして耳をよくよく耳をすませば、うめき声に近い子供の声が袋から聞こえてくる。

オレは色々と理解しちまった。

胸クソ悪い。ほんっとうに胸クソ悪い!

オレは激昂した。

そしてオレはついついGIFTを使ってしまった。

オレはトナカイの獣人へと変化する。

そしてオレはサンタの格好をした男に近づき、思いっきりぶん殴ろうとする。

が、すんでのところでサンタに気づかれ、避けられた。

「ホッホッホッ……出会ったばかりの人物を殴るなんて、躾のなってないトナカイじゃのう……」

オレはその言葉に無性に腹がたった。

しかしそこで、思わぬ人物が現れた。

「悪性を隠しサンタクロースの偶像を被っていたアナタが言う言葉ではありませんね。先代!」

声のする方を振り向くとそこには、真っ黒なサンタ姿に、鼻と口だけの真っ黒な顔、そして背の高いスラッとした印象の男がいた。

仮面を外しているせいで一瞬分からなかったが、すぐに誰かわかった。

オレと行動をともにしていたサンタだ。

「おいサンタ野郎!お前、少年はどうした!?」

その質問にサンタ野郎は答える。

「もっとも安全な"箱"の中です。それよりも……」

サンタ野郎は赤いサンタ野郎をにらみつける。

「ホッホッホッ……久しいのォ"5代目"……5年前にワシがつくりだした以来かのぉ〜懐かしいのぉ〜あの頃は次世代の育成が面倒くさくて"特異例"という存在に目をつけてお主を錬成したっけのぉ〜……」

つくづくムカつく喋り方をするジジイだ。

それに気になることも行っていた。

"特異例"?なんだソレは、産まれて初めて聞いたぞそんな単語。

「未だに信じられない。お前みたいなゲスに私が作られたことが!」

黒サンタは激昂していた。

「ホッホッホッ、ワシはゲスではないぞ?ただ、欲望に正直だっただけじゃ。初めてサンタに任命された時も、多くの子供に出会えると期待しておった。じゃが、近年ではサンタの正体は親であるということになってしまったせいで身寄りのない貧相なガキにプレゼントを渡すしかなかった。その時から定期的に襲ったりしてたが、反応がなくって楽しくなかったのぉ〜でもここのガキは違う!ワシが首を閉めれば反応をするし、優しくすればワシのことを神と崇める!素晴らしいと思わんか?」

その言葉に、オレはキレそうになっていた。

「尚さん!ここは私に任せてください!コイツは…私がここで倒す!」

それを聞いたオレは強く頷く。

「ああ、この孤児院の闇は……オレが晴らす!」

そう言ってオレは孤児院に入った。

……………………………………………………………

孤児院内部

「お前はだれ……だっ!」

「侵入者!侵入……グハッ!」

オレは孤児院に似つかわしくないヤクザラシし男2名を殴り気絶させる。

「キララのいる場所は……」

オレはキララについているGPSの反応をもとにオレはその場所に向かった。

数分後

オレは件の場所についた。

そしてそこにある扉を蹴り上げる。

「誰だ?」

そこには一人の男が佇んでいた。

「明里尚……独断龍の者だ。」

それを聞いた男は少し驚いた表情になった。

「独断龍!?なぜGCMの連中がここに……?」

男がそう言うと後ろからオレがよく知る人物が現れる。

「ばぁ!ジャッジャジャ〜ん!スターズ隊隊長、星空キララもいるよ☆」

キララはいつもの調子……に見えたが、少し無理をしてるらしい。

体が震えている。

「くっ!はめられたっつーことか……?」

苛だたしげに男は言う。

「そうだ。お前が誰かしらないが、人身売買の罪で逮捕だ!」

そう言うと、男は笑いはじめた。

「フッフフフ……フッハハハハハハハハ!!」

オレはつい尋ねた。

「何がおかしい!!」

オレの声に男が返す。

「いや〜……こういうときのために"宝石"を貰っといて助かったぜぇ……"コマンダー"!!」

そう言うと、男の周りに数名のヤクザが現れる。

「………」

数名のヤクザはしばらく黙っていたが、唐突に現れた警棒を持ち、構えると、オレとキララに攻撃を仕掛けてきた。

「うぉ!?なんだこいつら!?」

「唐突になに……よっ!!」

オレとキララは攻撃を避けながら一撃入れる。

幸いにも、コイツらは脆かったのか、一撃で消失した。

が、安心したのもつかの間、オレらを何かが拘束した。

「グッ!」

「キャア!!」

拘束されたオレは何もできなくなり、どうすればと考えていた。

……………………………………………………………

「がァァァァァ!!」

黒いサンタは赤いサンタに攻撃をする。

傍から見れば、怪物が人を襲ってるように映るだろう。

だが実態は、こうだ。

赤いサンタは子供を性的に見るクズであり、今までも何人もの子供を犯してきた。

黒いサンタはそんな男に作られた存在であり、そんな赤いサンタを許せないのだ。

「ホッホッホッ!そんなに怒らないでもいいではないかの。それにしても強くなったのぉ〜……どうじゃ?ワシとこの袋の中身を犯さんか?気持ちいいぞ〜……」

「フザケタコトヲヌカスナァァァァ!!」

黒いサンタの拳が赤いサンタの頭に直撃した。

しかし……

「ナゼ……ナゼダ……ナゼビドウダニシナイ!!」

そう、その場から動かなかったのだ。

よろけるでもなく、不動。

ソレは恐ろしく映るだろう。

「何故……何故か教えてやろうか?」

そう言うと、赤いサンタの体が変化する。

ソレは人とはかけ離れた見た目であり、悪魔のような姿であった。

「ソノ……スガタハ……?」

黒いサンタに尋ねられた悪魔のサンタはこう答える。

「この姿はのぉ〜お前を作る過程で作られた失敗作を飲み込んだ姿じゃ。処分が面倒くさくなってのぉ……さしずめサタンクロースと言ったところかのぉ〜……」

その言葉に、黒いサンタはキレる。

「フッザケルナァァァァァ!!」

黒いサンタは殴りかかる。

しかし、今度は小指一本でその拳を止めたのだ。

「無駄じゃよ。お前の失敗作はサンタとサタンを間違えて作ってしまったから取り込んだんじゃ。パワーはお前以上じゃ。」

そう言うと、黒いサンタを投げ飛ばす。

「そこで反省しておれ……」

サタンクロースは、そう言うと、袋を持ってその場を離れようとした。

……………………………………………………………

孤児院内

「グハァ……!」

オレが考えていると、黒いサンタが飛んできた。

「オイオイオイ!こりゃオレらの逆転じゃぁねぇか!?」

男は黒いサンタに足を乗っける。

「尚くん!彼は!?」

黒いサンタを見てオレに質問してくる。

「オレの仲間だ!おい!サンタ野郎!しっかりしろ!!」

オレの言葉を聞いても、サンタ野郎はうめき声をあげるだけだった。

「おい……おい!サンタ野郎!お前がここで倒れてたら外にいた外道サンタは誰が倒すんだよ!!」

返事はない。

「おいおいおい……あんなに威勢がよかったのにこのザマかぁ!!……じゃあ、お楽しみの時間に移ろうかぁ!!」

そう言うと、男はキララに近づいた。

「何をする気?」

キララの質問に男は答える。

「言わねぇとわかんねぇのか……?ナニだよ……」

男はゲスの笑みを浮かべる。

そして、キララに唇を近づける。

「おい!やめろ!おい!!」

そうオレが言っても、男は止まらない。

あと数秒、あと数秒で男の汚い唇がキララの唇に当たりそうになると、プレゼントボックス的なものが男にぶち当たる。

「!?なんだ!体が……」

男の体はブリキになり、ロボットの玩具へと変化する。

「………ナオ……サン……」

サンタ野郎はオレに話しかける。

「お前……なんでオレの名前を……?」

オレの質問にサンタ野郎は答える。

「少年を助けようと車を追いかけた時、アナタに私は惚れてしまったんです。それで……アナタのことが気になって……お家を少し探索しました……それで……」

そこまでサンタ野郎がそこまで言うとオレらの拘束が解ける。

「おい!サンタ野郎!おい!!」

オレはサンタ野郎に駆け寄る。

「最後に……お願いがあります……キスを……してもらえますか?私は幸い体を変えることができます……アナタが望むなら、アナタの理想の姿になれます……」

オレはその言葉を聞いてすぐにキスをした。

「………」

顔は黒いのに恥ずかしそうにしてるのがよくわかる。

「お前のことはよく知らないし、お前が死にそうな物言いはなのが気に入らねぇけどよ……お前がやれってんならやるしかないよな……」

そう言うと、オレはそう言うと、その場を離れようとする。

「ちょっと尚くん!どこに行くの!?」

キララの声が聞こえる。

「キララ……ソイツを見守っといてくれ。オレはソイツの戦いにケリをつけさせてもらう。」

オレはそう言って孤児院を出た。

……………………………………………………………

「ホッホッホッ……出来損ないを見限ってここに来たのか?」

オレはその問に首を横に振る。

「すまねぇが、オレのサンタクロースはお前じゃねぇ……黒いアイツだ。名前は聞きそびれたけどな…まあ、どうでもいい……さっさと終わらせてお前を地獄に叩き落とすだけだ……」

そう言うと、オレの体が発光しだす。

「ホ!?そ、その光は……」

赤いゲスは驚いたように言う。

「アイツはどうやら、オレに"奇跡"を与えてくれたらしい。立派なサンタだよ……ルドルフ……いや、

"希望を背負うサンタの相棒ルドルフ・レッドノーズ!!"」

オレの体は変化する。

見た目はトナカイの獣人だが、鼻は赤く発光し、格好はサンタクロースの格好になる。

「ホッホホホ…その姿は……!?」

「さぁ、プレゼントを与える時間だ。オレの心からのプレゼントを与えてやる。地獄行きの片道切符だ!!」

そう言ってオレは赤サンタに殴りかかる。

「ふざけおってぇぇぇ!!」

赤サンタもオレに殴りかかるが、オレの方が早い。

ドンッ!という車同士が衝突したみたいな音が響き渡り、赤サンタは吹っ飛んだ。

そしてそのはずみで、赤サンタの持ってた袋が上空に浮かぶ。

「よっと……」

オレは袋を取ると、脳内にあるイメージが湧いてきた。

「そうか…そうすれば……"絶望の道を消すモノ《プレゼント》" ……」

オレはそう言って袋に手をかざすと、袋が発光し、10人以上の裸でアザだらけの子供が出てきた。

その子どもたちはみるみる内にアザがなくなり、生気を失った顔をしていた顔も希望に満ちた顔になり、サンタのような服になった。

「おのれぇ!子どもたちに何をした!!」

オレはその問にこう返す。

「絶望の過去を変えたんだ。サンタからの"プレゼント"は奇跡も運べるらしいな?」

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

その言葉を聞き苛立たしそうにオレに殴りかかってくる赤サンタ。

だが、お前の"プレゼント"決まっている。

「お前に最期のプレゼントをやろう。」

そう言ってオレは宙に浮かぶ……

「な、何故宙に浮かぶ!!」

オレはその問いには答えなかった。

そしてオレは右手を天に上げる。

すると、バカでっかいプレゼントボックスが出現した。

「プレゼントだ!地獄行きの片道切符っていう名の……な……」

そしてそれを赤サンタ目掛けて放った。

……………………………………………………………

12月25日 クリスマス

この日は雪が降った。

赤サンタの一件は、この世から無くなった。

存在ごと消えたのだ。

あの孤児院にいた子どもたちは無事に家に帰れた。

彼らも、あの孤児院でされたことは綺麗サッパリ消え去った。

そもそも、あの孤児院自体が元々なかったことになったからな。

あの事件の記憶はオレだけのモノとなった。

いや、厳密にはオレだけじゃないが……

尚宅

「で、サンタ野郎はなんでオレん家にいるんだ?」

そう、あの一件以来、黒サンタがオレん家に住まうことになった。

しかも、性別も変わって。

「えへへ……実は……」

現代におけるサンタクロースは、子供だけの偶像と化していた。

しかも、子供によっては親だと思っている奴も多い。

結果、サンタクロースの塊であるコイツは、能力を失った。

ただの黒い塊となって仮面に宿ったらしい。

しかも、コイツに元々あったという縛りはそれが原因で無くなったらしい。

で、人型になったのは、オレへの恋情が女性の形を形成したらしい。

「とりあえず、今後もよろしくお願いします。尚。」

オレはそう言われてイヤとは言えず頷く。

「ああ、これからも一緒だ。マイサンタクロース。」

これにて、2031年のクリスマスイブの大事件は幕を閉じたのであった。

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GIFT短編 クレイG @KUREIG

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