第52話吸血鬼事変その後

トールと子供達の治療を終えたことで役目は終えたと、ユナとシエルは食べ歩きに行くと言って町に繰り出して行った。

 絵理歌達はトールと子供達をジニーに任せて冒険者ギルドに事件の報告に向かう。

 外に出るとブラドが死んだことで町を荒らしていた屍鬼も消滅し、ギルド職員や依頼を受けた冒険者は事後処理に忙しく走り回っている。

 冒険者ギルドに到着すると、外の人達と同じように忙しく働いているギルドマスターのタコスが絵理歌達を見つけて声をかけてきた。


「探したぞディステル会。君達が留守の間に大変な事件が起こったんだぞ。幸い誰かが親玉の吸血鬼を倒してくれたようで事件は治まったんだが、むっ! ……まさか君達が?」


「気づいちゃった?」


「そうか……町を代表してお礼を言わせてくれ。ありがとう。では、詳しく聞かせてくれるか」


 事情を察したタコスに、今回あまり活躍していない史が得意げに述べる。

 真剣な表情でお礼を述べるタコスに絵理歌達は事件のあらましを説明した。


「そんなことがあったのか。蓮華教の司祭は残念だったが、上級吸血鬼が暴れた事件では被害が少ない方だ。シエル嬢もそうだが、まさかユナ陛下まで出てくるとはな。それで、ユナ陛下とシエル嬢はどうしたんだ?」


「あの二人ならルンルンでスイーツ食べ歩きに出かけたわよ。元々それが目的だったみたいだし」


「あのユナ陛下が甘味の為に世界中を回っているとは知らなかったな。とにかく今回の事件を解決してくれてありがとう。報酬を用意したから受け取ってくれ」


 タコスはそう言うと報酬の金貨千枚、それにプラスして冒険者ランクをAに上げる約束をしてくれた。

 ダンデライオンの町にAランクはいない。

 ディステル会はダンデライオン唯一のAランク冒険者になった。






 報酬を受け取った絵理歌達は仲良くなった人達の安否確認に町を回ることにした。

 ロータス武具店は事件の中心になった蓮華教の教会の反対方向に位置する為、リリーもロータスも元気に仕事をしていて影響はなかった。

 ロータスに至っては鍛冶に集中していて気づいてもいなかったそうだ。

 ハンマーで叩く鍛造の音が大きいので外の騒ぎに気づかないのも無理もないかもしれない。


 次は蓮華教の教会にトールと子供達を見に行く。

 教会内に入るとすでに目を覚ましていた子供達をからお礼を言われるが、トールは一人先走ってやられたことが気まずいのか後ろの方でもじもじしていた。

 そんなトールをジニーとマヤが無理やり前に連れ出す。


「トール君! ちゃんと皆さんにお礼を言わないとダメだと思うな」


「そうだよ! いつまでもうじうじしてないでちゃんとして!」


「す、すまねえ。助かった……」


「トール君! もっと大きな声で言わなきゃダメだよ!」


「ありがとな!」


 ジニーとマヤに促されて大声でお礼を述べるトールに絵理歌達は楽しそうに笑うのだった。


 トールには今後も筋トレと基礎体力作りをするようにアドバイスし、教会を出て町の様子を見て回る。

 被害は蓮華教の教会から町の中心に向かって伸びていて、それ以外の地域では被害が軽微なこともあり商店も営業しているので、絵理歌達はカフェで食事を取ることにした。


「店のスイーツを全部二人前持ってきてくれ!」


「飲み物は紅茶をホットで二つお願いします」


 店内ではユナとシエルが元気にスイーツを注文していた。

 見た目は人族の美少女と美女にしか見えない二人は注目を浴びているが、そんなものは気にせず目の前のスイーツに全力で集中している。


「おおっ! このクリームは甘すぎない優しい甘さが実に見事だ! うましっ!」


「ユナ様っ! こちらの焼き菓子も小麦粉の自然な甘さを生かした絶品ですよ!」


「そうか、いただこう! ただ甘いだけの甘味が多い中、この町のスイーツは甘すぎないのがいいな。甘いだけの菓子にはうんざりしていたのだ」


「私がしっかりと調査した名店ですからね。今日はスイーツパーティですよ!」


「よーし、パクパクだな!」


 二人は実に楽しそうに菓子をパクついていたが、それを見ている絵理歌達に気づくと声をかけてきた。


「ディステル会の皆さんじゃないですか」


「其方らも菓子を食べにきたのか? 知らぬ仲ではないし、一緒にどうだ?」


 二人の誘いに乗って同席した絵理歌達は一緒に菓子を食べる即席女子会を開催した。

 ユナはもちろんのことだが、シエルも美味しそうに食べているところを見ると、ユナと同じく甘味好きなのが伺える。

 もちろん年頃の少女である絵理歌達もスイーツは大好きであるし、武術家の絵理歌、晴香、史の三人は健啖家だ。

 美味しくスイーツをいただいているとユナが口を開く。


「しかし其方は人族なのに強いな。中級吸血鬼のシエルが勝てなかったことをみると、恐らくブラドは上級吸血鬼の領域に足を踏み入れていただろう。それを倒すのは本当に凄いことだぞ」


「ありがとうございます。地上最強になるのが私の夢なので、いつかユナさんとも戦ってみたいです」


「はっはっはっ! この私と戦いたいか! だがまだ早い。もっと力をつけたら戦おうじゃないか」


 絵理歌の発言に周りに緊張が走るが、ユナは楽し気に笑うのだった。

 吸血鬼の女王は寛大な心を持っている。

 強くなろうと努力する者は歓迎するのだ。

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異世界召喚されたので夢だった地上最強を目指すことにした。離れ離れになったクラスメイトを探しつつ帰還方法も探します。帰りたい人は帰れば良い。でも、私はここで最強になりたい。 ギッシー @gissy

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