エピソード 51:えぴろーぐ?3 家族会議

前書き


この物語の最終章となります。


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 私は、アシュ・メ。母さんの姓も継いでるから、正確には、七瀬・アシュ・メ。カタカナ的には、アシュ・メ・ナナセのが収まりが良いかもだけど、世間一般にはアシュ・メで通ってるからそれで。


 母さんは、世界的な偉人として知られてる。500年に一度の主神を決める戦いの為に異世界から連れてこられて、600人近くの中から勝ち抜いただけでなく、その戦いを最期の物として終わらせた。本来なら自分以外は全員殺さないと終わらなかったのに、最期近くの段階にまで生き残ってた五十人くらいは何とか生をつないで、さらに別世界へと送ってそちらで余生を過ごしてもらう事にしたとかも、規格外の逸話として残っている。


 本人が望むだけの魔物も物資もその他の財も、ほとんど無制限に生み出せて、当人の身体的能力や戦闘能力その他も高過ぎというか無比の存在で、匹敵出来るとしたら前回の大戦勝者のマグナスさんくらいだけど、彼は母さんに恩義を感じてて、かつ眠りにつくって事で敵対関係に無いしね。いざという時には頼りにしていいって母さんからは言われてて、国を継ぐ者にはその管理を引き継いでいくようにも言われてるけど。


 さて。母さん自身が父さんとは気が向いた時にはそういう事をするくらいの関係で、結婚はしないままだった。キルハ兄さんの出自はまた独特だけど、ヤン兄さんも含めて、家族だった。キルハ兄さんには、パージメさんやヒューさん達が過干渉気味で、私たちの方に避難してきて仲が深まった側面もあったりしたけど。


 それはさておき、母さんは、ある意味で無気力だった。良く言えばのんびりと過ごしてて、悪く言えばやる気出されると世界的な影響が半端無さ過ぎるのを自覚しての事だったんだろうけど、物心ついた頃から、いつ姿を消されてもおかしくないかなこれはと心配になった。

 幸いな事に、兄さんたちとも問題意識を共有出来てた。母さんの子育ては基本的に放任主義だった事もあって、子供達三人は父さんとも相談して、母さんの危うさをどうにか出来ないかと頭を悩ませてきた。


 母さんから聞き出した元々叶えようとしていた願いの物語の主人公達の設定とかを元に、キルハ兄とヤン兄は、競い合うような体裁で支配地域を広げていく事にした。まったりした日々が続くだけなら、母さんがそのまま自然消滅フェードアウトしていきそうな恐れがあったから。


 キルハ兄は特にシスコン気味で私に執着気味だった事とか、二人の兄の勢力範囲と釣り合いを取る為の意味もあり、私はポルジア王室から婿を迎える事にした。キルハ兄が中央大陸北側と北の大国を。ヤン兄が中央大陸南側と西の大国を。私が中央大陸中央部と東に大国を。残る南の大国は体裁が崩壊してなかっただけで、バランス的にグリフェ後継者の私がその恭順相手となった。


 まぁ、これで、母さんが何かの気紛れに世界を滅ぼしちゃおうか?という事は無くなったと思う。本人に言わせると、子供達も成人して結婚したりしたから、やる事も無くなってきたかな~、と消える気は増してきてしまったのだけど。


「という訳で、第379回家族会議なのです」

「とはいえ、俺とヤンとで覇権争いの世界大戦起こすとか、アシュ・メがそれを止めようとして泥沼の戦いにするとかは無しのままだろ?」

「そうなんですけどね、キルハにぃ。もっと平和的に、母さんの、生きる意味というか、消えないでもいい理由を見い出せないかな、と」

「孫が産まれてみればとかも思ったんだけどね。消えてもいい理由が増えてしまったくらいなんだよなぁ」

「ヤン兄とその奥さんとの夫婦仲の良さは世界中に知られてますしね。父さんは、何か妙案ありませんか?」

「・・・何が最期に思い切る契機になるかわからんから、あまりしつこくとかはっきりとは訊いたりしてないが、自分がいる限り世界の均衡はどうしても崩れたままになるし、百人単位で同胞を殺してしまった自分が幸せな余生を送り普通に老いて死んでいく事は許されるべきでない、って思ってるみたいだ」

「母さんも巻き込まれた側で、望んでそうした訳でも無いのに」

「神々の側にとががあり、母さんが責められる謂われはないし、実際責めている人なんて誰もいないのにね」

「偶然からにしろさらに異世界の神と縁が出来て、生き残らせる事が出来た同胞達をそちらに放り投げて戻ってこれないようにしたのは、同じ世界にいたままだと自分が耐えられないとわかっていたせいだろうな」

「その、神様とかに頼んで、記憶をどうにかしてもらうのは?」

「そういうのも出来たんだろうけど、しなかった。せめて罪の意識というか記憶くらいは、自分の中に残しておくべきだと」

「頑固だからなぁ、母さん」

「あんなのほほんとした感じで、普段はのんびりと過ごしてるのにね」

「何かイベントなり問題トラブル起こして関心引こうとするのも限度があるしなぁ」

「母さんはマグナスさんとは違って老いていって死ぬんだよね?」

「そう聞いている。主神となられたディルジア様が如何様にでも出来たのを断ったともな」

「母さんの心情は理解できなくもない。例えばこの一家が似たような状況に陥って互いを殺さないと全員が死んでしまうように迫られたら、この中ならアシュ・メが生き残るよう全員が動くにしろ、生き残った側がその後も普通に生きていけるかっていうと、いろいろ難しいだろうしな」

「良い例えではないけど、そうだね、父さん。ていうか今からでも結婚して、自分が生きてる間はしっかり生き続けてくれとかお願いしてみれば?」

「似たような事は何度か言ってみたが断られたよ」

「そうなんだ」

「父さん、気落ちしないでね?」

「うぅ、子供達の優しさが身に染みる」

「寸劇はさておいて、子供達や孫達から嘆願し続けるくらいしか無さそう?」


 う~ん、とみんなで悩んでも、そうそう妙案は出てこなかった。自分たちがもっと幼い頃から悩み続けてきたのだから。


 神頼みしかやっぱり無いのかなぁと誰かがぽつりとつぶやいた。神頼みって言っても本人には断られちゃってるし、ディルジア様にもどうにも出来ないと言われて・・・、って、あれ?

 ちょっと思いついたかも。


「絵を描く、って事ならどうかな?」

「それは今までも趣味的な物は描いてきただろう?家族にも見せないようなのも含めて」

「そういうんじゃなくて、ほら、前に母さんが話してくれてた、元の世界にはあったっていう写真ていうので家族の記念写真を写して残してたっていうのを、毎年、母さんにやってもらったらどうかな?毎年集まってさ、母さんに描いてもらうの」

「・・・悪くないかも知れないが、それだと母さんが絵に入れなくないか?」

「母さんだけは、子供達が順番に描くのはどう?」

「グリフェには絵描きがたくさんいるから、素描とか下書きとか頼もうとすれば自己推薦が殺到するだろうな」

「グリフェ内部が安泰だと知らしめるのにも、悪くない習慣になるだろうな」

「風習として、他の貴族とか絵描きの家庭とかにも広がっていくかもね」


 善は急げって諺が母さんの元の世界にあったらしいし、私たち四人はその場からすぐに母さんに会いに行き、アイディアを伝えた。

 母さんは、心配させちゃったみたいでごめんね、と謝ってくれた。アイディアを受け入れてもくれた。描いた絵は、グリフェの首都美術館に展示していく事も決めた。母さんは苦笑してたけど、これは母さんも含めた家族会議(世間的にはグリフェ最高首脳部会議とか言われてるらしいけど)の正式決定事項となって、世間にも発布された。助手の申し込みは想定を遙かに越えた数が殺到したりもしたけどそれは余談。


 このアイディアだけのお陰かどうかは怪しいけれど、家族の絵に何故か(理由は知ってるけど)パージメさんとヒュー陛下が初回から入ってきたせいで、翌年からはポルジアとレイキアの王様も揃って入る様になったり、孫だのが増えていく事もあってどんどん大人数の絵画というかキャンパスには収まりきらない壁画みたいになっていった。


 小さいトラブルはいろいろあったけど全体的には平和に流れていって、キルハ兄とヤン兄の子供達がそれぞれの国で即位すると同時に私に臣従を誓い、私とポルジア王室からの婿との間に産まれた子供の陪臣となる事で、世界はほぼ正式に統一された。

 母さんからトップの座は既に継いでいたけど、母さんだけが一代限りの神皇という位階で奉られて、私以降はグリフェ統治機構の大統領という存在になった。何でも、母さんの元の世界では国民一人一人が投票してもっとも多く票を得て選ばれた人が一定任期の間統治を任される存在だったらしい。

 選挙って仕組みは今後の課題として、当面は統治機構から選ばれた人材が大国を含めた国々に総督とかを派遣して、基本自治は任されてるにしろ統治内容が酷くなりすぎないよう監視する役目を持たされた。


 グリフェが国々の上に存在する統治機構として動き始めて数年経過してから、表舞台に立つ事が無くなってた母さんの死が発表された。実はまだ生きてたんだけど、母さんの死と共に消える複製魔物の軍勢とかが消えた事で、主に北や西の大国の貴族を中心に、世界中で反乱が起きた。

 子供達を中心に対処したんだけど、手こずったり漏れてしまった件は突如として現れた魔物の軍勢とかに粉砕されて、母さんの死は虚報という情報が世界中に広まり、世の中はまた落ち着いた。


 母さんはそれから身分を隠して数年世界をさすらってからふらりと戻ってきて、もうそろそろいいだろと持ちかけてきた。


「子供達の子供も成人したり結婚したり、ひ孫が産まれ始めたりしてるし」

「ここまできたら天寿を全うしても罰は当たらないと思うけど?」

「そうかも知れないけどね、何となくだけど、そうしたくないんだよ」


 私ももう四十代半ばになってて、母さんは六十を越えている筈が、私よりも若く見えた。というか実際には、年老いて見えるよう化粧とかしていて、すっぴんなら二十代半ばくらいにしか見えないから、常人と寿命が違ってしまっているのを誰よりも意識していたのだろう。神様とかに頼んでもいなかったのに余計な真似をしてくれたとか言ってたから、うらやましいとも思えなかった。


「父さんは統治機構が動き始めた頃に亡くなったけど、それもある?」

「かもね。あなた達だけでももう十分にやっていけるって目途もついたし」

「でも、どうするの?まさか、自殺とか、しないでしょ?」

「それなんだけどね、ディルジア様と相談して、自分自身を描いてそこで永眠できるって。て訳で放浪してる間に描いてほぼ終わってる」

「・・・その絵がどうにかなったら死んじゃうって事?」

「そうだろうけど、ディルジア様が護ってくれるらしいし、ほら、剣化したマグナスと同じ部屋の壁にでも飾っておけば、国難の時とかに私を起こして頼りに出来るかも、よ?」

「もう決心してて準備も終えてるのなら、口出しはしませんけど、子供達くらいにはちゃんと別れは告げてからにして下さいね」


 で、そのお別れの機会はちゃんと設けられた後。封印の場にはいくつかの居室というか展示室が増えていて、そこには母さんが描いたのだろう数百人分の人物画が掛けられていた。

 お見送りの見届け人としてか、人化したジグヴァーノさんやヴォックスさん、それから火の精霊のアーライ様まで来ていた。

「ゆっくり休むがいい。子孫達の事はそれとなく見守っていく」

「お疲れさま。私の子供達にもあなたの子供達の事はそれとなく護るよう伝えていくわ」

「うむ!まだまだ生きられるのに眠りにつこうとする心はあまり理解出来ぬが、退屈すれば起きてくればいい。わっはっは!」

「皆さんには助けられました。またご面倒かけてしまいますが、後の事はよろしくお願いします。アシュ・メも、あまり無理しなくていいからね?」

「無理ってのがどの程度の事を指してるか次第だけど、大きいのはもう片づいてるだろうから大丈夫だと思う。安心して眠ってていいからね?」

「ありがと。もしどうしても手に負えない何かが、特に神様絡みとかで起きたら、起こしてかまわないって、あなたの子孫に伝えていっていいからね」

「わかった。ありがとう、母さん。愛してるよ」

「・・・ありがとう。私もよ」


 それから母さんは、等身大の自分を描いた絵に歩み寄った。まるで豪勢な棺桶に納まって眠る自分を上から見下ろした様な大きな絵。

 最後に私の子供とその子供が駆け寄って抱きついて、抱きしめ返してくれた後、絵に触れて、姿を消した。絵に命というか存在が移し替えられたのだと分かった。

 ジグヴァーノさんやヴォックスさんやアーライさん達もいなくなった後、私は本当に眠っているよう見える母さんの絵に触れてつぶやいた。


「お疲れさま、お母さん。どうか安らか休まれて下さいね」


 そして私は娘とそのまた娘と、彼女が築いたグリフェへと戻っていった。彼女が築いた何かを守り、後世へと伝えていく為に。




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通読していただいた方はありがとうございました。

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続編的な物も書いてたりしますが、カクヨムだと反応が薄かったので、なろうの方だけで更新していくかも知れません。

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