エピソード:50 えぴろーぐ?2
挙手してきたおじさんの処置をキピュエル様にお願いして、それからまた一人から数人ずつ彼女の世界へと転送してもらっていき、残りは、クロっちと輝人だけになった。
ちなみに、風の大神の加護受けてた男子とその恋人や、水野舞と浦島次郎、火の大神の加護受けてた男子とその親友二人とかは、記憶を保った形での転移だった。アルゴニクスやキピュエル様とも相談の上だったけれどね、大丈夫そうだろうって事で。ただ、他の生徒達を探そうとは思わないよう意識下に設定してもらいはした。保険の為に。
「私は、残れないの?」
「無理な筆頭だよね、クロっちは」
「どんな強制とかかけてくれてもいいから、私は、アヤっちとここに残りたい」
「ダメ。あなたを見てると私はどうしてもこの戦いの事を思い出すし、あなたにされた事も思い出すだろうから。だからって記憶を改変したり削除したりもしたくないから」
「どうしても?」
「ダメ」
「じゃあ、記憶を保ったまま次の世界には行けるの?」
「クロっちはダメ。どうにか私の事思い出して、こっちに戻ってくる道を探そうとするんでしょ?」
「ばればれか」
「じゃあね、クロっち。向こうで元気に暮らしてね」
「待っ」
全然話したりない感じのまま、言葉を遮ってまで、クロっちの処置と転送をキピュエル様に頼んだ。良い様にしてもらえるだろう。
さて、これで残りは一人か。
「てっきり、黒田さんは最初に問答無用で転送するのかと思ってたよ」
「騒いでたりしたら、そうするつもりだったけどね」
「さて、言うまでもないけど」
「名前呼びしたらその瞬間に転送ね」
「・・・どうせここには残れないんだろ?」
「そうね」
「なら、どうして、ぼくを最期まで残してくれたの?こうして言葉を」
「あなたというよりは、私のお母さんとあなたのお母さんは友達だからね。そちらへの義理かしら」
「・・・もしかして」
「その想像には答えないから。考えるだけ無駄よ」
「じゃあ、聞かせて。もともと、綾華が叶えようとしてた願いについてだけど、一番好きだったキャラをこの世界に実現するつもりだったんじゃないの?」
「まあ、だいたいそんなところね。設定その他を完全に再現できないとかあったからあきらめたけど」
「あ・・、七瀬さんなら、あきらめないと思ってたけど」
「私というよりは、無縁な異世界に召還というか人格だけ転移してくるような感じになるし、ちょっと、キャラ的に酷かなぁと思っただけだよ。さて、他に何か言い残す事は?」
「リグルドさんやパージメさん、それからマグナスさんとかと」
「無い無い。そんくらいわかってるでしょ?」
「まあね。じゃあ最期にもう一度だけ告白させて。ぼく、伊藤輝人は七瀬綾華さんの事がずっと大好きでした。異世界に行っても」
「別の誰かと幸せになってね」
絶対にこの想いは捨てないとか言いそうだったから、キピュエル様に処置と転送を頼んだ。
この世界から、元の世界の同胞達が誰もいなくなってから、ようやく私は一息つけた。具体的には、その場にへたりこんで、長い長い吐息を吐いた。
心配してくれたらしいリグルドさん、パージメさん、マグナスさん達が声をかけてきてくれた。
「終わったのか?」
「とりあえずは、というところですね」
「これからどうされるのですか、綾華様?」
「パージメは、しばらく帝国で休んでていいよ。恋人にもしばらく会わせてあげられなかったし」
「お気遣いはありがたいのですが、これからどうされるおつもりなのかお聞かせ頂けないと国元からまたすぐに戻されてしまいます」
「どうしよっかな~。しばらくゆっくりしながら考えたいかな」
「先ほどの若者、あなたの知己なのでしょうが、配偶者は求めておられますか?地位や領地や財貨なども含め、帝国は支援を惜しまないと思われますが」
「そっちは自分で何とかできるから気にしてくれなくていいよ。お相手も特に求めてないしね」
「出過ぎた口を効いてしまい、申し訳ありません」
「まあ、帝国だけじゃないだろうけど、絶対に訊かれただろう質問だからかまわないよ」
パージメさんは上体を深く折り曲げてくれたが、気にしてなかった。帝国っていうか四大大国だけじゃなく、全ての領主や貴族とかも、死活事項的に気になって仕方が無いだろう。
「マグナスさんの時はどうだったんですか?」
「戦いの後どうしたかって意味なら、世界をさすらってた。俺をどうにかしようとしてきた国以外には特に関わろうとはしなかったし」
「つまり国とかいくつも潰してきたと?」
「そういう事もあったかも知れないな」
パージメさんは顔をひきつらせ、リグルドさんは苦笑いしていた。
「前回大戦は、国家の興亡とかにも大いに関わったみたいですしね。今回は今のところまで無くてすませましたけど、どうしようかな~」
「お前も言ってたように、しばらくゆっくりすればいいさ」
「リグルドさんはグリフォンの雛の世話がしたいだけでしょう?」
「それもある。が、お前がちゃんと落ち着くくらいまでは面倒みてやってもいいぞ?」
戦いが終わる直前にアルカストラによって休憩した際に、アンガスさん経由で領主様からその報を聞き、二羽?の雛を見に行き、支配下に置いたりした。生まれたての雛でもある程度は飛べるらしく、領主様の館は大混乱に陥ってたので、大変に感謝されたりもした。
「あの雛ちゃん達をどこで育てるかって話も絡むんですが、どこか適当な場所に居住地でも築こうかと」
「いいんじゃないのか。じゃあ、あのメジェド・グリフォンがいた峡谷とかか?」
「まだ漠然とした候補とかですけどね。人里からそこまで遠すぎもしませんし、グリフォンなら一っ飛びですし」
「・・・それは、中央大陸に居を構えるという事でしょうか?」
「あはは、そこを足がかりに世界征服でもされるんじゃないかとか心配してるなら、大丈夫だと思うよ。よほど酷いちょっかいとか出されない限り。東や南にはそんな気は無いだろうから、候補になるとしたら北か西かな」
「帝都にでも、もしくは帝国領のどこにでも、望むだけの領地を分譲する事は可能でしょう」
「あなた達に時々会いに行ければそのくらいでいいよ。面倒は増やしたくないしね」
「御意。では帝城の一角に綾華様の為の区画を設けましょう」
「うん、その程度でいいよ」
まあ、それからは骨休みの日々が続いた。
複製メジェ助の一頭をパージメさんに与えてしばしの里帰りを命じておいたり、アルカストラ領主ミルケーさんとムンバク領主アルテラさん達と一緒にルームエ王国国王イゥンジェルさんに拝謁して、特定領主が定められてないどこにでも自分の領地を構えても構わないと許可をもらったりとか。
あと、グラハムさんとオールジーさんを促して里帰りに付き合ったりとか。私の名前は当然知れ渡っていたので、ヴィクシル大公国の大公にも話をつけ、好き放題してたその弟を私の一存で処断したりね。
大公の抗議は、
「あ?
と脅して引き下がらせた。オールジーさんの実家の若当主(オールジーさんの兄)とすげ替えさせようかとも思ったけど、オールジーさんからも若当主側からも固持されて、周辺諸国のバランスからも今の大公が失脚すると中央大陸中央部が混乱に陥る可能性があると説得されて引き下がった。まぁ、大公国からオールジーさんの実家宛に多額の賠償金などを支払わせて、その半分以上がオールジーさん達のものになったけど。
その大半を私に納めようとしてきたけど、それじゃ単なる恐喝犯じゃないと断った。ただし、二人とも、私の新たに構える領地の家臣に取り立てる事を申し伝えたら快諾してくれた。信頼できる人を選抜して、居を構える辺りに移住してきてくれるよう手配もした。
南方諸島の海で青竜を狩ってまるごとアルカストラの武器屋青竜の牙の若旦那ルグドフさんにあげた。武器に使うような素材以外は防具屋蟲毒の糸のガルテラさんや、王都の商業ギルドマスターのナハザームさん達に引き取られていった。三人とも、私が新たな領地を構えるといったら、支店を構えるなり引っ越しを検討するとか言ってくれたが、まあ好きなようにしてもらおう。
時折四大大国にも顔見せに行ったりしつつ(南を除く三つの皇室なり王室からは王子級の誰かとの婚姻も提案されたがお断りしておいた。素で求婚してくれたのは第二王子ジュレインさんくらいだろうけど、恋愛どうこうってよりは、退屈しないで済みそうとかって趣だった。きっぱりお断りしておいたけど、後日ポルジア王室からの親善大使として私の構えた新領地に館を築いて居着いちゃったりしたのは余談。
主神を巡るあれこれが神様サイドで固まるまでは、暫定処置として私の得ていた加護スキルは特例措置として使えていたので、建築の神の力とかを最大限に使って、アルカストラから西に向かう街道からグリフォンの渓谷へと向かう道を新たに敷設。
新領地近くを流れる川の流れを少し変えたり支流や人造湖を造るのに土の大神の力も大活躍した。農業に適した土地造るのには農業の神様とか植物の神様の力とかね。
世界中あちこちからグリフォンの
領地としての体裁と実体を整えてる内に住民もアルカストラ他ルームエや他の国々からもだんだんと集まってきて、家臣の取り仕切りはグラハムさんとオールジーさんに任せ、兵団の仕切はリグルドさんに任せた。グリフォン騎士団を創設すると息巻いてがんばってくれている。まだ彼のグリフォンは幼すぎて乗れないのだけれど、日々成長する雛の世話の大半を自分自身で行ってくれている。もう一羽の雛のもついでに面倒見てくれたりしてるけど。(私にそんなに時間も熱意も無いのが大きい。誰がご主人様かはしっかり認識してくれてるので問題は無い)
あのお絵描きイベントの伝手などもあって絵描きさん達も少なくない。グリフォンに乗って空から絵を描くとか地図を作成するとかもやってくれている。複製グリ助達の商用利用で人口に対して過剰なくらい商人達がやってきて、長距離商取引の中心地になりつつもあった。商業の神様の加護は大して有効活用してるつもりは無いのだけどね。
町の規模や百人単位からすぐに千人単位を越え、拡張に次ぐ拡張を重ねて半年で五千人、一年も経たずに一万人に達する見込み。
町というか領地の名前は
役人とかは、いろんなところの貴族の次男次女以降とかが集まってきてくれて人手不足には陥る事は無かった。約束の神の力その他を使って、不正が働けない事は担保されてるのは面倒は少なかったけど、私の力がいつまで維持されるかも読めないので法的整備は急務であり続けた。まあ焦らず進めてと言ってあったし、それで当面問題無さそうだった。
中央大陸西方の国々がいろいろちょっかいかけてきたりしたけど、暇つぶしにあしらうくらいで済ませた。空を埋め尽くすくらいに
大戦が終わりグリフェを立ち上げて一年が経つ頃のある夜、リグルドさんが話しかけてきた。
「お疲れ、グリフェ公」
「お疲れさまです、兵団長。嫌みですか?」
「家臣連中はともかく、王国を名乗ったっていいのに、公爵でいいかとか適当に決めたのはお前さんだろうに」
「神様みたいに祭り上げようって連中がいましたからね」
「主神は、お前に加護を与えてくれた絵描きの神様になったんだろ?なら、一番つながりを持ってるお前が祭り上げられるのは不可避だな」
「世界中で一番の危険人物でもありますしね」
「それが事実でも、まぁ平和に過ごしてると言えるだろ」
「それで、本題は?」
「いや結局さ、お前が叶えた願いって何だったんだ?」
「同輩の生き残り達を別世界に送り込んだじゃないですか」
「それは面倒事を余所に押しつけただけだろ。あれがお前が願っていた事とは思えなかっただけだ」
まぁ、この世界で私に一番付き添ってきてくれた人の事だけはあって、私を良く見てくれていたのだろう。
「帝国の皇太子とパージメさん」
「その二人がどうした?」
「私の世界にあった、とある物語で、二人に似た登場人物がいるんですよ。はっきりとそういう仲としては描かれてはいないんですけどね。世界設定も、宇宙に広がる大帝国を舞台に展開するとかって違いもありますし」
「その物語が、その二人とどう・・・って、まさか」
「ええ。その登場人物の意識というか人格というか
「それは叶うものだったのかって、確認したんだっけか」
「ええ。私の望むカップル二人までは可能と判断されてました。帝国の皇太子ヒュー殿下とパージメさんに人格憑依というか上書きする事も可能だったみたいですが、二人の愛し合う様を見て、これはこのままで尊重するべきだなと思い、そちらの願いは取り止めました」
「お前に踏みとどまるだけの良識というか思いやりが残ってて何よりだよ」
「その物語の中で、皇太子役の人物は、最低辺の貴族で、その姉が皇帝の目にとまって寵妃として取り上げられてしまうところから、彼女を取り戻す為に軍人として身を立てていくんです。パージメさん役の人は、彼と彼の姉のご近所の少年で、ヒュー殿下役の人の親友ポジションで、その姉に淡い恋心を抱いていたかもって感じですね」
「たいした立身出世の物語だな。けっきょくその二人は姉を取り戻せたのか?」
「宇宙、まぁ夜空に広がる星々の中にはここと同じく人が住める星がいくつもというかたくさんあって、そんなのの集合体の超大国があって、帝国とはまた違う共和国みたいのと長年戦ってて、二人はそこで戦功を重ねて成り上がっていき、殿下の方は将軍の一人の地位にまでたどり着きます。まあ皇帝が病死して跡継ぎを巡る騒動の中で簒奪するような事になり、結果として取り戻せた感じですか。でも、その騒動の最期くらいに、親友の方は、殿下を庇って死んじゃうのですがね」
「悲恋か・・・」
「物語的にも、二人の人格的にも、その宇宙帝国の戦争云々を除けたとしても、その姉というのは欠かせない存在だったんです。だから、諦めました」
「二人までだったからか。危なかったんだな・・・」
「そうとも言えます」
「まあその願いを叶えてたらその二人が世界征服戦争を起こしてたかも知れないんだから回避できたのは何よりとして、じゃあ結局、お前は勝者としての願いをまだ保留してる状態なんじゃないのか?」
「大戦そのものを終えた後に神様同士というかでいろいろあって、半分くらいは生き残りを別世界に強制転移とかさせた事に使いました。で、グリフェに関わるような事には特に願いの力を使うまでも無かったので、どうしようかなと決めかねてる感じです」
「その残り半分で、どれくらいの願いなら叶えられるんだ?」
「元の世界に戻るとかくらいなら。ただ、こっちの世界のがずっと面白いし不自由もしないから、戻るつもりも無いけど、特に願いも無いんですよね」
「グリフェに関わるあれこれも今のところ全部順調と言えるしなぁ」
「リグルドさんは何か思いつきます?」
「んー、俺も特に何も不自由してないしな。ここでの給金も充分もらえてるし、グリフォン騎士団の創設と運用までは成し遂げたいけどな。育成したグリフォンの方で」
「複製の方は、私が死んだら消えちゃいますからね」
「不老不死とかはどうなんだ?」
「ずっと死なないとかも怖いんですよね。ずっと若いままとかってだけならともかく」
「家臣の連中からは、早く結婚して世継ぎをとせっついてきてるだろ?お前が死なないっていうならそういうのも無くなるんじゃないのか?」
「世継ぎ、ねぇ・・・」
関心無さそうだなコイツというリグルドさんの視線は、正しい。私には、恋愛感情みたいのが、欠落しているのだ。今のところ、そう想える誰かに出会っていないだけかも知れないのだけれど、焦るつもりもないし、義務感だけでそういう事をするつもりも無い。
リグルドさんとか、私に近いのかも。お互い、そういう感情を持ってないから、トラブルが起きようが無い。
でも、世継ぎ、跡継ぎか・・・。
そう考え込んでみて、閃いてしまった。私天才か?!と自画自賛してみて、ディルジア様にその願いを叶える事が可能か問い合わせてみて、何故か乗り気になったキピュエル様から可能だと連絡が来た。まだバカンス中らしい。おかげさまで神界は平穏無事なままだそうだ。約一名というか、一神を除いて。南無~
「世継ぎは、作ります!」
「おお、そうか。誰と?」
「私じゃなくて、あの二人で!」
「っておい、まさかとは思うが、そんな事に願いを使うのか?」
「ええ。どっちが産む役になるかはまだわかりませんが、少なくともパージメさんは乗り気になるでしょうし、最悪でも二人に拒否権はありませんから」
「・・・いろいろヒドいな、お前・・・」
「だいじょぶですよ。世間一般にはもちろん伏せて、私がどっかその辺で誰かとくっついて産んだ子供という扱いにしますから」
「でもよ、帝国の継承権とか」
「ふふふふふ、もちろんそんな物は発生させませんよ。当人達が望まない限り!」
「お家騒動まっしぐらだな・・・。グリフェも間違いなく巻き込まれるぞ?」
「私が生きてる間は帝国の介入とか無理でしょうし、私は基本ノータッチで、子供がそう望んだら、望む道に進ませますよ」
「物騒な事にするなよな。その子供がかわいそうだろ。お前の子供って位置づけの筈なら、最低限の責任と愛情を持って接しろ」
「だいじょうぶですよ。さっき話した物語で、主人公二人と敵サイドのもう一人の主人公も揃えますから。止めようとするのか助けようとするのか、それとも関わろうとしないのか、それもその子の好きにさせます」
「俺はお前をここで止められないのだろうか?」
「さあ、どうでしょう?」
ちょっと悪戯っぽい視線で見つめてみた。
すぐに眉間を指で弾かれた。いわゆるデコピンだ。
「何するんですか!?」
「大人をからかうもんじゃない。お前がその気になるのなら、相手くらいしてやるさ。ほぼ同類ぽいしな」
「・・・まぁ、互いにその気になったらで」
「それで構わんよ。じゃあな。あの二人にもあまり酷くしてやるなよ?」
「そうするかどうかは、最終的にあの二人次第ですからね」
リグルドさんは何かをあきらめたような視線で私を見つめて立ち去ってしまった。
まあいい。私は帝国に飛んで二人に会い、二人は、特にパージメさんがやはり大乗り気で、実現する事になった。やはり世間体的に、産むのはパージメさんの方になり、体型が変わってくる前に帝国から離れ、私のこさえた
神様の力ですからね。男性で妊娠出産なんて奇跡は余裕でした。同時期、ありばい作りって訳じゃないけど、私も姿を見せる機会を減らして基本的に旅に出てて、リグルドさんと一緒で、ついでって訳じゃないんだけど、何となく気が向いてしまい、どうせならって感じで、私も産んでしまった。
夫婦関係とかになるのは面倒なので、止めておいた。関係に強要されるみたいのが嫌だったのもある。世間的には、二人とも私の子供って事で公表された。ヒュー殿下とパージメさんの子供は、キルヒハルト。私とリグルドさんの子供は、ヤンと名付けた。両方、男の子。
キルヒハルトを見たヒュー殿下が俺も国を捨てる!とか言い出して騒動になりかけたりとか、二人が本当に双子なのか疑われたりとか、日々を退屈させない程度のイベントはちょこちょこ起こったけど、私は二人を平等に育てた。キルヒハルトの面倒はパージメさんがつきっきりで見ようとしてというか、乳児とか幼児にそこまでするかってくらい英才教育をしようとしたので時折取り上げたり、逆にヤンの面倒まで任せる時もあったけど、二人が五歳、七歳、十歳になるまで特別な事はしなかった。
大きくなっていったグリフェが、ルームエ王国や中央大陸西方諸国の国境に迫るくらいまでの広域をその版図として拡大するくらいに人口や国力は増え続けたりしたけど。
そして二人の十歳になってから、私は話した。私がどこから来て、どんな風に神々の大戦を勝ち残り、そしてその願いをどんな風に使い、二人が産まれるに至ったのかを。そして私がどんな期待をしているのかも伝えたけれど、最終的には二人に任せるとも伝えた。
ちなみに、五年前くらいにまた気が向いて、私はリグルドさんとの間に、娘を設けていた。その子はリグルドさんがアシュ・メ(平和の子という意味らしい)と名付け、キルヒハルトもヤンも妹を溺愛した。私が、グリフェは彼女に譲るつもりだと言っても、何の反対もしなかった。
キルヒハルトの方には、パージメさんとヒュー殿下(実際にはその一年前くらいに即位して陛下になってたけど)が、彼が望むのなら皇太子の座を賭けた争奪戦に参加させると説得していた。ヒュー殿下にはその頃までに計十人の他の子供がいて、どれも粒ぞろいだけどキルヒハルトが一番の出来だと、パージメさんもヒュー殿下も激推ししていた。
ただ、肝心のキルヒハルトの方が乗り気ではなかった。アシュ・メと離ればなれになりたくないと。なら一緒に彼女も皇室に、とパージメさん達に言われたが、そんな物騒なところに彼女を近づけたくないとすげなく断られていた。
私は見守るだけで説得には加わらなかった。
そしてグリフェにはディルジエの大神殿が建てられるなどさらに国力を高めつつさらに五年の時が経ち、キルヒハルトとヤンは十五歳で成人を迎えたが、跡継ぎは十歳を迎えたアシュ・メと発表した。
ヒュー陛下とパージメさんは、いろいろ裏で策動してキルヒハル○を唆し、西方諸国を手始めに中央大陸を手中に納めさせ、その功績を持って次代皇帝の座に~とか狙ってたけど放っておいた。唆されてる本人が乗り気じゃなくて、私から二人に止めるよう説得してくれと頼まれたりもしたんだけどね。
ただ、そろそろヤンやキルヒハルトにも婚約者を~とかって上がってくる頃になって、ラングロイド帝国の皇太子の座争いが本格化してきた。というのも、成人する子供が複数いるのに、まだ自身が若いという事もあってか後継者たる皇太子をヒュー陛下が指名しようとしなかったから。
ヒュー陛下の姉の子供なども混じってそれは激しい政争が起き、何人もが倒れてもヒュー陛下は止めようとはしなかった。ただ、己が皇帝の座にふさわしい事を示せとか言ってさらに煽り立てたりはしてた。
グリフェは、中央大陸西方諸国で起きてた領地争いとか継承権争いとかが絡まったものに巻き込まれ、どこもグリフェの助力を求めてきて面倒になったので、等しく平定して争いを収拾した。
ちょうど三つ巴の戦いだったので、中央の国をアシュ・メに、北側の国をキルヒハルトに、南側の国をヤンにそれぞれ与えた。総督みたいな立場を三人に任せる感じで。アシュ・メの所だけはグリフェ直轄地みたいな扱いにして、北と南の二人には、好きにする様に伝えた。
まだ十代半ばの子供なぞ何するものぞと旧領の貴族が周辺他国の助けなどを借りて反乱とかを起こすとそれを平定するという感じで、キルヒハルトは北回りで、ヤンは南回りで版図を広げていった。ヤンはどちらかというと争いごとに及び腰ではあったものの、北の大国の血を継ぐというか後継に望まれているキルヒハルトが力を持ちすぎるのはよろしくないので、アシュ・メを守る為にも自分ががんばらねば、という形で自分に発破をかけていた。
私?私はほぼ非介入でしたよ?子供の自主性は尊重しつつ、三人を表裏様々な手段で排除しようとする勢力の介入などをはねのけたりしてたくらいで。その介入元は、西や南の大国とかが大半だった。中央大陸が私に呑み込まれるのを避ける為というのが名目だったみたい。
北のは逆に義兵団みたいなの送ってくるのは止めるようにヒュー陛下やパージメさんを制止してるくらいだった。二人とも、私が支配してなかったら、とっくに二人の間の子供の事を公表して皇太子の座に据えてただろう。
そしてアシュ・メが成人を迎える五年後までに、その二人の兄は中央大陸の大半の国々を落としてしまっていた。子供の頃からの英才教育の成果とも言えるだろう。ヒュー殿下もそうだが、パージメさんは誇らしそうにキルヒハルトやヤンを褒めていた。
ルームエ王国みたいな友邦には手を出してなかったし、東や北の大国との関係は良好なままだったから、西と南の大国は焦りを募らせていた。全ての工作は潰されるか裏目に出てたし。
アシュ・メには各大国から縁談が持ち込まれてたし、キルヒハルトには北から、ヤンには西から縁談があったけど、ヒュー陛下やパージメさんからは私に、キルヒハルトの出自を明らかにしてアシュ・メと娶せ、彼を次代の皇帝にという強い要請が私にあったけど、アシュ・メにも相談してみた上で、断った。
彼女いわく、
「キルヒハルト兄様は素敵だと思うし好きだけど、そういう相手として見てなかったし、これからも見られないかな」
という事で。ただ、この答えに一番ショックを受けてたのは策動してた二人ではなく、キルヒハルト本人だった。
私としては、婚約者とか特に決める必要無いし、結婚とか子供産む産まないも好きにしたらいいと彼女に伝えたし、彼女も好きにするとの事。
で、彼女のもう一人の兄、ヤンは、アシュ・メにふられたキルヒハルトが、
ナコナ姫の工王継承順位は最下位の十位だったが、現工王のイリュシュカは、二人の間に子供が産まれればその子に工王位を譲ると言明。こちらでも後継者争いが勃発した。
キルヒハルトは、ヒュー陛下の姉君ペリシュエルの長女ミュエルウェだけでなく、ヒュー陛下の末娘コポルビアともう一人の娘にも粉をかけ、後継者争いを更に激化させた。
ヤンはエイキアのナコナ姫と関係を深め、後継順位一位から三位のナコナの兄や姉達などの危機感を募らせ、ほぼ自滅させていった。
そんなこんなな三年間が過ぎる内に、キルヒハルトとその相手達はラングロイド帝国の、ヤンはナコナ姫とエイキア工国の次代を担うポジションにつけていた。
私?リグルドさんとかにも度々疑われたけど、私は口出ししてない。子供達の自主性に任せていた。アシュ・メの相談には乗ってたけどね。兄二人の暴走は止められないとして、自分はどうすべきかと。兄二人にも言ってた通り、好きにすればいいと伝えたら、ポルジア王になってた兄王子さんの長子(まだ13歳)と婚約を決めてきた。彼の成人を待って結婚すると。嫁に行くのではなく、婿に来てもらう形で。
こうなると焦るのは孤立無援状態の南の大国。ユーツエル連邦共和国を構成する国々は、端の領域の国から段々とグリフェの傘下へと連邦から離脱。
アシュ・メが結婚する頃にはウォルパール魚人王国を除くユーツエル連邦共和国そのものが恭順を誓ってきて、グリフェは大戦争を起こす事なく、ほぼほぼ四大国に対して主導権を握った形になった。
キルヒハルトは結局婚約者以外にも粉かけてた相手全員と結婚してそれ以外の後継者候補を排除して、実質的な帝国後継者になったし、ヤンはナコナ姫と結婚して子供も産まれ、ナコナ姫とエイキア工国を共同統治してる感じだった。
そんな兄二人が妹の下につき、妹はポルジアから現王の長子を婿に迎えたので、気の早い歴史家達は、グリフェ第一王朝を私が子供達を使って築かせた事になっていた。神々の大戦を勝ち抜き終わらせた女傑でもある神帝アヤカとか。好きに呼んでくれ。子供達には本当に好きにさせてただけだから。
子供達も成人したし結婚したしグリフェも隆盛の極みに達しようとしていたし、これくらいでいいかなと思えた。
マグナスさんは役割を果たして眠りにつく事を望んでたけど、私へのお礼として、将来の不測の事態への備えとして、神切剣の姿で国の宝剣として、とある場所に封印させてもらった。アシュ・メにだけ場所と封印の解き方を伝えておいた。二人の兄が世界を巻き込む戦争起こしても、マグナスさん一人だけでもどうにでも出来ちゃうしね。
私?私はいつ終わってもいいかなぁとぼんやり過ごしてきた。グリフェは発展し過ぎなくらい順調に育ち続けていたし、子供達も好き勝手にすくすく育ってくれた。
私という
さて、後は、どう終わるかだけなんだけどなぁ、どうしよ・・・?
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