第4話

君の街、そう呼んで

それ以外には目もくれてなかった街。

駅前の小さなロータリーも

雰囲気の良さそうな喫茶店も

遊具がたくさんある公園も

見慣れていたが知らないも同然だった。

唐突に僕は怖くなってきた。

君の街、そう呼んで

それ以外には目もくれてなかった僕に。

今朝、君の幻を見た。

それだけで仕事も無責任に投げ出して

君の都合も考えずにここまで来た事。

何か一つに目測を合わせてしまうと

他の事が疎かになってしまう。

僕はこんなにも身勝手だった。

写真のあの目がどうしてあんなに寂しげか

僕はようやく理解した。

あの頃のままの僕が今、君に会って

見せれる僕がいるのだろうか?

僕は初めて駅前の喫茶店に入って

エビピラフを注文した。

満たされてしまえば空腹も

こんなもんかと笑えてきた。

君の街、だけどそれだけじゃない。

今日という日、朝からの衝動。

馬鹿げた逃避先に選ばれた君。

君にはまだ会えそうもないけど

会うよりも何倍も君と会話をした。

そんな気になれた。それでよかった。

神様、店を出た僕は少しだけ

かっこよくなったかもしれないよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

衝動の名前 エタノールと濁ったミルク @syrup_no_kaori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る