13-2.【事例10】「裁判所」のゲーム2

 さて、この話は【事例7】と同じ、裁判所のゲームです。


 【事例7】では、会社の中で「私が工事費を横領している」という無茶苦茶な噂を流されましたが、この【事例10】では「うつ病にかかっている」 という、いかにもありそうな噂である点が異なっています。しかし、陰湿な中傷である点は変わりません。


 しかし、なぜ、この【事例10】が裁判所のゲームだと判断できるのでしょうか?


 仮にもし、私が本当にうつ病だったとします。それは極めて重要な個人情報になりますので、うつ病だという事実は会社では厳重に機密として管理されることになります。このため、会社の中の多くの人間が知っている、すなわち、安易に噂をするという事態は、そもそもありえないのです。


 私の個人情報には関係のない多くの人間が、厳密に管理されているはずの重要な個人情報を安易に口にしているという事実が、この事例がゲームを仕掛けられている何よりの証拠なのです。そして、その内容は、精神的な病だという陰湿な噂です。【事例7】と同様にこの【事例10】でも、本人の知らないところで、その人のマイナスになる、あるいは致命傷になるといった噂を流すことで、首謀者は陰に隠れて、その人を攻撃しているというわけです。


 【事例7】でも述べましたように、この「裁判所」というゲームでは、裁判官役(陰に隠れている首謀者)の裁定(流した噂)が絶対的権威を持ちますので、裁判官役の裁定に不服を唱えようとすれば、もう一人裁判官役を見つけてきて「裁判」をやり直すしかありません。


 ただ、【事例7】では、工事費の横領という特殊な噂でしたので、私は何もせず、噂が消えるのを待ちました。工事費横領などということは、誰でもが行う、あるいはできるというものではありません。このため、時間がたてば、つまりその間、会社の収支に問題がないことが明らかになれば、自然に噂は消えるものと判断したわけです。


 しかし、この【事例10】のうつ病というのは誰でもがかかる可能性がある病気です。このため、この噂は時間がたっても消えないと私は考えました。その証拠に、石田さんが口にする以前から、私は「君は、うつ病なんだってね」と何度か言われたことがあったのです。うつ病の噂は相当昔から流布されていたに違いありません。そこで、私は、【事例7】とはまったく異なった、思い切った作戦を実行することにしました。すなわち、もう一人裁判官役を見つけてきて「裁判」をやり直したのです。


 私は会社の産業医の先生のところに行き「実は、このような噂を立てられて困っています。ついては専門の医師に私がうつ病かどうか診察をしていただきたいのです」とお願いをしたのです。産業医の先生は非常に驚かれました。おそらく、こんな依頼をしに来た人間は私が初めてだったと思います。


 しかし、産業医の先生は私に理解を示してくれて、会社の近くにある大きな大学病院の精神科の先生に紹介状を書いてくれました。そして、私はその紹介状を持ってその病院に、うつ病かどうかの診察を受けに行ったのです。


 その時のことは、いまでも鮮明に覚えています。待合室で待っていると名前を呼ばれたので、診察室に向かいました。そして、ドアを開けて、中で待っている医師の前に歩いていき、椅子に座りました。


 「先生、実は・・」と言いかけると、その医師はすでに紹介状を読んでいて、私が何の目的でここに来たかを知っていたようで、すぐさまこう言ったのです。


 「あなたは、うつ病ではありません」


 私は驚いて、問い返しました。


 「先生。どうしてそんな事がわかるんですか。僕はまだ診察を受けていませんよ」


  「診察しなくても、ドアを開けて歩いてくる様子やしゃべり方を見ただけで分かります」


 そして、医師は私がなぜうつ病でないと判断できるのかを詳しく説明してくれました。医師の説明は、ここでは省かせていただきます。読者の中には、現在うつ病で苦しんでおられる方、また、過去に苦しんでおられた方も多数いらっしゃると思いますので。私は自分が、うつ病でなかったことを自慢する気はまったくありません。私も、うつ病の方の苦しみはよく分かっているつもりです。


 話を戻しましょう。


 この医師の診断の後でも、私は何度か「君はうつ病なんだってね」と言われることがありました。そして、その都度、私はこう答えることにしたのです。


 「そうなんですよ。実は、みんながそんな噂をするので心配になって、専門のお医者さんに診てもらったんですが、あなたはうつ病ではないとはっきり言われました」


 そのうち、何年かたつと、もう「君はうつ病なんだってね」と言われることはなくなりました。


 この「裁判所」のゲームは非常に厄介です。私自身がそうだったように、ゲームを仕掛けられていることに、仕掛けられた本人自身が気づかないことも多いのです。

 しかし、もし、あなたがゲームを仕掛けられていることに気付いたなら、そうではないという明確な証拠を作り上げて、はっきりと反論することも大切です。


 あなたは大丈夫ですか? あなたは気づいていませんが、誰かに「裁判所」のゲームを仕掛けられていませんか?


 「裁判所」のゲームの対処法2

 噂に対して、そうではないという明確な証拠を集めて、はっきりと反論することも有効。すなわち裁判のやり直しを行う。

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ゲーム分析の勧めー迷惑人間の取扱説明書ー 永嶋良一 @azuki-takuan

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