最後の絵描きの夢

土蛇 尚

この人の夢、僕の夢

 崩れた廃墟から僕が掘り出した本は、絵描きの日記だった。人が沢山いた時代、何十億も人がいた時代を生きたその絵描きは、日記に自分の夢を遺した。


「全ての人に自分の描いた絵を見てもらう」


 彼か彼女かそれとも人工知能かはわからないけれど、すごい野望だと思った。その夢を自分で叶えられたのかはもう分からない。きっとダメだったんだろう。


 でも僕だったらその夢を代わりに叶えてあげられるかもしれない。


 だってもう人は100人しかいないのだから。世界はとんでもなく壊れて人はどんどん減ってもう100人しかいない。それが僕の生きる世界。




 その日から絵を描き始めた。最初に飼ってた犬に見せた。


「ワン!」って言われた。残り99人。


 次に見せたのはお父さんとお母さん。


「うまいね」「次も書いて」と言われた。残り97人。


 嬉しくなってどんどん描く。コロニーのみんなに見せて行く。91人。87人。73人。

 どんどん描く。見せるようになってから、色々な褒め方をされるようになったけど、僕を支えたのはお父さんとお母さんの「うまいね」と「次も書いて」だった。

 僕以外に子供はいなかったから犬の「ワン」も支えだった。


 だけど53人。47人。人類の半分に見てもらったあたりから嬉しいだけじゃなくなる。


「もっと別の物を描いてほしい」


「もっと明るいのは描けないの」


「こんな絵を描くな」


 そんな風に言われる。でもやめない。32人。12人。5人。そうやって僕は、遂にあの絵描きの夢を代わりに叶える。描いた絵を全ての人類に見てもらえた。




 僕は滅びを描いている。描く絵は全部暗い絵。もう人が100人しかいない世界で最後の子供が滅びを描く。僕の次に若い女の人が僕のお母さんだからもう絶滅する未来は変わらない。

 そんな世界で最後の子供が滅びを描き続ける事に耐えられない人もいる。


 だけど僕はやめない。


 あの絵描きの夢「全ての人に見てもらう」は叶えた。だから僕は自分の夢を決めた。


 僕の夢は、僕が絵を最後に滅ぼす事。




終わり。

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