【3人用台本】余計なお世話

しんえん君

余計なお世話(1:1:1)

【諸注意等】


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アドリブ、細部の改変、性別の変更などは可能です。



【本作の読み方】


・ダークな作品ですので、苦手な方は閲覧をご遠慮ください。

・死神は少し長いセリフがあります。



【登場人物】 

(役表)

兄 男:

妹 女:

死神 不問:



兄 男性 

入院している。いつ死ぬかおかしくない容態。

荒い口調で話すが、家族思いで自分に価値を見いだせない。明日死ぬ。



妹 女性

兄の御見舞いに来た。兄と似て口は悪いが、兄を心配している。兄と2歳差。強がり。



死神 性別不問

人間が好きで、ついつい余計な事をする。例えば前もって死を知らせるだとか。一人称は私と表記してありますが、わたしと読んでもわたくしと読んでも良いかと。






【本文】



病院の一室。

入院中の兄と、見舞いに来た妹。



兄「夢を見た。俺はもう死ぬんだと。」


妹「まさか、そんな夢を真に受けたの?」


兄「ただの夢じゃなかった。異常なぐらいハッキリしてた。明日だ、明日死ぬんだ。」


妹「冗談でも死ぬとか言わないで。それとも、本当は死にたいわけ?」


兄「ああ、どうせなら、血反吐でも吐いて派手に死にたいね。」


妹「勝手にそんなことを言わないで。」


兄「勝手に?俺の話をしているんだぞ?」


妹「あたし達がどんなに兄さんに生きて欲しいか。わからないの?」


兄「解ってるさ。いつだって俺より俺の事を考えて、いちいち一喜一憂して。」


妹「当たり前でしょ、家族なんだから。」


兄「嫌なんだよ。俺のせいでお前らが悲しんだり苦しんだりして、時間を無駄にするのなんか見たくない。」



妹、兄の発言に思わず立ち上がり。



妹「無駄なんかじゃない。兄さんが生きてさえくれれば、何も無駄にならないでしょ。なのに死にたいとか……」


兄「俺の勝手だろ。」


妹「確かに兄さんの容態ようだいは良くない。病魔びょうまむしばまれて……そう、そうよ。だからそんな夢を見るの。無理もない、疲れてるのよ。」


兄「もう帰れよ。お前の顔なんか見たくない。さっさと帰って、もう忘れちまえよ。俺の事なんか。」


死神「おやおや、いいんですか。貴方達が会えるのはきっともう最後になるというのに。」




死神、元々そこに居たという様子で、兄のベットを挟んで妹の対角に立っている。




妹「な、なに、あんた。いつから、誰よ。」


兄「お前、夢に出てきた……」




兄、自分の発言に確信が持てず言葉が途切れる。


 


死神「おや、私の事を覚えておいでですか。光栄な事です。多くの人は夢の様に忘れてしまう。

折角せっかく、前もってご挨拶に伺っているのに。」


妹「なんなの、何の話?あたしがおかしくなっちゃったの?あんた達がおかしいの?」


兄「皆だ。皆おかしいんだよ。ははっ。なぁ、死ぬ前の余興よきょうには最高だな。今までの楽しい事なんか、もう全部忘れちまった。」


妹「何笑ってるの、何言ってるの。わけわかんない。ただ兄さんの御見舞おみまいに来ただけなのに。なんで……


死神「なんで、こんな事になっているの。ですか?具体的には、兄が自分の死を悟り、見知らぬ者に兄妹の語らいを邪魔された。ここは静かな病院の一室の筈。それなのに、その筈だったのに。」


兄「まて、ここ何処どこだ。」




見回すと一見、ただの病室に居るようだ。




妹「は?え、兄さんの病室、だけど」


死神「不思議ですね。確かに、貴方方のベッドも椅子も、このカーテンも病室のもの。

だけどこの窓の外、カーテンの隙間から漏れる光は、病室のそれでは無いようですね。

どうやらここは、私が作り出した都合のいい空間のようだ。」


兄「お前、本当に死神か?」


死神「その問には“はい”とお答えしますよ。」


妹「ああ、ほんとに皆、頭がやられちゃったんだ。」


死神「私もですか?」


妹「うるさいわね。ああ、もう。何が起きてるの?」


死神「今更、状況の把握をはかろうと言うのですか?少々遅いのでは無いでしょうかね。」


兄「あーー、ごちゃごちゃ人の考えを乱す様なことを言いやがって。お前黙ってろよ。

此処ここはなんだ?お前は何がしたい?」


死神「   」


妹「黙ってろよ、とか言うから。」


兄「ニヤニヤしてんじゃねぇよ。」(死神に対し)


死神「黙れと言う要望と、その後の問と、どちらを優先すべきなのか考えてしまいました。」


兄「お前もニヤニヤしてんじゃねぇ。」(妹に対し)


妹「で、なんだっけ」


兄「わかんねぇ、頭痛ぇ。もうやめたい」


死神「何をでしょう?」


兄「お前との会話だよ。」


死神「   」


妹「ああもう。やめたいって言うから正直にやめちゃったじゃない。」


死神「あの、喋ってもよろしいですか?」


兄「喋れ。もう俺の言うこと聞かなくていいから。かく、お前がなにをしたいのか教えろ。」


妹「進まないよ。言う事聞かなくていいって言ってから指示したってなんにも進まないよ。」 


兄「うるせぇな、もうわけわかんねぇんだよ。」


妹「もう疲れたよ。疲れちゃって、打破だはしなきゃいけない環境に諦め始めたよ。どうしたらいいんだよもう。」


死神「代わりに状況を整理して差し上げましょうか?」


妹「全部説明してくれるの?」


死神「先ず、貴男は明日死にます。その事は昨晩私がお伝えしました。

そして、その事実に貴男はホッとしましたね。

れで全てが終わるのだと。

貴男は治療にかかるお金も、自分のせいで不安定になるご家族の事も気にされていましたから。

だが、貴男はそれをあろうことか妹である、貴男を心配しているご家族の一人である、貴女に漏らしてしまった。

貴女は、お兄様に生きて欲しいのに、ご本人はそれを望まなかった。その食い違いに苛立いらだち、互いに追い詰められていた為、喧嘩に発展致しました。」


妹「そこまでは良いの。その先。貴方が何故ここに居るのかを説明して。」


死神「おや、説明が必要なのはそこでしたか。

 私がここに居る理由。

 それは、思い合う貴方方の素晴らしい絆を間近で見たかったからです。」


兄「あ?気持ちわりぃ」


死神「私が人間にもたらす事ができるのは“死”のみですが、私はなにも人間が嫌いなわけでは無いのです。ただその使命があるからやむなく執行しているだけなのです。」


妹「ああそうですか、ならしかたない。なんて、なるわけ無いでしょ?」


死神「それは此方こちらも同じです。貴方方がどんなに死をとんでも、私達は辞めることはできない。」


兄「じゃあさっさと殺せよ。」


死神「せっかちな方ですね。運命は決まっていますから、焦らずとも明日。明朝みょうちょう死にます。貴男は、涙を流して死にます。」


妹「わざわざそんなこと言いに来たの?」


死神「ですから私は、素晴らしい絆を……


妹「見世物じゃないの。馬鹿にしないで。あんたの娯楽の為に生きてる訳じゃない。」


兄「もう帰ってくれ。」


妹「そうよ。元の場所に戻して。二人きりにして。」


死神「わかりました。残念ですが、ご不快な思いをさせてすみませんでした。」


兄「違う。一人にしてくれ。お前も、二人とも失せろ。」


妹「もしかして怖いの?本当は。強がってるんでしょ。もういいじゃん。最期なんだから素直になりなよ。

私達、すごく仲良かったわけじゃないけど、家族でしょ?弱いとこだって見せていいんだよ。」


兄「うるせぇな。もう死ぬんだよ。今更何したって意味ねぇだろ。」


死神「お優しい方ですね。」


兄「引っ込んでろ」


妹「帰ってって言ってるでしょ」


死神「もうこの世を去るというのに。自分が嫌われれば、家族を悲しませずにすむとお思いなのですか?」


妹「え。」


兄「黙れ。」


死神「しかし、それこそ今更でしょう。

貴男は口調も荒い、頭も良くない。身体は貧弱だ。

だがしかし、とてもお優しい。

自己肯定感が低いだけかもしれませんが、積極的に自己犠牲を払おうとする。自分がどう思われても、家族が早く自分の死から立ち直って前を向けるなら、それでいいと。」


兄「黙れって言ってんだよ。」


妹「”もう俺の言うことを聞かなくていいから”

兄さん、さっきそう言ってた。」


死神「ええ。ですから私のしたいように振る舞わせて頂きました。ふふ。少々意地悪でしたか?」


兄「もう、帰れ。二人にしてくれ。」


死神「それでは明日。お迎えに上がります。」




死神、姿を消す。




兄「父さんと母さんには、黙ってろよ。」


妹「うん。きっと言ったら怒る。あたしみたいに。」


兄「医者に怒られるだろうが、今晩くらいは美味いもの食いたいな。」


妹「皆で夕飯食べよう。兄さんはそんなに食べられないかもしれないけど、せめて好きなもの食べに行こうよ。」


兄「抜け出すのか?」


妹「今更どうなったっていいじゃん。」





(間)





死神「さて、彼の死因は交通事故ですか。明朝みょうちょう、病院に戻る車で後続車に追突される。

後部座席に乗っていた彼は、病気でもろくなった骨が折れ、治療の為の手術を受ける体力は残っておらず……

さぞ、楽しいでしょうね。家族との最後の晩餐ばんさんは。

もう、病室へは帰りたくない程に。」





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