運命の人
尾八原ジュージ
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朝、家の前で出くわした占い師が「今日運命の人に会いますよ」と言った。
どんな人ですかと尋ねると、出会った瞬間にわかりますと言われた。
「あなたはまだその人に気づいていないけれど、その人はずっと前からあなたのことを見ています。それが運命の人というものです」
そういうものなのかと思いながら、わたしは駅に向かった。
休日の朝なのに、駅にはたくさんの人がいた。わたしは本来の用事も忘れて、闇雲に電車に乗り込んだ。そして、(運命の人にはどこで会えるんだろう)と思いながら電車に揺られていった。
もしかするとその人も、わたしを探してどこかで電車に乗っているかもしれない。すでにどこかの駅で降りたかもしれない。わたしのことをずっと前から見ている人ならば、わたしがよく使う駅にいるかもしれない。
そう思ったわたしは電車を乗り換え、会社の最寄り駅に向かった。改札の前で一時間待ったが、運命の人らしき人は現れなかった。よく行くカフェにいるかもしれないと思ってコーヒーを飲みにいったが、そこにもいなかった。
休業日の会社の前で一時間待った。誰もこ来なかった。別の場所にいるかもしれないと思ったので、自宅の最寄り駅に戻ってまた改札の前で一時間待った。運命の人は現れなかった。
でも今日はまだ終わっていない。
その人はわたしがよく行く本屋にいるかもしれない。喫茶店にいるかもしれない。スーパーにいるかもしれない。
どうしても運命の人に会いたくて、わたしはあちこちに移動した。でも全然それらしき人には出会えず、そのうちに日が暮れてしまった。わたしはレストランに行った。また電車にのって別の駅に行き、繁華街を歩き回った。バーに行って、また駅に戻って、でも運命の人はどこにもいなかった。
結局、わたしは疲れた足を引きずってアパートに帰った。部屋の中は当然無人だった。靴を脱ぎ捨て、コートのままベッドに寝転んで目を閉じた。
あと十分もしないうちに今日が終わってしまう。
へとへとに疲れていたし、運命の人に出会えなかったので泣きそうだった。今度占い師に出会ったら文句を言ってやろう、そして運命の人について、もっと詳しいことを教えてもらおうと思った。占い師ならきっとわかるだろう。
そう考えてふと瞼を開いたその時、心臓がトクンと鳴った。
ベッドに寝転んで見上げた先の天井に、人の形の染みができていた。いつからあったものなのだろう。今まで気づかなかったのに、一度気づいてしまうとそれは見れば見るほど人間に見えた。両腕を広げてこちらに向かってくるような形をしていた。真上にある顔らしき部分の一部とわたしの目が、確かにぴたりと合った。
そのとき、運命の人は出会った瞬間にわかるのだ、ということがよくわかった。
運命の人 尾八原ジュージ @zi-yon
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