第2話 女王様とうさぎの老兵



 お城が壊れた事が、女王様の耳に届いたらしい。

 彼女は旅が好きで、今もどこかへ出かけている。色んな国の言葉が話せる女王様はどんな人とでも仲良くなれるそうだ。


 彼女はよく、私の事を可哀そう・・・・だという。

 私が城を守る事しか知らないから、私が言葉を知らないから。

 たびたび彼女は、唄うようにして外の話を聞かせてくれた。私にとってそれらは、楽しい話もあったけれど、不快な話の方が多かった。


 「女王様は、どうしてそんなに旅がお好きなんですか?」

 いつだったか。

 同僚がたずねると、女王様はうつむいて、今にも泣きそうにまつげを震わせた。

 「わたしはとても住み心地の悪い国に生まれたの。でも、平気だったわ。どんなに苦しい時でも助けてくれる友達がいたもの。彼らのおかげで、わたしはこの城を建てる事も出来た」


 (――…。)

 なんだろう。

 私の口の中が砂があって、ずっとジャリジャリしているような、そんな気分になったものだ。


 城を守る私からしてみれば、彼女の友人は誰も彼も、土足で城へ上がってくる客人だった。私が大切にしている物に触れるだけ触れて、散らかして帰って行く客人だった。


 女王様だって、何度も物を壊されたのに。


 それでも彼女は旅に出る。懲りずに友達を作って、楽しいと笑う。私から見れば、彼女はずっと不思議だった。


 彼女は、留守の間にどんどん城が傾いている事に、本当に気が付かないのだろうか。隙間風が吹き込む箇所が増えている事を知らないのだろうか。私や同僚がせっせと城を繕っている事に、どうして気が付かないのか。


 私には。

 私のどこか可哀そう・・・・で、彼女のどこが可哀そうでない・・・・・・・のか、その違いが、今でも分からない。



 

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老兵うさぎは人間には勝てないのか へびはら @hiori1224

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