うるう年の傷

藤崎瑛太

第1話

あぁ、そっか今年はうるう年だ。

月初めにカレンダーをめくる。1月の日付が並んだ一枚の紙が耳に心地良い音と共に残りの11カ月から離れていく。

この瞬間が幼い頃の私は好きだったのか、母がカレンダーをめくるとよく怒った。

「それは俺の役目だったのに!」「ごめんごめん、来月はお願いね」

あの頃のカレンダーは母の字で賑わっていた。学生になり、一人暮らしを始めたいま、特に書くこともないのに壁掛けカレンダーを部屋の端に飾る必要があるのか時に自問自答するが、必要だからかけているのではない。めくるためにかけている。

そういうことにした。


28日後、この一枚の光沢のある厚い紙は役目を終えてメモ帳となるのだろう。

1月のページはついさっき割ったグラスを包む仕事がある。




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うるう年の傷 藤崎瑛太 @huzisakieita

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