第3話 つながらない点と点
「本人はあんな態度だったけど、本音じゃ不安なのよ」
と京町七海。
「でも、ちょっと出しゃばりすぎじゃない。私たちが無理強いしてるみたいでカッコ悪かったかも」
「でも、心配なんだよ。友達だから」
「トモ……ダチ……?」
「ダメだ。葵ちゃんには刺激が強すぎて、初期化しちゃったよ」
「なんだよー。アオイってば自分から壁作っておいて、しっかり友達欲しい人だったんか。だったら、私が今すぐ友達になっちゃるよ」
友達だからとか、よくもまぁ恥ずかしげもなく言えるものだわね。これだから、陽キャって奴は救いがないのよ。
「ねぇ、京町さん。私の友達にもなってもらえますか?」
「ちょ、まっ!」
セイラ、いきなり裏切ってるんじゃないわよぉ。
「もちろん、OKだよ。てか、もう友達だから」
じゃれ合う二人。別に構いませんけどね。
「てへへ。小学生の頃の葵ちゃんのこと、色々聞いちゃおっと」
「ああん、この小悪魔めい。外堀から埋めていくつもりね。大阪の陣のとき見たやつー」
「とりあえず、今度小学校の卒アル一緒に見ようねー」
京町七海はそういいながらセイラの手を握り、同時に私の顔を覗き込む。
いやいや、これは何だかマズイ展開ですぞ。
◇
というわけでそのまま、第1の被害者の家に向かった私たち。
団地からは徒歩で15分ほど、町はずれのまだ田や畑が残っている地域だった。
土塀に囲まれた立派な佇まい。ただ、栄えているというよりは、時代に取り残された印象を受ける、古び傷んだ建物だった。立派な門扉に郵便受けは備え付けられていた。すっかり錆び付いたレトロなブリキ製。蓋には後付けのダイヤル錠があったが、無理矢理に蓋と本体を歪ませた中身を取り出したようだ。随分と手荒な手口で、そこは真白の件と共通している。
「1時ころには郵便局の配達があったらしい。郵便受けは空っぽだったから、たぶんそのすぐ後くらいにやられたんだろうって、そんな話だったぜ」
と、岩戸照也。20台半ばくらいの若者で、丸みを帯びたシルエットをした、短髪にメガネの目立たない感じの男性だ。私たちの7つ上の先輩ということになるらしい。
「二時ころには母親が確認して、郵便受けが壊れてるのに気づいたんだと。すぐに郵便局に連絡して、その後に警察に連絡したっぽい」
周囲は田んぼ。それも門扉は陰になる位置にあるので、周囲に人影はない。昼でも、人の出入りがある葵の団地とは大違いだった。ここなら郵便受けを人知れずに壊すことは容易だろう。
「郵便物は見つかったんですか?」
「それが近くの河川敷に投棄されてたみたいでさ、ほとんど風に飛ばされちまってたんだってよ。うちは三世代家族だから、何かと郵便物はある方なんだけどな、もう全然わかんね」
犯人の目的について未だに手掛かりなし。郵便受けを破壊すること自体が目的とか? 盗むだけの価値がある郵便物って何かあるのかしら? イチローのサイン入り葉書とか、ペニー・ブラック(世界最古の切手)が貼られた郵便物が紛れ込んでいるとか?どれも違う気がする。
「茜屋さんと知り合いだとか?」
「ああ、
銀天は真白の兄の名前。
「茜屋さんとは仲が良かったんですか?」
「学校外で会うことはなかったな。部活も違ってたし。茜屋といえば部活動には随分と熱心だったのを思い出すよ。小さな部で、アイツが卒業したら自然と消滅しちまったんだよな。たしか軟式……」
軟式野球部それとも軟式テニス部だろうか。
軟式野球も軟式テニスもともにゴムボールを使うのが特徴で、いずれも日本で生まれた球技だ。中学生以下の少年に普及しているが、高校に入ると硬式に転向する例が少なくない。硬式に比べマイナーなイメージが強い。それでも高校でも軟式野球部、軟式テニス部がある学校も少なくない。真白の兄も数少ない部員の中、せいいっぱい盛り上げていこうとしていたのだろう。
「軟式……そうだ、ナン式カレー部だった。カレー作り過ぎたから食え食えとうるさかったんだよ。でも、俺はご飯の国の人だからさ、カレーにはやっぱライスだなって思い知らされたよ」
「いや、ナン式はおかしいでしょ。本格インド風カレー部とかにしなさいよ」
「ナン式でも、あくまで日本料理としてのカレーを追及したかったらしいぞ」
だから、ナン式ってなによ。
とりあえず第3の被害者も含め、どの家も茜屋・兄と同学年の男子がいることが判明した。それがミッシング・リンク?
一学年240人の我が校で、そのうち3人が狙われたのは偶然なのか、それとももっと大事な繋がりがあるのか。そこにポイントがありそうだ。
「よーし、第三の被害者宅に行くわよ」
「葵ちゃん、楽しそうだね」
「美少女探偵の大活躍かな」
うん。私は楽しんでる。それは認めなくちゃね
探偵に優しさはいらない Vol2 影咲シオリ @shiwori_world_end
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