電幻虫は浮遊する
睡眠欲求
電幻虫は浮遊する。
ライは立ち上がることができない。彼女の体の五十パーセントは破壊され、鉄でできた機械部が露出している。人工皮膚は焼け焦げた跡が黒く残っている。瀕死なのは誰が見てもわかるほどだ。だが彼女は立たなければならなかった。立ち、戦わなければならなかった。周りは暗く、視界は良くない。壁には複数のヒビや穴がありこれまでの戦いを物語っている。彼女の目にはこちらへ歩いてくる同類が写っていた。
一日前——
ライはビルの屋上に立っていた。風が吹いている。力を抜けば今にも落っこちてしまいそうなほどに強い風だった。彼女は黒い戦闘服に身を包み腰には長方形のケースと拳銃を有している。深呼吸をし耳の後ろをそっとタッチする。ブツッと音がする。
〈ナノマシン正常。全身への汎用を確認。自動拳銃六○九の充填を確認。オールグリーン〉
機械的な音声がライの頭の中に流れる。脳に直接響いているようだった。
〈七号聞こえるか?〉
音声が脳に響く。ライは七号と呼ばれていた。声の主は二号だった。
「聞こえます」
ライは業務的に答える。
〈オーケー。それでは作戦を実行に移す。幸運を祈る〉
通信が切れた途端、ビルの五階辺りから火が噴き上がる。爆発が起きたのだ。ライはそれを確認するとビルから飛び降りる。頭の中で足場を想像する。腰についているケースを開いた。地面は段々と迫ってくる。ケースからは微細な粒子のようなものが出てくる。
「電幻虫起動」
ライは呟いた。
〈電幻虫起動〉
機械的音声。
「浮遊」
ライが言う。その瞬間ライの足元に長方形の金属の足場が出現した。それはどこからでもなくそこに生成されたのだ。ライは訓練通りに無傷で着地する。着地した地点は五階だった。割れた窓からすぐさま中に入る。中は薄暗かったが見えないというほどではない。黒スーツに身を包んだ男が二人、こちらに気づき拳銃を腰から抜こうとするがライの方が早かった。拳銃を抜き側面を瞬時にスライドさせる。
〈モードチェンジ。モードSPEED〉
機械的音声。比較的速く複数の銃弾を撃つ事ができるモードだ。正確に放たれた二発の銃弾は男たちの脳天に直撃、貫通する。それは目にも止まらぬ速さだった。男たちは、重力に任せ倒れる。ライは死体には目もくれず部屋のドアを蹴破った。通信が入る。
〈こちら三号。五号、六号が戦闘不能。応援求む。繰り返す。こちら〉
ライは最後まで聞かず通信を切った。
「三号の位置を検索」
〈検索しています。発見しました。五階北です〉
機械的音声。ライはそれを聞くと北の方角に走り始めた。走りながらライは通信をつなげ尋ねる。
「こちら七号。三号、敵の数は?」
〈こちら三号。敵は残り一名〉
廊下の奥に扉が見える。ライは拳銃の側面をスライドさせる。
〈モードチェンジ。モードPOWER〉
機械的音声。弾数は限られるが高威力の銃弾を撃つ事ができるモードだ。扉へ向け銃口を向ける。周りの空気を切るように弾丸が進む。衝撃でライは後ろへよろめいた。扉が弾丸で押し込まれ吹っ飛ぶ。すかさずライは部屋に入り、敵へ銃口を向け撃ち込んだ。黒いスーツを着た男はガラスを破り外へ放り出される。外で鈍い音が鳴った。
「大丈夫?三号」
ガタイがいい男が壁に寄りかかっている彼が三号だ。ライは彼へ歩み寄りながら言う。
「あぁ。なんとか」
三号はため息をつきながら答える。三号のそばにはピクリとも動かない五号、六号が倒れていた。
「ここに、プロトタイプはなかった」
三号が言う。「プロトタイプ」ライがつぶやいた。二〇五〇年、ロボット技術により人間と見た目で判別ができないほどの人工知能搭載型ロボット『フルタス』が開発された。、戦闘用、家庭用など様々な用途で使われ、世界人口に迫る勢いで増えていった。フルタスの開発の初期に作られたのがプロトタイプだ。プロトタイプはコントロール能力を持ち、全てのフルタスをコントロールすることができた。世界各国はプロトタイプを狙い、裏で衝突が始まっていた。だがプロトタイプは姿を消しそれ以降行方がわからなくなっていた。ライたちは戦闘用フルタスだった。七号は三号の方を持ち起き上がらせる。戦闘用フルタスの中でも大きな体を持つ三号は起き上がらせるのにも一苦労だった。廊下から誰かが歩いてくる。七号は警戒し、戦闘体制に入った。
「もう終わったんですか?」
出てきたのは男性フルタスにしては細い体を持ち茶色の髪を持ち黒いトレンチコートを着た四号だった。彼は目を細めた特徴的な笑顔を見せ、ライたちの方に歩いてくる。その笑顔はどこか不気味さを持ち合わせていた。四号は一階で足止めを行っていた。作戦が終わり様子を見にきたようだった。
「というか、派手にやりましたね〜。上から一人落ちてきましたよ。びっくりしましたもん。五号と六号はダメでしたか」
彼は最初こそ明るくしゃべっていたが最後は少し悲しげに言った。
〈こちら二号。こっちにもプロトタイプはなかった。情報はガセだったようだ。撤退だ〉
全員脳に響いた。
「今回の損害を報告して」
黒スーツを我が物にしているマザーが言う。白い部屋の中に置かれたデスクとイス、そのイスに腰を下ろしこちらをも敵とみなしているかのような威圧感を放っているのは、皆からマザーと言われる指揮官だった。
「報告します。五号、六号が再起不可。三号が右腕を損失。以上です」
二号が後ろで手を組み言う。
「そう、五号と六号が。三号の復帰の目処は?」
「二日ほどだそうです」
「わかったわ」
マザーの視点は下を向いていた。その視点は下からライの方へ向けられる。
「七号、あなた今回よくやったわね」
「ありがとうございます」
ライは感情なく業務的に言う。
「さて、次の任務は三日後よ。場所はラストエル地区。数週間前に過激派宗教組織禁忌によって滅びゆく神達に占拠されている。これは政府からの要請なんだけど、この宗教組織機械絡みらしいの」
「機械絡み?」
二号から言葉がこぼれた。
「えぇ。信仰しているのが機械の神らしいわよ」
「そこにプロトタイプがある可能性にかけるんですか?マザー」
二号が聞く。マザーに同意出来ないようだった。
「私の意見に賛成できないようね。二号。次の作戦には八号も同伴させる。それでどう?」
二号の不安の原因は戦力不足だった。それを見抜きマザーは言った。そして八号はマザーのお気に入りだった。
「八号ですか……」
二号が言った。八号はフルタスの中で性能が一番高かった。だが、普段はインターバル空間で電源がオフにされている。任務の際、膨大なエネルギーを使うのが理由だった。マザーは自分のデスクの表面を軽くタップする。いくつか操作し「起動」と書かれたボタンが表示される。マザーは躊躇なく押した。
「行ってきて」
マザーが言った。二号とライは無言でマザーのデスクを後にした。地下へ向かう。彼はそこにいた。服は身につけていない。
「久しぶりだね。二号、七号」
彼は言った。満面の笑みだがそこに感情がこもっていないことはライも二号もわかっていた。
「えぇ。久しぶり」
ライが返答したがそれは無感情そのものだった。
「久しぶりだな」
二号も言う。
「ゴーストも変わったな」
八号が言った。ゴーストはライたちが所属している秘密特殊任務部隊の名称だ。八号は肩を鳴らしゆっくりと歩み始めた。向かう先は二人ともわかっていた。パトリシアの医務室だ。ゴーストに所属しているフルタスの治療を行う専門医。八号は目覚めると点検のためパトリシアの元へ向かわなければならなかった。パトリシアの医務室へ入るとそこには三号が腕の治療を受けていた。医務室の扉を開けるとそこは白い壁があり精密機械がいくつか置いてある部屋だった。
「八号!」
ベッドに横たわっていた三号は驚きを隠せなかった。
「なんで?」
三号は続けて言う。ライと二号の方を見るが二人は肩をすくめることしかできなかった。
「久しぶりだね。三号」
八号はライたちに見せたような笑顔を見せた。
「あら八号。出番が回ってきたの?」
奥の部屋から出てきた女が言う。彼女がパトリシアだ。パトリシアはデニム生地のオーバーオールを着てショートヘアがよく似合っている。だが医務室という部屋の名前とは似つかわしくない服装をしている。パトリシアは八号を席へ座るように促す。八号が席へ座り点検が始まった。
「いつ目覚めたの?」
パトリシアが人工皮膚の状態を確認しながら言った。
「ついさっき。仲間たちの温かい歓迎を受けてね」
八号が言う。それはただの皮肉であった。八号がパトリシアの点検を受けていると、放送が流れた。「七号。今すぐ私のデスクに来なさい」マザーの声だった。ライはパトリシアに軽く会釈をし、マザーの元へ向かった。
「来たわね」
デスクの周りを歩きながらマザーが言う。
「なんでしょう」
ライが言う。
「私たちゴーストの構成員は二号、三号、四号、五号、六号、七号、八号の計七人で構成されている。そのうち二人が失われた。三号はまだ戦闘できる状態ではない。私たちは危機的状況だ。他国に今プロトタイプを奪われてしまえば私たちに勝ち目はない」
「奪われる?」
ライが聞き返す。ライたちはまだプロトタイプを探し出してはいない。ここでの「奪われる」と言う表現にライは疑問を覚えた。
「ここからは誰にも口外してはならない内容よ。私たちは既にプロトタイプを保持している」
「保持している?」
ライは混乱していた。今まで命を削り戦ってきたのはなんだったのだろうか。その考えが頭を反復する。
「えぇ。五年前にね。プロトタイプはフルタス自体だと言う認識を皆が持っている。でもそれは違う。プロトタイプは一つのチップなの。それは一人のフルタスの中に搭載されている。そのフルタスは——」
「八号」
マザーが言い終わる前にライが気づいたように言った。
「その通り。八号よ。だから彼がやられても私たちはそのチップを回収するだけでいい。他国もまさか戦闘用の前線で戦うフルタスにプロトタイプが搭載されてるなんて夢にも思わないでしょうね」
「なんで私にそんなことを話したんですか?」
ライが聞いた。
「今、電幻虫を体内ナノマシンで操作できるのは貴方しかいない。貴方の任務は何があっても彼を守ること。そして彼にはまだ隠された力がある。それを引き出して」
電幻虫。マイクロホログラムドローンに物質的再現ホログラムシステム(Material Reproducibility Holograms system)『MARH技術』を組み込んだものである。MARH技術はホログラムで質量、体積、密度まで再現できる技術である。簡単に言えば、その場にまるで本物のような物質がホログラムで再現できる技術だ。その技術を使い足場を瞬時に生成したりしていた。その二つの技術を組み合わせたものを通称電幻虫と呼ばれている。マイクロホログラムドローンが虫のように小さいということでこの名前がつけられた。
「了解しました」
ライは不服そうにいった。ライは八号のことを心底嫌っていたからだ。だがライは命令に従うしか他にない。その瞬間突然爆発音がする。建物が揺れる。警報が鳴り始めた。「敵対組織の侵入を確認。敵対組織の侵入を確認」アナウンスが流れる。ライは警報を聞くや否や走り出す。向かった先は医務室だ。医務室のドアを開けるが中に八号の姿はない。
「八号は?」
ライは二号の目を見て聞く。
「今、猛スピードで出ていった。それより侵入者だ。あいつならなんとかなる。俺らも戦闘に参加するぞ」
二号が耳の後ろを押しナノマシンを起動させる。三号が立ち上がり残っている左腕で拳銃を抜いた。
「俺はここでパトリシアを守る」
「わかった」
二号が言う。その突如また爆発音がなる。ライたちはすぐさま廊下に出た。後ろから誰かが歩いてくる。
「いや〜大変なことになりましたね」
陽気な口調で話しかけてきたのは四号だった。
「四号! ちょうど良かった。俺と一緒にここに居てくれ、俺一人じゃ無理かもしれん」
三号が言う。彼の左腕だけでは、あまり戦えないのは目に見えていた。
「わかりました。まず敵を排除しないと」
四号が言う。四号は銃口を向けた。その先にいるのは三号だった。
「は?」
三号の頭が体と分離する。中から導線などが露出した。
「なにを……」
二号が言う。
「言ったじゃないですか。まず敵を排除しないと。いい話を聞いたもんでね。プロトタイプは八号の中にあるって話をね」
四号が言った。四号はライたちの会話を聞いていたのだ。三号が再起不可なのは目に見えていた。四号が二号に銃口を向ける。
「電幻虫起動! 浮遊!」
ライが咄嗟に言う。目の前に壁ができ銃弾を防ぐ。二号は拳銃を抜くが——
「あとは俺がやる」
後ろから声がした。振り返ると八号が立っていた。四号が壁を突破し、銃口を向けるが顔の横には八号の拳が近付いている。四号が殴られ壁に激突する。あまりの衝撃で拳銃が手から離れた。それが落ちてくる。八号は空中でキャッチし側面をスライドさせた。
〈モードチェンジ。モードPOWER〉
腹部に銃口を突きつける。この間〇.五秒。四号が吹き飛ばされ廊下の奥に消えていく。
「くっ」
四号は歯を食いしばる。四号は機能を失う寸前だったが空中で体勢を立て直し、もう一つの拳銃を取り出す。側面をスライドさせる。
〈モードチェンジ。モードPOWER〉
銃弾を発射させる。八号も銃弾を発射させた。互いの銃弾が空中で弾け飛ぶ。八号が一気に四号へ詰め寄る。
〈モード切り替え。モードSPEED〉
八号が拳銃の側面をスライドさせた。一気に六発を腹部にぶちこんだ。四号はその場に倒れ再起不可になった。
「ふぅ。終わった、終わった。まさか裏切ってたなんて。思っても見なかったよ。四号」
八号が腰を手で支えながら言う。彼にとっては赤子の手をひねるようなものだった。
「あらあら。派手にやったわね」
中から出てきたのはパトリシアだった。
「ねぇねぇ七号。さっき四号が言ってた話って本当?」
パトリシアがライの肩を叩き言った。ライは無言で頷く。八号とは距離もあり、聞こえていないようだった。
「八号がプロトタイプ……」
二号が言った。
「点検で全くそんなこと気づかなかった……」
パトリシアが言う。彼女は考え込む。八号が廊下の奥から歩いて戻ってきた。
「四号は完全に再起不能だ。これで動けるのは俺と二号と七号だけか……。人数不足だな。そういえば俺ずっと気になってたんだが、一号はどこにいるんだ?」
八号が言った。
「俺も一号については知らない。見たこともない。まずまず存在しないって聞いたことがあるな」
二号が言った。
「存在しない?」
ライが言う。確かにライも一号については何も知らなかった。
「一号のこと?」
パトリシアが言った。彼女は続ける。
「あれは私よ」
その瞬間八号が吹き飛ばされる。撃ったのはパトリシアだった。間髪入れず二号の頭が飛ぶ。
「私が一号。初期モデルよ。ありがとうね、七号……いえ、ライ」
ライは言葉が出ない。そして動く事ができなかった。
「フルタスを一発で仕留める方法知ってる? 頭を吹き飛ばすことよ。グッバイ、ライ」
銃口がライの頭に向けられる。
「浮遊!」
なんとか動き声を発する事ができた。飛び上がるマイクロホログラムドローンは銃弾を作り出す。一号の銃口から放たれた銃弾がライの作り出した銃弾にあたり跳弾する。
「おーすごい」
そう言いながら一号は距離を取るライに距離を詰める。ライは拳銃を取り出す。
〈モードチェンジ。モードSPEED〉
モードを切り替え一号に狙い定める。だが、そこには一号はいなかった。
「電幻虫よ。浮遊しろ!」
電幻虫を起動させたのはライではなく一号だった。視線の下からに一号が現れる。ライは銃弾を六発腹部に撃ち込んだ。その瞬間一号は消えた。電幻虫によるフェイクだった。ライは転びそうになり体勢を立て直そうとする。その瞬間左腕が吹き飛んだ。ライの後ろに一号が立っていた。その衝撃でライは宙を舞うがその状態から一号に標準を合わせる。だがそこにはもういなかった。
〈モードチェンジ。モードPOWER〉
宙を舞うライの下に潜り込んでいた。ライは空中で体をひねる。体がえぐられる。吹き飛ばされた。なんとか起き上がろうとする。だがうまく立ち上がれない。関節がひどく損傷していた。一号がライへ近づいてくる。
「そろそろ再起不可になってくれるかな? こっちはまだ八号の処理が残ってるんだよね」
一号が言った。そこにはパトリシアというフルタスの面影はなかった。ライの体の五十パーセントは破壊され、鉄でできた機械部が露出している。人工皮膚は焼け焦げた跡が黒く残っている。瀕死なのは誰が見てもわかるほどだ。だが彼女は立たなければならなかった。立ち、戦わなければならなかった。周りは暗く、視界は良くない。壁には複数のヒビや穴がありこれまでの戦いを物語っている。彼女の目にはこちらへ歩いてくる同類が写っていた。
「浮遊!」
ライは叫んだ。ライの体の損傷部分が修復されていく。
「そう使うんだ」
一号は驚きながらも銃口を向けた。修復はまだ終わっていない。動けるほどには治っていない。
「でも間に合わなかったら意味はない。じゃあね。七号。ごきげんよう」
銃口は確実に頭部を狙っていた。だが引き金は引かれず拳銃が一号の手から離れる。ライの目の前に立っていたのは八号だった。
「くっそ。八号」
一号が言う。一号の腕は大きく開かれ隙が生まれていた。八号は見逃さない。腹部へ一発殴りを入れた。一号はよろめく。瞬時に左手で顔に殴りかかる。だが一号はそれを受け流した。
「浮遊!」
一号が叫んだ。八号は気にもせず腹部に殴りを入れた右手で顔を狙う。だが電幻虫によって作られた壁でその勢いは失われる。左手で殴りを入れにいく、一号も右手で殴りにいき、両者の拳が衝突した。
「チェンジパワー」
一号が言った。右腕が赤く発光し、八号の左手を吹き飛ばした。彼は歯を食いしばる。残った右手でまた腹部を狙い殴りかかる。
「浮遊しろ! 電幻虫!」
ライが言う。八号の右手が赤い鉄を纏う。電幻虫によって作り出された鉄だった。八号のパンチの威力が増強される。一号が後ろに下がるが避けるには遅すぎた。腹部へ右手が食い込む、一号はなんとか耐え右手で八号の右腕を掴み後ろへ回り込む。拳を上げパンチに勢いをつけようとする。
〈モードチェンジ。モードPOWER〉
一号は後頭部に感触を覚える。
「なっ——」
ライが銃口を突きつけていた。
「ごきげんよう」
ライは引き金を引いた。一号の頭が吹き飛んだ。静寂が流れる。そしてその空間にはライと八号の息遣いが響いていた。
薄暗い部屋で黒電話の音が鳴り響く、この時代に似つかわしくない過去の産物だ。それはこの件が秘密事項であることを示している。一つ一つ数字が選択される。繋がった。
「もしもし。はい、そうです。一号がやられました。七号と八号が共闘し撃破しました。はい。私は八号に再起不能と認識させて逃げました。私は姿を変えます。二号と三号の処理も完了しました。ゴーストに残っているのは、七号と八号のみです。チップの回収は彼が覚醒しなければ意味がありません。今回覚醒の兆候は見られませんでした。覚醒の補助が必要かもしれません。はい。だから七号に話しを……。はい。七号には貴方との会話を聞いたと言っておきました。貴方の正体がバレる心配はありません。それでは、マザー」
電幻虫は浮遊する 睡眠欲求 @suiminyokkyu
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