デザイナーの性

結騎 了

#365日ショートショート 335

 今しがた、入稿を終えたばかりなのに。男のパソコンの右下に、通知がポップアップした。

「ええっ。課長、またですか」

「つべこべ言うな。ほら、そっちに回した案件、確認してくれ」

「おっと、これは夏祭りのチラシですね。なるほど、地方の小さな村で行われる、地域のお祭りですか」

 ディスプレイにチラシを大きく表示する。炎が印象的な、木々がお洒落に組まれたキャンピングファイヤー。その遠くに映るのはこの村の夜景だろうか。写真のシックな彩りを活かすように、必要最低限の英字のみが載せられていた。このまま、都心のビル群に大きな看板として飾られていても遜色がない、それなりの完成度を誇るデザインだった。

「あ〜ら、これはやってますねぇ。作ったのはどこですか」

 課長は自身のディスプレイから目を離さず、黙々と打鍵しながら答えた。「その村の観光協会だよ」

「なるほど。まったく、こんなことしちゃって……」

 男は画面半分に別のウインドウを立ち上げた。一色のみの目が粗いグラデーションに、汎用の書体で大きく文字を載せていく。『 夏 祭 り 』。そして、複数のフリー素材サイトから画像をコピペ。かき氷、提灯、花火、うちわ。およそ夏のイメージを持つイラストだ。

「最後に、ええと、あった。開催日と時刻と場所。これを右下あたりに改行多めに打ち込んで……」

 程なくして、汎用イラストの少年が満面の笑みで微笑むチラシが完成した。

「これでどうでしょう」

 同じものが、今度は課長のディスプレイに届いた。

「よぅし、OKだ。いい感じにダサいぞ」

「ありがとうございます。へへっ、処理速度あがってきたかな、俺」

 男は背伸びをして、加えてあくびを放った。

「しかし、デザイナーってのは難儀な職業ですよね。都会だろうと地方だろうと、キャリアの大小に関わらず、どう頑張ってもお洒落に仕上げてしまう。そういうさがなんでしょう。俺らみたいにわざわざダサく作り直す会社がいないと、お洒落がインフレしちゃいますよ」

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デザイナーの性 結騎 了 @slinky_dog_s11

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