さようなら

◇◇◇


朝早い体育館裏は、みんなと黒庵さん以外誰もいなかった。

ミサキくんがいないのに驚いたが、黒庵さんは「仕事で忙しいんだよ」と流した。


「もう一度切って、霊力で繋ぎ止めてる所を解く。

そうすれば死体にもどれる」


え、もう一度切られるのかぁ嫌だなぁと思ったが、まあもう死んでるしいいかと思い直した。


「じゃあいけ」

「え?」


カレンとヒナちゃんにいきなりそう言ったので、カレンが疑問で返した。

意味がわからない。


「もう死んでるとはいえ、殺すとこ見せたくねぇんだよ。

順番に行くから、死にたいとこで待機してろ。向かうから」


やっぱり彼は優しかった。


「……じゃ、じゃあね、クミ」

「さよなら…です」


今まで経験したことない、変な空気。

気まずいというかなんというか、不思議な感じだった。


どう言っていいのかわからないから、僕も曖昧に受け答えようとしたが、やめた。

最後だからな。

背を向けようとした彼女らを止める。



「ヒナちゃん、通行人なのに参戦してくれてありがとう。

ヒナちゃんの優しさに色々と励まされた。

…もっと早く出会いたかった」


「え…っ」


「カレンとはかなり長い付き合いだったな。

その自由な性格に苦労させられたが、半面羨ましかった。

視えてないのに助けるとか、やっぱりカレンだな。

また会いたい」


「…んん…っああもう!!」


たまらずカレンが駆けてきて、胸に収まる。

後ろからヒナちゃんも抱きついてきた。胸当たってる…。


「そんなこというなー!

涙我慢してたのに…!」

「本当ですよ!泣きたくなかったんですよ!」


なんだか前後で叱られる。

ぎゃーぎゃーさわがれて揺さぶられ、そしてふとカレンが言った。


「……会お、また、絶対。この三人でさあ」

「はい、約束です!こんどは幼なじみとかになって、ヒナもっと仲良くなりたいです!」

死ぬ前とは思えない明るい声だった。


「うん、またな。今度は━━カモくんも」


カモくんは、神様の警察の偉い人の所へ連れて行ったと黒庵さんが言っていた。

最後に会えないのは寂しいけれど、また会えると信じたい。


いつもと同じように、またねと言って別れた。


二人が別々の死地へ赴くのを目で追って、見えなくなったのを確認してから向き合った。



「…よろしくお願いします」


「……」


あまり浮かない顔をしている黒庵さんは、あまり光を帯びていないいつもの黒い刀を弄りながら。


「…さっきの、あれ」

「あれ?」

「あの…カモとも会いたいってやつ。

言っとくわ。喜びそうだ」


多分あの年らしくきゃあきゃあ喜ぶことはないだろうけど、それでも喜ぶところを想像した。

黒庵さんもなのか、少し口元が緩んでる。


「えと、痛いんですか?」

「ん?ああ……痛いなんて思わねぇよ、体と精神が離れるだけだ。もう死んでんだから」


よくわからないけど、そうなのか。


「━━花が散るより一瞬に済ませっから」


腕はわかっている。たぶん刹那だろう。


座れと言われて地面に座る。

さながら切腹前の武士みたいだ。

正面から殺すのは好きではないらしく、背後からになった。


……目を閉じる。

昨日の恐怖は全然なく、穏やかな気持ちだった。


朝の冷たい風の匂い。

地面の湿っぽさ。

自分の息遣い。


これで最後なのだと思うと、いつもと違うものに感じた。




━━━━また、みんなと会えますように。




そうつぶやいて、刀が振り落とされる音がした。









◇◇◇



その日、同じ場所で寄り添うように倒れた少女たち3人の死体が見つかった。


死因は刃物による血液の大量出血とみられ、不思議なことに死後何日か経過していると判断されたという。


近辺で通り魔が流行っていたことから、それによる犯行だろうと捜査が行われたが、結局犯人は捕まらなかった。


少女たちはお揃いのお守りを握りしめていて、遺族には遺品としてそれが返された。


また、そのお守りには社名が記されていて、賀茂神社━━ちょうど体育館の裏側に昔建てられていた、神社のものだったという。






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征服girls @sukunabikona0114

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