最後の日
◇◇◇
「なにアルバムなんか見てるのよぅ」
寝そべってアルバムを見ていたら、ママにまた踏まれた。
グニグニとひとしきり踏んだあと、思い出したように訪ねてくる。
「そうだ、クミ。風邪治ったの?」
「風邪…て、ああアレか。もう治った」
あの謎の風邪のような症状。
あれは、霊力で無理やり塞いだ体に魂を入れたために、体に馴染めなかったからの症状だった。
馴染んだから軽くなったというわけだ。
「ならいいけど…って、うわー懐かしい!これクミが何歳のとき?」
アルバムを覗き込んで騒ぎ出してきた。
「5歳かなあ、幼稚園の帽子が年中のときのだし」
天国か地獄かはわからないけれど、どっちにしろアルバムは持ってはいけない。
だから、感傷に浸りたくて引っ張り出したのだ。
「本当だ、ママわかいわぁ」
「そう?今も変わんないよ」
「……そうやって女の子落としてるのかぁ」
「や、違うし」
一緒に楽しかった人生を思い出す。
僕は明日、黒庵さんに殺される。
もう死んでるけど、もう一度死ぬのだ。
ようするに人生最後の日である。
やっぱり優しい黒庵さんは、僕達に時間をくれた。
死ぬ前の身辺整理の時間だ。
ベッドの下のショタ写真集とかはみんな処分したし(見つかったら恥ずかしい)、最後の晩餐はもう済ませた(好物でもなんでもないメニューだった)
そんな僕は、最後に人生を振り返ろうと思ったのである。
「わぁ!見て!スカート履いてる!」
「燃やしてくれ」
「嫌だよー、ママの宝物にします!」
写真を抜き取って、小さい頃のスカート姿の僕をニヤニヤ眺める。
取り返そうと手を伸ばして、ふとママが呟いた。
「やっぱクミは私に似てかわいいねぇ
小さい頃から可愛かったけど、今も」
「………」
黙ってしまった。
いつもなら可愛くないと怒るけれど、状況が状況だけに。
…僕が死んだら悲しむんだろうな。
それだけで親不孝者だ。
謝っておこうかと考えあぐねて、不自然だから怪しまれたくないとも思った。
そして決断した。
「……そうかな…
じゃあ、ママの娘に生まれてよかったよ」
我ながら自然に言えたと思う。
けれどどうしても声が震えてしまって、視界が海の底にいるような感覚になった。
だめだ、泣いてしまう。
顔を背けると、ママが涙を推すような言葉を吐いた。
「ママも生んだのがクミで良かった」
━━━━あぁ、もう。
ぽた、と写真の上に落ちた涙を急いで隠して、震える肩を止めようと片手で押さえた。
死にたくないと、思った。
まだママのそばにいたいと。
けれどそれは叶わない願いで。
僕ができるのは、約束くらいだった。
「…っ、じゃあ僕はまたママの所に生まれてくるよ」
願わくば、また会いたい。
僕を作ってくれたのはママだから。
「本当?約束だからね」
泣いてる僕に気づいてるのか、気づいてないのか。
嬉しそうな声で答えてくれた。
もう頷くことしかできなくて。
そんな自分が不甲斐ないと思った。
その日は一睡もできなかった。
今までのことを思い出すのに忙しくって。
そして翌日、普通に学校に行くふりをして、黒庵さんのもとへ向かった。
「いってらっしゃい、帰りに卵買ってきてくんない?」が最後の会話となった。
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