もしかして、師走ですか?私です。初めまして、あなたは。
長月瓦礫
もしかして、師走ですか?私です。初めまして、あなたは。
「こんちわァ。もしかして、師走サンですか?」
「はい、そうですが」
「ハイ、私は締切と申す者です。
いつもお世話になっております」
「あー……こちらこそ、いつもお世話になっております。
本日は如何されましたか?」
「ハイ、単刀直入に申し上げますとね、進捗の方がもう少しだけ日にちを延ばしていただけないかと言っているのですよ」
「どういうことでしょう?」
「ハイ、進捗が言うにはですねェ。
原稿の方と立てていた作業工程があるんですが、当初の予定から大幅にずれそうだからもう少しだけ延ばしてくれないかと。そんなことをほざいているのですよ」
「確か、納期は今月末だと把握しておりますが、そんなに厳しいんですか?」
「進捗が言うには、かなりヤバいとのことで」
「何がどうヤバいんですか」
「いえ、それがですね……原稿が赤と紫のゲームにハマってしまいまして」
「赤と紫のゲーム」
「ええ、ボールではなく文字通り原稿を投げているようで、1文字も進んでいないとのことです」
「ふざけるのも大概にしてほしいんですがね」
「師走大先生には本当に申し訳ないんですが、一旦ですね、霜月さんと交代していただいて、納期を延ばしていただく思うのですがいかがでしょうか?」
「それはつまり、11月に日付を戻すってことでしょうか。
今日は12/5だから、11月35日に変えると、そういうことでしょうか」
「左様でございますね」
「左様でございますね、じゃないでしょ。
何を馬鹿なこと言ってるんですか、12月も5日過ぎてるんですよ?
それなのに、霜月の野郎を呼ぶんですか?」
「進捗がもう少しだけ延ばしてくれとうるさいんですよ。師走に入るからよくない。霜月のまま月日が過ぎれば問題ないと、無茶苦茶なことを抜かしているんですよ」
「いや、本当に何を言ってるんですか。
何のために私がいるのか分からないじゃないですか」
「そこをなんとか、お願いできませんか! 我々を助けると思って!」
「できるわけないでしょうが!
大体、スケジュール管理を怠っていたそちらの責任でしょう!」
「しょうがないじゃないですか、赤と紫のゲームおもしろいんですもん。
あんなん1時間でやめろってほうが無理な話ですよ」
「アンタも一緒に遊んでんじゃねえですよ。
まったく、腐った根性を叩き直すためにもね、今から会いに行きますから。
そうすりゃァ、少しは緊張感を持ってくれるでしょ」
「ええっ、今からですか!」
「何か問題でも?」
「師走大先生がいらっしゃったら、文字通りクリスマスと年末が一気にきちゃうじゃないですか。今度は私の意味がなくなってしまう」
「そりゃ、私は師走だからね。何か問題でも?」
「問題しかないんですけど」
「アンタが言っているのはそういうことなんですよ。
今から霜月に戻せるわけがないって言ってんの」
「しかし……」
「場合によっては、締切だけ消すってこともできるんですよ。
私は師走ですからね」
「……いえいえ、師走大先生を前に進捗無理ですなんて、言えませんからねェ。
ただでさえ、忙しくて走り回っているというのに!」
「まさにその通り!
一年が終わるからと今更のように走り回る者のなんと多いことか!
あきれるばかりですよ!」
「それでは、進捗にはそのように伝えておきますので、よろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします。
それでは、失礼します」
もしかして、師走ですか?私です。初めまして、あなたは。 長月瓦礫 @debrisbottle00
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます