怪獣に関する資料 グレイプニル機関内部文書④

拒絶ヴォイドに関する一考察』 階堂玲央奈


 第三次怪獣侵攻で発生した大規模な拒絶による消失は、対怪獣防衛都市の中央区画を崩壊させた。防衛都市の根幹が失われたことにより、防衛都市の放棄が決定された。グレイプニル機関はすべての兵士を失い、設備と研究のほとんどを喪失し解体へ。怪獣防衛の前線構築を協議中であるが、第三次侵攻以後、怪獣の出現は確認されていない。また、大気中の根源素子アペイロンが検出されなくなり、未確定ではあるがダークマターの転換反応が止まっているものと推測される。これにより怪獣発生の危険性は極めて低くなったといえる。

 根源素子の消失は、此度の拒絶現象に起因するものと断定できる。拒絶現象は周囲の根源素子を取り込んで発生するため、空前の規模で発生した拒絶により大量の根源素子が吸収された。ダークマターが転換する際に必要な触媒である根源素子の必要量を下回ったものと考えられる。

 ここで消失した物質とエネルギーの行方に視点を向ける。

 大量の物質とエネルギーが消失する拒絶現象は、一種のワームホールではないかと仮定できる。我々が存在するこの宇宙とはまったく異なる宇宙、あるいは外宇宙とでも呼ぶべき時空間への移動が行われたものと推察する。

 新たな宇宙の創世に必要とされる鞍馬正史博士の算出した35%のダークマターを伴って、外なる場所にて新たな宇宙の萌芽となることだろう。怪獣とはすなわち、新たな宇宙の可能性であったと結論付けられる。

 彼ら怪獣たちの持ち去った我々の存在する宇宙より失われたエネルギーによって、我々の宇宙の終わりが早まることが予想される。かつてない速さで宇宙は冷えていき、縮小あるいは拡大して薄まり消失していくものと想定される。正確な年数を割り出すことは困難だが、数百億年の単位であることは間違いない。

 我々の宇宙がゆるやかに消滅していくとしても、新たな宇宙はすでに産まれたのだ。

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フェンリルの子供たち 志村麦穂 @baku-shimura

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