個人記録④ 音声日誌
2114年4月20日、α9小隊、A-8記録。
これが最後の記録になると思います。
最初の頃の日誌を聞いてみたけれど、ホント、嫌々って感じで。それが逆に面白かったな……配属されてから半年と経っていないのに、随分変わったような気がします。この連絡帳の内容も、ぼくらグレイプニルの兵士たちも。少佐――玲央奈さんにも。
最初はどう接していいか困っているようで、事務的だったり、人間的に接してみたり、兵器扱いして突き放したり。不器用で態度の変わりやすいあなたが上官で、決して楽とは言えなかったけれど、この日誌のやり取り――“連絡帳”だけは途切れずに続いた。
今ではいろんなことを知って、いろんな事情を知って。ぼく自身のこと。怪獣のこと。玲央奈さんのこと。本当にいろいろなことを。
まだ整理がつかなくて、複雑です。本当に、複雑なんです。
組織のぼくらへの非人道的な行いを今さら責めたりはしません。昔からそうだったから、組織の目的とか、やっていることに気付いた時も、別にどうとも思わなかった。やっぱりそうなんだと納得しただけで。むしろ、ぼくらみたいに人間の形をしたものが、最前線で怪獣と戦っている方がおかしかったんだ。
とはいえ、
ぼくたちは子供だから、感情を呑み込んで平気なふりするのは、本当は苦手なことなんです。何にでも、すべてを丸く解決する方法があることを信じていたり。
子供なんです。
思っているよりもずっと、子供なんです。
これまでは諦めてしまって、不感症になって、気付かない振りをできていただけで。そんな事ばっかりが得意になっていただけで。
気付いてしまったから、そういうのはもう難しい。
だから、複雑なんです。
あの夜。玲央奈さんがぼくを夕食に誘ってくれた夜。皆が何を考えているか、ちっともわからなくなった夜。結局、あなたはぼくをどうしたいんだろうって、ずっと考えていました。嫌いなのか、仲良くなりたいのか、死んでほしいのか。あなたとぼくのことをマヤ博士に教えられて混乱していたのに、玲央奈さんはなにも言わないから。
手料理をつくるって言ったのに、レトルトさえまともに調理できなかったのは、笑っちゃってごめんなさい。あなたの立場なら、料理をする食材ぐらい手に入れるのは難しくないのに。部屋にはぼくらが食べているような栄養バーの包みと配給ビールと吸殻ばっかりで。気まぐれに一緒にお風呂に入ってきて、添い寝して、なに考えてるのか全然わからなかった。何がしたいのか全然言わないから。
それでも、あの冷めたミートソースの味は覚えているんです。美味しいとか、すこしも思わなかったのに……叶うならまた食べてみたいなって。
実はまだひとつ、勇気が出ないことがあって。
面と向かって話すべきだとわかっているんだけど、たぶんできないから。
ぼくは玲央奈さんのことを……呼んでもいいのかって、ことで。
あなたがぼくをどう思っているかわからないから。でも、ぼくがあなたをどう思うかとは関係のないことだから。もしかしたら迷惑かもしれないけれど。
あの……“お母さん”。
ナンバーズの
でも、ぼくはもう自分の名前を決めたから。
自分で名付けた自分の名前です。
覚悟半分だけど、できることをやってみるつもりです。
その時は呼んでください。怪獣になるぼくの名前を。
ありがとう。
さようなら。
――録音終了。
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