元旦の現場
結騎 了
#365日ショートショート 334
テレビから琴の音色が聞こえる元旦。澄んだ空気を遮るように、警官の隊列がある一般住宅を襲った。
「開けなさい!先ほど通報があった!速やかに開けなさい!」
家の中からは声が聞こえる。
「そんな、こんな元旦から何を……」
「こちらには礼状がある!開けなさい!」
ほどなくして。警官らは雪崩のように住宅に押し入った。リビングや書斎のあらゆる物を段ボールに詰め込んでいく。
「やめて!ねえ、やめて!私が何をしたっていうのよ!」
老婆は涙声で叫んだ。しかし、警官は誰も気にもとめない。崩れ落ちる老婆に視線がいくことはなく、それぞれが懸命に押収の作業を進めていた。
刑事が近寄る。
「おばあちゃん、やっちまったな。あんた、法を犯したんだよ」
「私が、私が何をしたっていうの……。何を……」
首をぽきりと鳴らし、刑事は語った。
「知らないとは言わせないよ。テレビや新聞でも散々やってたし、封書で通知も届いたはずだ。みんな、いつかはやめたいと思っていたんだよ。時間とお金の無駄だって、みんなが痛感していた。でも、誰も言い出せなかった。挙げ句の果てには国の出番さ。こういうのは、せーのっ!で一斉に禁止にして足並みをそろえなくっちゃあいけない。最初が肝心なんだ」
声にならない声で、老婆は泣いていた。丸くなった背中は小さい。しゃがんだ警官は、覗き込むように顔を低めた。
「なあ、おばあちゃん。なんで年賀状を送っちまったんだよ。我慢しろよ、それくらい」
元旦の現場 結騎 了 @slinky_dog_s11
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