第6話
ハビザル公国の国境の見えると所まできた。
簡単な木の塀や低い土嚢で国境は守られていた。簡単に超える事は可能だが入国が済んでいない者を見逃す公国ではない。
それに今回は堂々と入らなければならない。
問題はその前に見える30人ほどの武装した集団だ。
道の横に野営をしている。殺気だった雰囲気はない、逆にのんびりと昼寝している者までいる。
いつものようにウテヤロワが馬車に乗り、後の2人はその横を歩く。
槍を持ち通る者を見張っている兵もいたが何も言われず過ぎた。
「ハフロス殿下、お久しぶりでございます」
安心しっきた所に名を呼ばれたので、ハフロス王子は短い悲鳴のような声を上げた。
振り向くと鎧を纏った騎士が膝をおり頭を下げていた。
「ヒュバルス殿」ウテヤロワが相手の名を呼ぶ。
チャミに聞こえる程度の声で「第一騎士団の団長様です」と教える。
「元団長です。新王は私を解任し新しい任務を与えました」
「新しい任務ですか」ウテヤロワにはもうその任務が何か理解できた。
「私は王に疎まれておりまして厄介払いのつもりだったのでしょう。ハビザル公国への道を監視しろと」
ウテヤロワは馬車を降り杖を構え、王子の前に立った。
「この数です、ノスワース卿とクルハがいたのであれば押し切る事もできたかもしれませんね。残念です」
「残念と思うのなら通していただけませんか」
「底の見えている王と、いまだ何者でもない王子。未来は繁栄と恐怖のどちらに続いているのでしょうか、私は賭け事が嫌いなのです」
ヒュバルスとウテヤロワがお互いに構えた。
「手出しはするな、お前たちでは相手にならない」ヒュバルスが配下に注意する
「いいところすいません、邪魔しますよ。一応この2人を安全に逃すって約束したので」
チャミが緊張した2人の間に無造作に歩みでた。
「何者だ」
「俺はチャミ」何も答えていないと一緒だ。
ヒュバルスが面白いとチャミを見る。
「武術をたしなんだ動きではない魔法も使えまい、俺の盾が警告してこない」
「リンマの盾か、それに剣がラルババット。いいもん持ってんな」
「ほう、我が武具を知っているのか。ただのハッタリ野郎ではなさそうだな」
ヒュバルスは一段と低く構た後、怒涛の連続攻撃を始めた。
これをチャミはギリギリでよける、よけきれないと思われた時には剣の腹を手や足ではらい軌道を変えて逃れる。
お互いに一度引いた。
「これは舞武か。噂には聞いたことがあったが、見たのは初めてだ」
「俺のは開祖直系だよ、ありがたく思いな」
「だが、その手の技は防御に優れるが攻めが弱い。私に届くかな」
再び2人が近づき攻防が始まる。
ウテヤロワやハフロスを含め周りにいた者たちは、声も出さずに2人の戦いを見守っていた。
実際には何が行われているのか理解できていない者も多い。
辞めたとはいえヒュバルスは団長の座にあったのだ、ゼルスト王国でトップクラスになる。
チャミはその彼と対等に渡り合っている。
ヒュバルスが言ったように彼の剣はなかなかチャミを捉えられない。そしてチャミの拳や蹴りは何度か当たっているがヒュバルスは全く気にしていない。
徐々にチャミから血が流れる、かすり傷とはいえこれ以上血が流れるのはまずい。
兵たちからこれは勝つと安堵の声が上がった瞬間ヒュバルスが吹き飛ばされた。
「チッ!」とチャミが舌打ち「芯を外したか」
ヒュバルスは踏ん張り倒れる事はなかった。
「勁か。これはこれは受けた経験があるのでな」
勁、武術家の高位の技だが王国の武術大会には数人の使い手は出てくる。騎士団ヒュバルスも戦ったことがある。
「これ以上戦いが伸びるのは避けた方がよいか。まだ何か持っていいそうだな」
と言ったヒュバルスが大きく息を吐く。
「神速だ、ヒュバルス殿は距離を一気に詰める技をお持ちだ。チャミ殿気をつけてください」
ウテヤロワの警告を合図にヒュバルスの体はチャミの目の前に現れる。そこからの一気に突き。
知ったところで避けようのない技だ。
剣はチャミの胸を貫く。
そしてチャミの体が宙に浮き、弾ける。小さな爆発だ、小さな肉片となり飛散する。
「な!」しかけた側のウテヤロワが驚きの声をあげる。
本来こうなる技ではない。
空中に舞った肉片に羽が生え飛び出した、よく見るとそれは虫ににた生き物の姿をしたいる。
地に散った肉片もさらに小さく分かれ、多数の足も持つものは素早く走り、高く弾け飛ぶもの、長くの這い回るものになる。
ヒュバルスの足に何かが絡みついた、避けようと自分の足元を見た瞬間左目から何かが入り後頭部を弾かせた。
小さいものたちはヒュバルスと兵達に襲い掛かる。
「うあぁ〜」兵たちの悲鳴があがる。
剣を振り回しても1匹切りつけれる程度、自分の周りには多くの小さいものがいる。
盾は役に立たず、鎧に取り憑いたものが隙間から入り肉体を喰らい始めた。
阿鼻叫喚の図がそこにある。
すこし離れた場所にいた兵は恐怖のため、仲間を見捨て逃げ出してしまった。
人の声がしなくなっても何かが蠢く音や食らう音が続いた。
やがてその音も聞こえなくなった時ウテヤロワが我に帰った。おまりの光景に目を離せずにいた。
「殿下、御無地ですか」と王子にかけよる。
王子はまだ倒れている兵達から目を離せずにいた。
「あれ」と指差す
見れば倒れたヒュバルスに小さい物が集まり鎧の中にらいってゆく。
ウテヤロワが王子の前に立ち、杖を構える。
ヒュバルスが大きく振るえると、ゆっくりと立ち上がる。
「怒りの光。。。」呪文を唱え始めてたウテヤロワを手を広げ止める。
折れ下がった頭が前を剥き、失った目がぐるんと再生されてゆく。
「チャミ殿か?」
ヒュバルスだった物が返事をしようとしたが音になっていない。
何度か練習してなんとか聞き取れる声をだす。
「チャミだ、もう少し時間をくれ」
その顔は以前のヒュバルスやチャミのものとは違った。
「今のが蟲使い本来の戦い方で、俺たちが街に入れない理由だよ。実際に見た者ものは少ないはずなんだが、衝撃を持って語られたこの情景に人々は恐怖し恐れた」
街を守る警備隊どうにかなる相手ではない、ましてや無差別に人々をおそったら。自分達の悲惨な未来を想像してしまったのだろう。
「古い話は忘れ歪められ恐怖だけが人々の中に残る。そして人々の中に蟲使いを街に入れない禁忌が出来上がった」
「これはなんと言っていいか、凄まじいものですね」
ウテヤロワが近づいてきた、まだ王子はその後ろに隠れている。
「威力で言えば大火炎魔法はこれ以上だと思うんだが」
「人の死に様としてはですよ。これは私の知る限り最低な部類に入る」
そうだとウテヤロワ、頭が再始動したようだ。
「逃げた者がいる、殿下がここに来たことが知られてしまいました。秘密裏にハビザル公国へ入国する計画ができなくなってしまった。この騒ぎのせいで入国は拒絶されてしまう」
静かにしているので入国させてくれが、通じなくなった。王子が静かにしていても王国は黙っていない。
「やはり海洋諸国へ行きましょう」
「それはダメだね。それでは完全に駒にされてしまう。国に繁栄滅亡が繰り返されている地域だよ、甘さはない。行けば王子は自分の意志で動くことはできなくなる。御旗として担がれるのならマシだが、エテレーザル王国との交渉材料にされ引き渡される可能性も大きい」
チャミの言うことは考えられる。
「殿下、どうなされます」
ハフロス王子は顔を上に向け目をつむった。王宮を逃れる時は伸ばされた手を掴んだ、2手に分かれる良きは反対する者がいなかった。
今回は違う、どちらにも同じように利と危険が待っている。たとえ間違った道でも自分で選ぶ必要がある。
「ハビザル公国の門を通ろう。我らの考えを全て伝え真意を持って説得する、王国だけでなく公国にも利があるのだと」
「もし入国できても厳しい目に晒されるでしょうね、その価値がハフロス王子に有るのかといつも測られる」
「私は示す必要がある。もっと早くできていればヒュバルス殿に賭けてもらえたのかもしれない」
この時を持って、ハフロス王子は少年であることを捨てる覚悟をした。
「お手伝いいたします」とウテヤロワ。表情に変わりはないが嬉しそうに見えた。
「入国した後は御二人が勝手にしてください。私は入国できる可能性を上げましょう」とチャミ。
「これも私たちの運命かもしれませんね」
チャミは口を広げ天を向く、その口に3本指を入れ短い棒を取り出した。
それは、片手に収まる赤い半透明な六角柱な形をしていた。
王子に渡そうとする、唾液で粘ついていたので一瞬躊躇したが、すぐに意を決して受け取る。
「それはハビザル公国の王宮地下にある宝物庫のガキ、扉を開けるには合言葉が必要で。『父と母を奪った世界など壊れてしまえ』というものです」
淡々とチャミが続ける。
「両親の死によって5歳で即位し以後国民や臣下に多大な苦痛と犠牲を与える。そのために19歳に部下の騙し打ちで死んだ狂王センレーゼ・ガフルド・ハビザル、俺の本名です」
「チャミ殿、公国が王を失ったのは。。。」
「チャミは幼少時の愛称だ。名目上公国は王の帰還を待っている、そこガキを持つ者を拒むことはできない」
「このような大事な物、いただいてよろしいのですか」王子がガキを胸に深く頭をさげる。
「もう200年以上昔の話だ、いつの間にかこのカギを見ても何の感情も湧き立たなくいた。私の怨恨、公国の悔恨。もうお互いに解放されていいころだ」
話はここで終わり。
ハフロス王子やゼルスト王国がどうなったのか、この話を聞いた者で良きように続けてください。
王の眠る森 野紫 @nomurasaki
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