第5話

「どこに向かっているのかそろそろ教えてもらえませんか。それとも私も信用できませんか」

ハフロス王子が驚く。ウテヤロワがハフロス王子に固く口止めしたことを、本人が聞いた。


「騎士団が大事なのは仕える国、王や王子は基本だれでもいい。彼はそんなタイプ」

チャミがさらりと話す、ことさら秘め事でもないらしい。

「女騎士様は王子が大切なのであって、ハフロス殿下ご本人が大事なわけじゃない」

「ノスワース殿はそのような方ではない」ハフロス王子が反論する。何を言われたのか理解したのだ。

「甘酸っぱいな。じゃあ想像してみてくれ、王子が王国を諦め農夫として生きる事を選んだ時、あの女騎士さんはハフロス農民の横にいるかな」

「私は諦めない」

「したとしての話だ」

少年の熱にあてられないよう、チャミはゆっくりと話す


王子は想像してみた、答えはそれほど考えずとも出る。

「あの方は、そのような情けない男と一緒にいるような人じゃない」

「そうならいいな。覚えておけ愛のためなら女は怖いぞ」


「ウテヤロワさんなら、王子が農夫としてしか生きる道がなかったとしても、それを選ぶだろうと思ったから連れてきたんだが」

「確かに、私はなんであれハフロス殿下に生き伸びてほしい」


「いつからエテレーザル王が怪しいと疑っていたんです」

チャミがウテヤロワを見つめ目の奥に何かを探しながら聞いてきた。

「昔からですね」

「どうして、会った事が有る?」

「まさか。どうして私が他国の王とお会いできると考えたのです」

「そうですよね」

この会話を後に全てを知ったハフロス王子が思い出す事がある、言葉以外でかわされる会話も有るのだと。


チャミは話を変えた。

「王子が本当に農夫になってくれるなら、ここ辺の村に紹介して終わりなんだけどな」

「残念ながら、殿下にその道はございません」

ウテヤロワは乾いた笑顔で答える。

「チャミ殿はゼルスト王の良い話を聞かなかったと以前言われていましたが、愚王という噂もなかったと思います。極めて普通の王でした、優れた家臣に支えられ国をおさめておられたのです。著しく劣る欠点がない、それは王にとって良い資質だと私は思います」

厳しい目だ、ギリギリけなしていない。

ハフロス王子も驚きの大きく開いた目を向ける、ウテヤロワからの父への本当の評価を初めて知ったのだろう。

「新しい王は違うと。何故そんな男が王になる事を皆は許すんでかね」

「自分達がどうにかできると思っているんですよ。実際簡単に手綱を握れそうに見えますから。ですが臣下がその才を生かすには王の器も必要です。彼にはその度量はないでしょう」

「いずれ国が荒れ王子が望まれると?」

「多分ですが混乱を利用してエテレーザル王が出て来るのが先でしょう。王子の名が人々から上がるのはその時です」

エテレーザル王が王子を手元に置きたかった理由がこれだ。侵略戦争が王座奪還戦に代わる。


「だから野に沈んでしまう事はできないと」

「私は国民に責任がある!」

叔父の計画をウテヤロワから聞かされ頼るものがなにも無いと知った時、彼の覚悟は決まった

「その意志が有るのなら、隠れて生きるのは辛いしょうね」

「どこに向かっているのか、今の話を聞いた上で答えていただけないでしょうか」


「ハビザル公国」とチャミ。

「ハビザル公国ですと、海洋諸国じゃ無かったのですか」

「海洋諸国に行くんだったら森を出てすぐ南に向かったさ。だが南東に向かった、だから貴方もどこへ向かっているのか判らなくなったんでしょう」

「ハビザル公国には殿下は入れない。かの国は周辺国家と相互不可侵の条約を結び他国への不干渉の姿勢を示している。紛争の火種になりかねない王子を受け入れるわけがない」


「策はある。公国は7人の公爵の合議制で政治を行っている。貿易は行っているので鎖国してる訳ではないがすごく閉鎖的な国だ、それは何故か」

ここで秘策の公開だ、チャミが微笑む。

「罪が有ると聞いています」

「そう王の暴挙を止めるため、時の公爵たちが王をうった。それで王家が途絶えてしまったが、彼らは新た王をいただくことなく王の帰還を待つと称して公国を名乗っている。己が罪の意識のためだ」

「だから他国と関わり合うことを嫌がる。殿下の入国など許すはずがない」

「拒めばゼルスト王家が滅ぶとしてもか、また自らの手で王国を滅ぼすと言えば彼らはどうするだろうね。ヌバール卿が王ではゼルスト王国がどうなるか公国の連中でも想像できるだろうさ」

「それは、脅しじゃないか」


「いや、だめだ。躊躇するかもしれないが、王子を受け入れ場合今のゼルスト王国との関係が悪化する」

「ハフロス王子が公国に向かったと知っているのはここにいる3名しかしりませんよ、黙ってればいい。ハビザル公国にいる間は王子はゼルスト王国には関わらないと盟約すれば入国できるでしょう」

確かに排他的な公国に誰にも知られずに入国したならば、王子の安全は保証される。だが

「だめた。それでは野に下ると変わらない。いざ立った時に王子を王子とする証拠する者や後ろ盾がない。海洋諸国へ向かうべきだ」

チャミが首をふる。

「公国に穏やかに眠る時間はさほど残されていない。エテレーザル王は即位直後に南に進軍、4年で3ヶ国を下し海を得た。その勢いのまま海に出て2回東に軍艦を進めている。元々高地のエテレーザル王国は陸軍は強いが海軍はなかった、急拵えの海軍で海上を主戦場とする海洋諸国に勝てるわけがない。2度とも失敗に終わっている」

「20年近く昔の話だとおもいますが」

「当時からエテレーザル王の野望は大陸東の統一だ、今も変わってはいない。今回魔の森の東側に足場を得る、今度は陸と海二つの道を通って東に来る」

公国が望まずとも戦場になってしまう、ここにゼルスト王国王太子ハフロス王子が居る意味は大きい。


「いつから、エテレーザル王の野心を」

即位したエテレーザル王は拡大路線に大きく舵を切る。だが二度の海洋遠征に失敗しその後は内政に力を注いでた。

このため、エテレーザル王国の拡大路線は若さがなした事だと考えるものも多い。

だが、国政をになう者の中にはいまだエテレーザル王を注視している者達も少ないがいる。


エテレーザル王の動向をチャミのような流れの薬師が何故知っている。

「昔からだよ。あ〜こいつはタチが悪いってね見てた」と言われても納得は出来ない。

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