第4話

「さすがロカ様、一撃です」と男が倒れたチャミに駆け寄る。

他にも2名。

慎重に近寄りチャミが死んでいるのを確認すると、その亡骸を調べ始めた。


「こいつ金貨を5枚も持ってました」と一人が汚い袋をあげた。

「金で雇われ従者の靴を履いてたか。そんな汚い者が触った金貨などいらぬ。お前たちで分けろ」

離れていたところにいた騎士が答える。

彼の後ろにも数人の騎士がいた、彼らは金貨には関心があったようだがロカには逆らえない。

「その剣も汚れてしまった。そいつに刺したままでよい」

「ご自分の武器はな大事にすべきかと、それに騎士の剣が敵の血で汚れるのは誉でございませんか」

すぐ後ろに控えていた騎士がロカに意見した。

すると彼の顔の横に剣先が飛ぶ。ロカは剣を3本空中に舞わせていた。

「僕に何か言った?」

「いえ、何も」

「次から気をつけてね」


踊剣のロカ、エテレーザル王国の魔法騎士。剣に飛行魔法かけ同時に4本の剣を操る。

「やっぱりこっちは囮だったか、そうなると本命は北か。テスビシアが当たりを引いたな」

彼は北にも追手を放っていると言う、二手にわかれたのだ。王子の足跡を消した策は彼らの行動に影響を与えていた。

「さて、さっさと帰ろう」


王子の味方を減らし、危機一髪のところで自分が助けに入る。

彼はそう命令を受けていた。

王子が見当たらないのであれば戻るしかない。

これが経験のあるテスビシアであれば慎重に辺りを捜索しただろう、人の運などこんなものだ。


ーーーーー


「何故王子は現れない」クルハは焦っていた。

午後にはラシイタの門前に着いていた、国境を越える準備として今夜このを野営地としたのである。

王子を待つためだ。

そして夜、王子が来ない。

ノスワースは日が落ちる前には森に登っている。


一方、エテレーザル一行には前日に連絡が有った。王子が北に向かったと。

南北に走る魔の森の北は斜めに大陸を二分するモヴァヌロア山脈とぶつかる。山脈の西には大陸一の大国のムザルス帝国がある。

大陸の西側半分を国土とする強大な国家だ。

エテレーザル王国を含めいくつかに分かれている山脈東の国々では太刀打ちできない。

高いモヴァヌロア山脈がムザルス帝国の東進を拒んでいる、そのおかげで大陸は統一されていない。

ムザルス帝国へ王子が逃げた。

それは東に攻め入る口実になるが、帝国は山脈のこちら側へは関心をしめした事はない。

拒絶される可能性が高いその道を選んだという事は、エテレーザル王国の思惑になにかしら気づいたという事だ。


それを裏付ける話がもう1つ、それは同行者と思われる魔術教師のウテヤロワの正体。

彼はかつてエテレーザル王国の宮廷魔術士だった、名前をパワラン。

公爵家の庶子だった彼は、その魔法の才能により父に自分を公爵家の一員と認めさせ、国内随一とまで言われるようになった。


何より報告を受けた者たちを驚かせたのは、彼がかつてリーニシカ姫の婚約者で恋人であった事だ。

リーニシカ姫は前王の四女、そしてゼルスト王に嫁しハフロス王子を産んだ王妃だ。

ハフロス王子がパワランの子かと疑った解下品な輩もいたが、姫が王子を産んだのはゼルスト王国へ行って4年後、その時パワランは確実に国内にいたのでその可能性は否定された。

彼は牢に入っていた、無実の罪で人質にされたのは誰の目にもあきらかだった。


当時、武力を欲したエテレーザル王がゼルスト王国から兵を借りるため、妹を差し出した。

王が変わったばかりのエテレーザルとゼルストでは国力は圧倒的にゼルスト王国が上だった。

好色なゼルスト王が1人の姫のために国益にならない出兵をするとは思われなかったので、派遣を決めたと聞いた時人々はあり得ない噂を囁いた。

エテレーザル王が不死の秘術を伝えたととんでもない噂だ。


人々が噂する中で婚儀が行われると、ゼルスト王はリーニシカ姫に心を奪われた。

ただ一人の姫として、彼女を愛したのだ。


パワランが王子の近くにいた事を知り、エテレーザル王は王子の存在を計画から消した。

彼がエテレーザル王国へ良い感情を持っていないはずだ。


ーーーーー


王子の身は北にはなかった。

南東に向かう馬車の横を歩いていた。

ロバが引く小さな馬車でチャミの行商用のものだった。


御者の席にウテヤロワが座れば、この馬車に人の乗れる場所は他に無い。

馬車の左右をチャミと王子が歩く。

王子はチャミから服を借りてブカブカの汚い格好になっている。

それが馬車についてい歩いているのだ、奴隷だと思われてもしかたがない。


チャミの提案で王子も納得はしているが、ウテヤロワは飲み込めていない。

彼はチャミにばれないよう王子に身体強化と足に防御魔法をかけていた。

そんな魔法をかけられた子供は目立つが、大きな街に入らなければそれに気づける魔法使いに出会うことはまず無い。

そして、蟲使いのチャミが一緒なのだ街には近寄らない。


「ほんと驚いた」この王子のつぶやきは森をでてから何度となく繰り返されている。

「剣に貫かれて、どうして生きていらるのか」

「蟲使いの体には多くの蟲が住んでいいて、そいつらが俺の大事な部分を守ったと何度も言ってるじゃないですか」

そう何度も答えているチャミはこの会話に飽きている。

だがウテヤロワでさえ何度聞いても想像ができない、まして王子では物語を聞いている気分になる。


「あー、こう何度も聞かれるは面倒くさい。蟲使いの秘密を教えるから聞くのはこれで最後にしろ、わかったな」

そして返事をまたず話続けた。


「どこから話せばいいんだ、そうだな俺が蟲使いになった時の話がいいか。その時もちょうどあの森で俺は死ぬとこだったんだ」

「え、どうして」

「色々あったんだよ」その色々も聞かせて欲しいと思った王子だった。


「まあ結局は自分のせいなんだが、一緒に森に入ったやつに後ろから切り付けられた。とどめをさしてくれればいいのに、それは躊躇しやがった、そのまま置き去りにされた」

「そこに先代が通りかかり死にそうな俺に"生きたいか"と聞く。そんな事当たり前じゃないか、そしたら今度は"生きて何をしたい"だとさ。そう言われ、自分を裏切った奴らに復讐したいと強く思ったね」

「あの時先代は笑ったと思う、いい奴が見つかったと。今なら俺もそう思うね」

「そして俺に自分の飼っていた蟲を移し始めた。移すってのは違うな俺は蟲に貪られた。生きたまま食われ初めたということさ」

「そして俺を食った蟲は食った臓器の代わりになり始めやがった。心臓を食った蟲は心臓の代わりに、肺を食った蟲は肺の代わりにとな」

「蟲は俺の体を食い尽くすと、今度は蟲同士がお互いを喰らい始めた。もう俺の体の代わりになっていたから痛みは俺が感じる。何故俺がこんな目に遭うのか切り付けた奴らと先代への憎しみが当時の俺を支えていた」

「そうして痛みに耐えていると何故か自分のじゃない記憶がある事に気づいた。その記憶のおかげで蟲の調伏方法も知れた、簡単に言えば強い意志で蟲を従わせると言うものだ」

「なんとか蟲を手懐けて森を出た時には何年か過ぎていた」

「ふらふらの足取りで森を出ても何もすることができない。まともに歩く事さえ当時の俺には難しかった」

「腹が減れば蟲が勝手に離れ何か食ってくるので、じっとしていても腹が空かない。体を動かす練習に飽きれば、出来るのは考える事だけだ」

「最初に考えたのは俺の中に有る別人の記憶ってなんだろうなとね。答えはすぐにわかったその記録に中に埋もれていた。歴代の蟲使いのものだった、蟲が記憶を記録して次の蟲使いに伝えていた」

「その記憶を持って蟲は寄生先を変える。寄生先に残っている意志と蟲に残る記憶、より強く生きたいと願った意志がその体の主人で蟲使いなのさ」


「何とも壮絶な話ですね」とウテヤロワは驚く。

「先代は死にたかったんだ。強い生への執着を持った者に寄生し自分の意思を食らってもらう事でしか自分を消滅できない」

「蟲使いが増えない理由がわかりました」

「一部の蟲を他者に寄生させる事もできるが、2人目の蟲使いになれるのは稀だな。数年で耐えきれずに死ぬ」


チャミの話を聞いて、2人はその後気楽に話せなくなってしまった。

黙ったまま夕方になり野営準備をする間も続いた。

森の外では焚き火を囲む、チャミは相変わらずの物しか口にしないが、2人はちゃんと料理したものが食べれてる。

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