第3話

チャミが言ったように騎士は2日後に森を抜けた。

襲撃はなかった、それが逆に2人を焦らせた。王子の元に向かったのではないかと。

運よく森からの魔物を警戒する巡回兵と遭遇し、状況を説明してエテレーザル王の住む王都へ向かうことができた。

そして4日をかけて、王都に着いた。


だがすぐに王への謁見が叶わない。

城についてすぐに王子の置かれている状況を一通り説明し助けを願い出ている。

2人の騎士は客人としての待遇を受けているが、危険が迫る王子を待たせているため焦るばかりだ。

だがエテレーザル王国からは'待たれよ'という返事しか得られない。


「これ以上は待ってられない、あそこで別れたのが間違いだったのだ。私は王子を迎えに行く」

ノスワースは我慢の限界だった。

「1人で行ってどうする。敵に襲われ王子のお命を危うくするだけだ」

そう言われクルハを睨む。


「あんな下賤の者に王子のお命を預けて良かったのか。王子のこれから偉業に傷がついてしまう」

彼女は王子の帰還と玉座の奪還は成功すると信じている。

危機である事は理解しているに、王子が本当に死ぬと思っていない。

ここまでいくと王子の狂信者だ、そんな目でノスワースをクルハは見た。


彼女の欲しているものは自分とは違うという。

あの男の言葉を思い出していた'何としても叶えたい望み'、2人は根本的にそれが違うのだ。

「ゼルスト王国を奪え返すには、エテレーザル王の力がいる。ここでその時を待つのが得策だ」

クルハの言葉に矛盾がある、ノスワースは気づいていた。

ゼルスト王国は他国に侵略をされたわけでは無い。内乱で王が変わっただけだ、新王にも王家の血は流れている。国名もゼルスト王国のままだ。

クルハの奪え返したいのは自分を優遇するゼルスト王国。それには、ハフロス王子は絶対必要なピースという訳ではない、他の傍系の王子でも良いのだ。


だがノスワースは違う、彼女はその身も心も王子にささげていた。ハフロス王子でなければならないのだ。

親衛隊に入りお側でお仕えするよう命じられた時、彼女はその時が来たのだと理解した。自分に相応しい相手と出会ったのだと。

伯爵家の娘とした生まれた彼女だが、家のため自分の運命を他者に勝手に決められる事を拒んだ。その選択が騎士への道だった。

幸い才能があり、体力の足りない分は魔力で補えた。本人は否定するだろうが身分の力もあり若くして親衛隊に入隊した。


こうして彼女は自分で運命を選べる立場になれたと思っていた。

ハフロス王子の初めての相手は自分、そうみずから動いた。

政治的に正妃になれないだろうが寵妃には選ばれる。王子は優しいお方なのだ一度手にした花は手放さない。

この望みにはゼルスト王国が必要なピースではない。相手が高い身分であれば彼女の望みは叶うのだから。


「明日、王が非公式にお会いになるそうです」


ーーーーー


「ハフロス王子がいないとは」


王都城内の一室、そこには数人の男たちが座っていた。

エテレーザル王とその家臣たちだ。


「魔の森に潜ませていた手の者からは王子を見つけた連絡はないのか」

「無い。まだ探しているようだ、すでに魔物に襲われ死骸さえ無くなっているかもしれんが、証拠がない」

「全く迷惑な話だ。これでは計画が。。。」

隣の男が「おい」とたしなめ、中央に座るエテレーザル王に視線を送る。

エテレーザル王は目を閉じ腕を組んで座ったままだ。この議論をただ聞いている。

ゼルスト国動乱はエテレーザル王が企てたものだ。その計画を家臣が口をするなどこの国では出来ない。


計画と言っても簡単なものだった。

ヌバール卿を焚き付け金を渡す、貴族の切り崩しの策もエテレーザル王国が与えた。

準備が整った時ヌバール卿を一推しした。王の首を彼の前に転がした、もう彼は前に進むしかない。

王太子もエテレーザル王配下の者が手を回す予定だった。

次の駒とするためにかくまい、使える時まで待つのか今回の計画だった。


街道向こうの小さな土地をゼルストからもらう事はヌバールと話はついている、それが今回の取引の対価なのだから。

国王の器でない者を王にしたて国を荒らす、そしてそのゼルスト国民を救うために立つ。

王子が手に入ったのであれば、王子を旗頭にする計画だった。

無論、傀儡の国とするため王子はきちんと教育する。


だが、王子の行動が思っていたよりも早かった、手の者が向かった時にはすでに逃げた後だった。

そこから計画が少しずつ狂っている。


「王子を迎えに行けば、王子が我が国にいることがゼルスト王国にばれてしまう。当然、引き渡しを要求してくるだろう」

「ここで王子を引き渡してしまうと、後でゼルスト国を救うと挙兵しても共感が得られなくなる。拒絶すれば領地譲渡の約束を保存にされかねない」

「森にいた者たちに最初から味方だと王子に接触させれば良かったではないか」

この部分は宰相が指示したこと知っていて他の者が責める。

「後々の計画の邪魔になる身近な者を排除する。あの時は皆も納得したであろう」

その後も現状への愚痴と言葉尻を捕まえての責めが続く、建設的な意見は出てこなかった。


エテレーザル王がそのままの姿勢で話し出す。

「ゼルスト王国に祝いの使者を出す」


出席者は王の真意を計りかねていた。

「戦いに行くのではないから、兵は護衛の分だけでよい。ラシイタの門前で一部は帰ってくることになるが、他はそのままゼルスト王国へ向かい新国王へ私からの祝いの品を届けよ」

一部が戻る、これが何を意味すかをこの場で聞く者はいなかった。

「なお今回は将来のため各諸侯の子に外交の現場に連れてゆけ」

「は、王の仰せのままに」

返事をした者達は王子と背丈のにた子を頭で探し始めた。


ーーーーーー


「楽にせよ、非公式の会見と申したはず」

「ありがとうございます」とノスワースいって頭をあげた、膝つき騎士の礼は解いていない。

後ろにいるクルハも同じ。


「私は2日後にゼルスト王国に新国王へ祝いの使者を出す」

その言葉に反応しそうになるノスワースに王は手を広げせいした。

「その一向にお二人も途中までご一緒していただきたい」

我ら2名を土産として偽王に差し出すつもりなのかとノスワースが絶望の色をみせているのに対し、クルハは希望の色を見せていた。


「クルハ殿は理解されたようだな」

王の中でノスワースはもう居ない事になった、言葉も視線もその後ろに向けられている

クルハはエテレーザル王の好みに合っていた。

ーこの者が手に入るのであれば、王子はいらんかもなー

そんな事を考える程に


ーーーーー


時は戻る。

何故か1人で、チャミが魔物の森を南に歩いている。


鼻歌混じりに薬草を摘んでいた。


向こうに熱冷ましの花が見えたと一歩踏み出した時に、突然彼の胸に剣が生える。

後ろから刺されたのだ。


だが彼の後ろには誰もいなかった、ただ剣が背中らから胸を貫いていた。

チャミの膝が崩れ仰向けに倒れる。

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