第3話
「君達が何を目的として、公園の中で叫んでいたのかは―問わない。だが―近隣の方に迷惑を掛けることのないように」
僕とうららは、2人で教頭先生に叱られている。昨日の僕等を誰かが学校に通報したのだ。第三者から見れば、僕等の行動は奇行でしかない。
「三森学校の生徒として―自覚を持って行動して欲しいですね」
正直―上手く理解できないお説教をされても、心の奥深くには刺さらない。ただ、叱られているという、不快感だけが溜まってくる。そもそも―公立の中学生の自覚とか求めないで欲しい。中学生は中学生だ。
「今後このようなことがないように」
「はい」
「分かりました」
白々しく答えた。今後の僕等の行動は―アンタに決められたくはない。そんな反骨精神が皆無ではないのだ。
僕等は反省した振りだけして―部屋から出た。
ダッシュで、その場から離れる。僕等はなんの示し合わせもせずに、そうした。
1階の部屋から、階段を登り、2階、3階と一気に駆ける。さらに上に向かって、屋上に繋がる踊り場へ。
「はっはは」
「ふっふふ」
笑いが止まらない。なんでだろう。なぜか、おかしかった。
きっと彼女と一緒なら、それだけで―僕は楽しいのだ。
そう、僕は彼女といたいのだ。
それから、僕等はいつもの公園に行った。UFOを呼ぶ儀式は、休むように僕は提案した。彼女とは―別の話がしたかった。
うららの故郷の話をした。彼女から、別の惑星の話を聞いたのは、初めてだったので驚いた。
宇宙人が地球に来るときのルールを聞いた。そのとき、自身が宇宙人であるとう自覚がなくなる、という。彼女は例外な方なのだ―と。今の僕にはあまり価値がない。
前の僕なら確信に近づいたと、喜んだだろう。が―今は、そう思わない。ただ、喜々として話す彼女に引き付けられた。
あっという間に、あたりがだいぶ暗くなった。もう、夕日は完全に沈み、明るい星ならはっきりと見ることができる。まだ、5時半なのだから、冬場の日は短い。
「うらら―」
隣に座る彼女に僕は言った。
「なに?改まって?」
「好きだ」
この上なく直球に―言った。
「えっ?」
彼女は呆気に取られたようだ。いきなり、こんなこと言われたら、理解できないのも仕方がない。
「僕は―月里うららのことが好きなんだ」
この次の瞬間―彼女がにやり、と意地の悪い笑顔を見せた。
―振られた。
即座に、理解する。
この後―僕の記憶がない。
目を覚ますと、僕は―白い天井を見ていた。上体を起こして見渡すと、天井だけではなく、部屋全体が―白い。
ここはどこだろう…。なぜこんな所に…。確か僕は公園にいて…。
曖昧になった記憶を徐々に、正確に把握していく。
うららと一緒にいて…。振られて―倒れたのか。こう考えると死ぬほどダサいな、僕は。
少し離れた場所に窓がある。そこに向かって、歩く。
窓の外を見て―絶望した。
そこには―地球が見えた。
衛星写真を生で見ているようだった。
つまりは―宇宙人だったのは、僕だ。
恋したことで地球を追い出されたのは、僕だ。
『宇宙人は意外とどこにでもいて―あまり特別なことではありません』も、『宇宙人が地球に来るとき、自身が宇宙人であるとう自覚がなくなる』のも、なにより、『宇宙人がいるという確信を否定されると、存在ごと全否定されたように感じるの』のも、納得できる。
すべてに合点がいった。
僕の方が宇宙人なのだ―と。
そして、唐突に思い出す。地球に来た目的を。宇宙人は地球に来る目的があるはずなのだ。
その瞬間、直感した。
僕の目的は―なるほど、地球の中学生がどういう生活をしているのか、調べること、か。もっとも、強制排除されたようだけれど。
―そのために、拒絶されるのが嫌だったのか。
加えて、個体のサンプルの調査も求められていた。
―だから、うららと一緒にいたかったのか。
僕は、もう二度と会えない彼女のいる地球を見た。
―寂しいな。彼女と一緒にいられないのは。
僕は―僕の意思で恋をしたのだ。
そう確信した。宇宙人の目的とか―関係ない。これは恋だ。
しかし、疑問が残る。
―彼女は何者だったんだ?
少女は電話を掛ける。
相手は自身の上司に当たる人間だ。休み時間の電話も相手は彼である。
「もしもし。地球防衛隊関東支部―月里うらら、任務完了。仮称・宮部叶人―無事、地球外に出て行きました」
少女は空を見上げ、一等星のごとく輝くそれを見ている。
「彼を乗せたUFOは―東の空を上昇していきます」
叶人が乗っているアレをUFO―未確認飛行物体―と言っていいのか、と彼女は少しおかしくなった。
月里うららは地球防衛隊の一員だ。彼女の仕事は、地球に来た宇宙人に恋愛感情を抱かせて、追い払うことである。
仕事として、叶人に接近し、恋愛感情を抱かせた。初めから、そうするために彼女は転校してきたのだ。当然、宇宙人には詳しい。
上司は彼女に一応のフォローをする。
「ご苦労。大変だったね。」
「いえ―仕事ですから」
「悪いね―中学生には、中学生じゃないと恋愛してくれなから」
「いえ。今回もそれなりに面白かったので―いいです」
「まさか―本当にアイツが好きになったの?」
「それはないです。…いえ、割と気に入ってました」
そこで電話を切る。
彼女は自動販売機でコーンスープを買った。飲み口の下を潰してそれを飲む。
「さよなら、叶人」
そう呟く。きっと涙の味がする。
宇宙人とは恋ができない 愛内那由多 @gafeg
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