8、カードショップ

──にゃは!まったく!受け入れるのに時間かかりすぎ。頭かってーんじゃねぇの!──


ゴスロリ格好の服装に戻し、サングラスを外し、持っていたタバコがどっかに飛んでいき、頬の十字傷をシールの如くベリベリ外していく契約さん。

神様のコスプレは人間と違い、10秒もあれば簡単に早着替えが出来るようだ。


「あとさ、契約さんのその芝居かかったような喋り方あんまり好きじゃないんだよね……。なんかナレーションみたいで……」

──あぁ、そう……──


そんな指摘をすると、しょんぼりと首を下ろし「あー、あー」と素で話すテストを行っていた。

そのナレーション語りみたいなやつ、やめられるのかよ……。


「こほん。そんなわけでカードショップ『契約神』オープンしました!にゃは!」

「カードショップ?契約神?」

「あぁ!チアキ専用のカードショップじゃ!1万枚以上あるラストコンタクトのカードを揃えられるのだ」

「おぉ!すげぇ!」


カードショップってなんでこんなにワクワクするんだろう!?

しかも、新築っぽい匂いが良いね!

ハズレなカードゲーム店は、不衛生で汗の酸っぱいにおいが常にするというモテない野郎の溜まり場と比べると居心地も最高である。

並べられたショーケースのカードを見て、ついテンションが上がってしまう。

うわぁ、何あるんだろう!?


「にゃは、にゃは。好きに見たまえチアキ君や」

「『味方特効ゴブリン』……。味方にしか攻撃できないラストコンタクト黎明期のデフレ1円カードをショーケースに入れるなや!なんか凄そうに見えるじゃん!」

「にゃははは……」

「『存在しない騎士』……。このカードを召喚した時、このカードを破壊する意味のない30円のネタカード……。こういうモンスターカードはストレージに置けよ……」


確かにレアカードもショーケースに入っているのだが、明らかなネタカードすらご丁寧に飾られているのでそちらにしか目が行かない。

雑魚カードだが、嫌いになれないネタカードである。

デッキに入れてまで使いたいと思ったことはないが……。


「カード自体はこの世界でも使われているわけだが、ラストコンタクトのカードはこのカードショップ限定商品じゃ。ここでしか買えないのじゃぞー」

「そうなのか。契約魔剣だけ渡されて、どうやってラストコンタクトのカードを収集するのかずっと疑問だったんだよ。まさか、契約さんがカードショップを運営してくれるなんて……」

「神運営という奴じゃな!にゃは、二重の意味で!」

「上手いこと言ってんじゃねーよ」


自身が神様ながら運営をしていることと、運営が最高サービスという意味を込めた神運営はちょっとだけ面白いのがズルい。


「まぁ、全部ラストコンタクトカードというのも味気ないからこの世界で使われているカードもいくらか仕入れているがな」

「あ、本当だ……」


ミサの家にペット兼警備員として飼っている魔物の『ホワイトウルフ』もショーケースに飾られている。

強盗程度の牽制にはもってこいな魔物カードである。


「とりあえずチアキにはガンガン強くなってもらう必要がある。そこでメンター兼カードショップ店員として契約を司る神自らがお前をプロデュースしてやろう!にゃは、にゃは、にゃは!」

「うわっ、すげぇ……。『爆乳マーメイド』じゃん……。イラストアドに全振りしているナイスデザイン。懐かしい!素晴らしい!」

「聞けや!」

「え?俺に話してたの?」

「お前以外、店にいないじゃろが!にゃば、にゃば!」


ちょっとキレたらしく、にゃはの笑い声が濁点付きのにゃばに変わってしまった……。

次からはもうちょい話を真面目に聞こう。


「どうじゃ、どうじゃ?ラストコンタクトのカードもっともっと欲しいじゃろぉ?」

「めっちゃ欲しい!使わないカードもあるだろうけどめっちゃ欲しい!」


前世では購入出来なくてPCのシミュレーターでしか使えない高額カードとかを考えるとコレクター欲がつい出てしまう。


「そんなわけでカードパックを仕入れた!第1弾『契約始まりのターン』入荷じゃ!」

「やたら本格的だ……。しかも、カードパックのデザインがドヤ顔で腕組みしている契約さんじゃん」

「契約を司る神自らがチョイスしたオリパだからな。コンセプトもそれっぽいだろ」


こいつ、形から入るタイプだな。

因みにオリパとはオリジナルパックという意味である。

そのカードゲーム屋が在庫のカードを処分したい時に使われる闇の手法。

確率でレアカードが当たると宣伝しておき、ハズレカードばかり買わせて儲けているカラクリがあるのだ。


「オリパなんかよりショーケースのカード売ってよ。『爆乳マーメイド』とか欲しい」

「あ、ショーケースのカードは全部ハリボテだから」

「……『契約魔剣』」

「こらこら!ノータイムで店を壊そうとするな!」


契約魔剣をカードから召喚したが、契約さんに剣を取られてしまいカードに戻されてしまう。

くっ、この哀しみを何かに当たることが出来ないなんて……。

悔しくて腕をプルプルしていたが、ゴスロリ神様の契約さんはニコニコでオリパのカードパックを差し出していた。


「んで、カード1パックでいくら?150ゼニーくらい?」

「人間よ。お前専用カードを売るのに150ゼニー程度だと?バカにするなよ、人間風情が!」

「ご、ごめん……。お、お高いですか……?」


前世では1パック150円ほどだったので、その程度の値段かと甘く見てしまっていた。

因みに前世の1円で、大体この世界のお金1ゼニーに相当する。

1パック1万ゼニーでも取られるだろうか……。

そんな大金、俺は支払えないぞ……。

そもそもカードなんて高いからなぁ……。


「1パック300ゼニーじゃ。このチアキから回収したお金はカードの仕入れ金や契約を司る神の信仰代として使わせてもらう。これ以上は絶対まけないからなっ!」

「…………」


意外と良心的だった。

だが、そんなにお金は持ち合わせていなかった。

財布を漁ると1000ゼニー札が1枚だけ残っていた寂しい中身であった。

受験のための交通費でだいぶ消えたのであった。


「1パック買います……」

「にゃは!毎度あり!」


700ゼニーのお釣りを受け取りながら、5枚入りのカードパックを購入した。

1回ぶんのカードガチャは後でゆっくり開封しようと、ポケットに仕舞い込んだのである。


「あと、自分の部屋に帰りたい……」

「にゃは!扉を開いてやる。いつでも我はカードショップにいるからな!」


契約さんが何もない空間から扉を出して、開けるとその先は自分の部屋だった。

「さよならー」と契約さんに挨拶してカードショップを出て行く。






──魔王復活の刻が近付いている。にゃは、チアキにはこれから頑張ってもらわないとねー──






消えた扉の向こうで、大事なことを契約さんが呟いた気がした……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最強カードゲーマーは異世界で無双して最強になる 桜祭 @sakuramaturi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ