7、受験終了

「す、すごいよチアキっ!やっぱりチアキは頑張ればなんでも出来るすごい人だよっ!」

「うん……」


第1試験を1番乗りしたミサから詰め寄られて、グイグイと興味を示される。

確かに前世が蘇ったことやカードの力である契約魔剣を使えるようになったこと、なにより自分の経験値がストックされていたのが一気に返還されたことなど数々の異変が俺の身に起きた。

しかし、まさかスペリドすらなんの苦労もなくはね除ける強さが自分にあったのが信じられなくて武者震いをしていた。


「私……、チアキは誰よりも強くて才能があるって知ってたから……。スペリド君に勝って嬉しかったよ……。第1試験突破おめでとう……」

「なにをそんな泣きそうになってんだよ!?ほらほら、まだミサの試合始まってすらいないんだからっ!まだ合格してないんだから感動しないのっ!」

「ずっと……、ずっとずっとずっとずっとずっとチアキがバカにされまくってたのが悔しかったんだもんー!」


星のように輝く金髪を揺らしながら、小さい身体でミサは目が潤んでしまっていた。

それはもう、第1試験突破の感動にしてはオーバーであり、合格が決まったら大号泣するんじゃないかってくらいにミサは自分のことのように祝福するのであった。


「『一緒に強くなろう』って誓い、果たしていこうね!」

「うん。わかってる」


幼い記憶、幼い誓い。

彼女はまだ昨日のことのようにずっとずっと口にしている。

確かに、ミサと一緒に頑張りたいって意思はまだまだ強く俺にも残っていた。

徐々に試合が終わっていく中、ミサの名前もすぐに呼ばれてしまい試験へと足を運ぶことになる。

「じゃあ、チアキに続くからねーっ!」と、赤くなった目をこすったミサも試合へと臨むのであった。






─────






「100メートル走12秒11だってよ!」

「あいつ、実力飛び抜けてないか……!?」


第2試験の筆記試験、第3試験の100メートル走と受験生をふるいにかける入試が続く。

前世では12秒ちょいの数字なんか当たり前なこともあり、それくらいで驚かれることがなんかこそばゆい。

前世ではこんなタイム、平均程度だったし自慢にすらならないレベルだったので、なんか恥ずかしい。

同じ受験生からは『なんかすげぇやつが漆黒学園を受験してる』みたいな雰囲気のまま合格が決まったのであった。


「やったね!これで私もチアキも漆黒学園合格だねっ!」

「ああ。……なんか疲れたなー」

「そうだね……」


隣に並ぶミサと喜びを分かち合い、一緒に帰路を目指していた。

お互いの手には、漆黒学園の合格通知の封筒が握られていた。

どうせ漆黒学園の受験なんか合格するわけないとあきらめていたのだが、筆記の成績は悪くなかったので躓かないで良かったところだ。

いくら『ラストコンタクト』のカードが使えようが、体力が前世並みになろうが、経験値が蓄積されない体質が改善されようが、筆記試験だけには一切影響がなかったので、腐り過ぎなかったことが功を奏した。

これで勉強で漆黒学園を落ちたとなったら、後悔してもしきれなかっただろう。


「これでミサもおじさんとおばさんに良い報告ができるな」

「うん!これからも一緒だよチアキ!」

「そうだな」

「じゃあ、私はこっちだからー」

「またなー」


ミサは手を振りながら別れ道を歩いていく。

彼女が見えなくなるまで手を振り続け、独りになると合格した実感がかなり薄くなった。

長かったようで、すぐに終わった気さえしてくる受験の日は爽やかに終わりを告げた。

ついこないだまでは、スペリドからボコボコにされていた時よりは自分も変われただろうか。


「はぁ……」と息を吐き出すと、自分が住みかにしている寮が見えてくる。

漆黒学園での生活を楽しみにしながら、自分の部屋の入口を開けた。






──にゃは!いらっしゃーい!──




「は……?」


帰宅すると普段なら薄暗く靴を脱ぐための玄関に付くのだが、何故か俺の部屋は契約さんがカードショップをしている店に辿り着いた。

ニコニコしている契約さんが明るく出迎える。

あれれー?

ショーケースだったり、1番くじだったりと前世振りの光景だなぁと懐かしみながら、幻覚を見ているのかと眉間にシワが寄る。

いや、単にカードショップの明かりが眩しかったからかもしれない。

俺の部屋の内装がガラッと変わってしまっている。


「すいません、部屋間違えました……」


バタンと部屋の扉を閉める。


「知らなかったー!まさか近所にカードショップがあるなんて……」


さーて、自室で休まろうと寮内をぐるっと見回すが、何故か先ほどカードショップをしていた店が自分の部屋だなと確信する。

毎日見ている前の住人が付けたっぽいドアノブの古い傷も健在だ。

そのドアノブを回し、また扉の向こうを見る。




──にゃは!いらっしゃーい!──

「いや、おかしい」




バタンとまた扉を閉める。

見間違いを否定するようにキラキラな接客スマイルを浮かべる契約さんが目に入った。

うん、俺の部屋がカードショップになってる……。

どういうことと思い、三度扉を開けたのだ。






──お客さん、冷やかしするなら帰ってくれねぇかな。我はそういう1秒1秒という時間を無駄に消費するクソガキが1番嫌いなんだよ──

「契約さん、めっちゃガラ悪くない!?あと、帰りたくても帰れないんだよ!?」


袖を引き千切った半袖の服を着て、目を隠すように黒くて大きいサングラスを付けて、右頬に十字傷を付けて、タバコをブカブカ吸って煙を吹き掛けるロリ神様が指をポキポキと鳴らしている。

さっきの接客スマイルとはガラッと変わった圧迫した雰囲気を漂わせていた。


──あん?なに?脳ミソ潰して殺してほしいだ?──

「言ってない言ってない。俺の突っ込みが殺して欲しいって聞こえたんなら耳鼻科を受診した方がいいよ……」

──あん?なんだぁ?よく聞こえねぇよ!?カカシが倒れる音の方がよっぽど大きいぜ──

「ひいいぃぃぃぃぃ!?ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!契約を司る神様!お願いしますから怒りをお沈めくださいませぇー!……あ、俺の漆黒学園の合格通知あげますからぁぁぁぁ!」

──にゃは。いらない──


営業サラリーマンがお辞儀をしながら名刺を渡す角度で頭を下げて、封筒を渡そうとしたが契約さんは冷たく拒否されてしまった。

さっきの爽やかに終わりを告げた雰囲気は、一瞬でバイオレンスなモノに変貌していた。

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