6、VSスペリド

漆黒学園の受験。

突然の番狂わせとばかりにスペリドと決闘することになった俺は舞台へと向かう。

その数歩先をスペリドが余裕そうに歩いている。


「…………っ」


勝てるのか……?

今まで3回は剣の打ち合いをして大敗したし、10回以上は素手で一方的にボコボコにされた。

スペリドは、一心学校の中でもその強さに憧れる者はかなり多いと聞く。

生徒の見本になろうと積極的に活動をしているところは本当に見習いたいものはある。

性格は終わっているが……。

舞台に上がるとスペリドが左に曲がっていくので、俺はその逆方向である右に曲がる。


「いやいや、度胸だけは最強かもねチアキは。僕が君なら恐れ多くて漆黒学園なんて受験出来ないよ」

「くっ……」


安い挑発だ、と胸に手を置いて冷静になるように務める。

単純な攻撃ばかりを仕掛けるようにコントロールさせるスペリドの得意分野である。


「僕はね、紫炎学園からのスカウトを蹴って受験しているんだ。降参するなら今だよ?」

「なっ!?……な、なんでスカウトを蹴るような真似を!?」


紫炎学園も漆黒学園に並ぶ有名学園である。

正直、スペリドがスカウトを蹴るのがもったいないとしか言い様がない。


「紫炎学園なんて出来て20年程度の歴史の浅い学校に興味なくてね。漆黒学園と比べると格が違うじゃないか。別に紫炎学園程度じゃあ、僕は満足出来ないのさ」


自慢話を水を得た魚のように語りだす。

何から何まで才能に溢れていて羨ましいものだと妬んでしまいそうになる。


「無駄話は終わりね。これより、決闘を開始する。構え」


舞台に立っていた大人の人が審判をするらしく、スペリドと俺との会話に割り込み、闘いを宣言する。

お互いに利き手で剣の柄を握り締める。

「ごくり」と唾を飲み込み、緊張が走る。

緊張の音で始まりの合図を聞き逃さないか、不安がよぎる。


「はじめっ!」


しかし、その不安をかき消すように決闘開始の合図が放たれる。

それと同時にお互いが抜刀する。


「はぁぁぁぁぁ!」


スペリドが剣を握り締めて、こちらに向かって走り出す。

しかし、いつもよりも強い違和感がある。

なんだ?とその違和感を探るとすぐにそれに気付く。


「消えろ!落ちこぼれのひよっ子野郎がっ!」

「…………?」


動き、遅くないか……?

普段はすぐに間合いを詰められるのに、今日のスペリドはとろくさい。

俺の胴体を狙っている剣の狙いを変えようと、俺の握る契約魔剣を奴の剣目掛けて振り回す。


「せりゃっ!」と掛け声と同時に『ぎぃぃん』と鈍い金属と金属が叩き付かれる音が響く。


「なっ!?チアキごときが僕の剣に反応したというのか!?」

「お前……、手加減してないか?いつもよりもなんか遅いし……」

「は?手加減?僕が……?僕が……、僕がお前みたいな劣等に手加減なんかするかぁ!いつだって本気だっ!」

「うわっ!?」


俺の指摘に、スペリドの堪忍袋を切ってしまったのか、鬼のような形相に変わり、剣を構えた。


「お前のような劣等落ちこぼれにこんなものを使うことになるとは……。ならば僕の加護、僕の魔法を付与してやるっ!」

「加護に魔法!?」

「僕の加護は『パワーアップ』、それにスピードアップのバフ魔法を僕自身にかける。パワーとスピードが合わさった僕は負けたことがないっ!」

「っ!?」

「力と素早さが両立した攻撃に耐えられることもなかろう!」


絶対の自信に溢れた目で俺を見下したスペリドは剣を上へと向ける。

「ふぅ……」と息を吸い、技のモーションに移行する。


「僕の最高必殺技『緑葉地』!」


足で跳躍し、剣で地に突き刺す。

スペリドの最高火力の技である。

突き刺された地面にはヒビがメキメキと入り、地割れのように広がっていく。

こいつ、受験でなんて技を使いやがると俺もその圧にヒリヒリしたものが感じる。

『すっげぇ』『圧勝だな1試合組』『スペリドとかいう奴に当たらなくて良かったー』というギャラリーたちの無責任な他人事の呟きが耳に届く。


『逃げてっ!チアキーっ!』


そんな中、ミサの心配した声が届く。

お前と漆黒学園に行くって約束したんだ。

まだ、負けたくない。


「逃げても追尾するこの攻撃に貫かれろ落ちこぼれぇぇぇぇ!」

「すぅ……」


息を大きく吸う。

ここが正念場だと気合いを入れる。

パワーもスピードも上がっているスペリドにはもう俺の実力ではどうにも出来ないのは明白だ。

だから、効果を使うしかあるまい。


「『契約魔剣』、効果発動」


『契約魔剣』の契約コスト2使用。

カードゲーム『ラストコンタクト』での効果を心で唱える。

契約魔剣は契約コストを支払うことにより、様々な恩恵を得られる。

コスト2を支払うことで、相手を上回るステータスにブーストをかける。


「っ!?」


有り余っているだけで、一切使い道がなかった魔力が微量だけ契約魔剣に流される。

なるほど、『ラストコンタクト』における契約コストは魔力に変換されるようだ。

契約コスト2程度はあんまり魔力が減った気はしない。

だが、今は最高の切り札になる。


「なっ!?なんでチアキの剣が光って──」

「はあぁぁぁぁ!!」


剣を素振りさせる。

風を強く切る感触が指から伝わり、手全体に広がっていく。


「馬鹿ですか君は……?素振りなんかして何を狙って……!?うわぁぁぁぁ!?」


空中で俺を狙っていたスペリドが素振りによって起こされた風圧によって飛んでいく。

剣も離してしまい、ガンッと強く地面から背中に叩き付けられた。


「まさか、こんなに強いとは……」と、素振りの風圧で台風並みの風を起こしたコストを支払った契約魔剣の強さに震えていた。


「くっ……。まさかこの僕がチアキごときに地面に叩き付けられるとは……。インチキな剣を使ってますね……」

「スペリド!?」


普通の人なら脳震盪でも起こしてしまい、立ち上がれそうにないダメージを与えたはずだが彼の執念が足を立ち上がらせる。

10秒程度と、時間はかかるが確かに奴は立ち上がった。


「いや、もう終わりだ。バフも切れたお前に余裕はないはずだ」

「黙れよ落ちこぼれがっ!僕が倒れて、落ちこぼれが立っていることが……、我慢できないっ!」

「いや、終わりだ。スペリド君、君の負けだ」

「はっ!?なんだと!?」


しかし、無理して立ち上がった彼に対し、審判として静観していた男性が彼の肩を掴み敗北を言い渡す。

「なぜだ!まだ負けてない!」と強く反対とばかりに抗議する。

しかし、男性はやれやれとする態度に、スペリドの堪忍袋の緒が切れた。


「僕はまだやれますよ」

「はぁ……。お前な、飛ばされたあの素振りで切られたらお前の左腕は一生くっ付かなかったぞ」

「なっ!?いや、そんな馬鹿な!?」

「最悪死んでいただろう。君の負けだ。勝者、チアキ・グリエット!」


俺の勝利の宣言がなされた。

他の受験生たちも沸き上がった声が上がる。


『グリエットってやつすげぇぇぇ!』

『受験戦争負けねぇぞー!』

『おめでとうー!スペリド叩き潰してスカッとした!』


俺に向かってくる声や、祝福の声に答えるように手を振った。

落ちこぼれのひよっこ野郎がこんなに注目されるようになるとは……。

変な感動を覚えた。

まだ受験は終わっていないが、それでも難関である第1受験に1番乗りで合格を果たしたのであった。

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