5、怒涛の受験決戦
休み明けの漆黒学園の受験日。
自分の剣を持参しての、会場入りになる。
基本的には自分が愛用している剣を持って受験に挑むことになる。
本来であれば安物の剣を腰にしてこの場にいたのかもしれないが、契約さんのガチャのようなシステムで引き抜いたウェポンカードである『契約魔剣』を持参してきていた。
かなり特徴的な形状であり、刀身が蒼く彩られた目立つ長剣である。
そんな派手な剣を持っている俺はバカに見られているのかもしれない。
一応鞘で隠してはいるが、鞘も鞘で蒼と黄色でやたら神々しい配色をしている。
カードゲームのレアカードとしては間違いないデザインではあるが、実際に一学生が持つには不相応である。
身体能力も前世並みになったらしいのだが、それが受験で発揮されるのかもまだ半信半疑である。
まぁ、いきなり『契約』を司る神を自称する子供の言葉を鵜呑みにするほどに純粋な性格はしていない。
「あ!いたいた、チアキーっ!」
「ミサ!」
受験の始まりをソワソワしながら待っていると、俺よりも後に会場入りしたミサがこちらに駆け寄って来る。
俺がこないだまで使っていた安物の剣よりは高価だが、それでも高級とは言いがたい剣を装備している。
ミサ愛用の剣であり、今通っている一心学校の入学祝いで親から買ってもらったものである。
「あー!緊張するねチアキ……」
「本当にな……。受験のチャンスはこれっきりだからな……」
幼い顔付きで童顔なミサは、いつもは凛々しくたち振る舞う少女だ。
しかし、今日の彼女にはそんな凛々しさはなく、緊張した年相応の女の子である。
1回きりのチャンスというのがまた緊張を加速させているようだ。
「あれ?チアキの剣、新調した?」
「そ、そんな感じ……」
「なんかめっちゃ高そう……。というか、剣だけ浮いてない?」
「それ、俺が1番わかってる……」
前世のロールプレイングゲームで例えるなら、防具などは初期装備のまま武器だけ終盤武器を装備しているような武器重視なアンバランス状態がまさに今である。
俺の装備状態は身体に学ランの制服、頭には何もなし、腕にも何もなし、武器に契約魔剣という面白い姿である。
アンバランスな格好をしているものだと、我ながら他人事のように思えてしまう。
「でも、みんな強そうだね……。私なんかこの中でも真ん中の実力もあるか不安だよ」
「ミサは強いよ、自信持たないと。俺なんかよりよっぽど強いんだから」
「そういう風に私を上げるのはやめて。チアキの方が努力家なのは誰より知ってる。誰よりも弱いんだけど、誰よりも努力家なのがチアキでしょ!」
「お前もお前で持ち上げ過ぎなんだよ」
リスペクト精神を持っているわけではないが、何故かミサとは毎回実力を褒め合ってしまうのだ。
俺はともかく、なんでミサがそこまで俺を過剰評価をしているのかはまったくわからない。
そんな風にミサと言葉を交わして緊張をほぐしていた時であった。
「おやおや……。チアキは本当に漆黒学園の受験に来たんですねぇ。時間の無駄をしに来てバカみたいですよ。ゴミ拾いでもしていた方がよっぽどチアキには有意義ですよ」
嫌みな元生徒会長の声がミサとの会話を遮るようにやって来た。
優雅に前髪を弄りながらいつものごとく俺を煽りに来たようだった。
「スペリド……!」
「おやおや?武器屋の在庫処分を漁って買ってきたなまくら剣はやめたようですが……。派手なだけで目立ちたがりを体現したような変な剣ですね。お似合いですよ、フフッ」
「くっ……」
俺の腰にある契約魔剣を嘲笑うスペリド。
「やっぱり剣は己の専用が1番ですよ。オーダーメイドに限ります」と自慢気である。
一心学校でも、高級鍛冶師のコネがあると自慢し、取り巻きなんかに配っている金持ちお坊ちゃんである。
契約魔剣は別にオーダーメイドでもないし、カードを引きさえすれば手に入る量産品だ。
スペリドのオーダーメイドの剣の方が圧倒的に価値は高いだろう。
「ミサ君の武器も新調してあげたかったのだが」
「結構です。これはお父さんとお母さんからの贈り物なんです。スペリド君の施しなんかいりませんから」
「厳しいですねぇ。ミサ君はチアキに相応しくない。僕のような天才に相応しいのに」
「もー。私のような庶民なんかがスペリド君に相応しくありませんよー」
ミサは謙遜しながらやんわりと断っているが、相当イライラしているのが伝わってくる。
それくらいは付き合いの長さで察することが可能だ。
スペリドはミサを狙っているのかは知らないが、アピールを良くしている。
のだが、完全にミサの脈は無さそうだ。
「僕は庶民であってもミサ君のことは尊敬している。それなのに……」
スペリドが熱くなったのか、口調が強くなっていた。
しかし、人もざわざわしてきてスペリドの声も聞き取りにくくなってきた時である。
『時間になりました。これより漆黒学園の受験を開始する!』
アナウンスが会場全体に響き、周りのざわざわした喧騒もピタリと鳴り止む。
「む?」と、スペリドも眉を尖らせた。
『では、いきなりではあるが受験生を半分に振り分けさせてもらう。第1次試験は『決闘』だ。文字通り、魔法や剣、格闘術で相手をノックダウンさせてもらう』
アナウンスによる『決闘』の言葉に、受験生の緊張感がより一層強くなったのを肌で感じる。
強者であるミサもスペリドの顔も強張っている。
『対戦相手を殺す攻撃と判断した時はこちらでストップをかける。……が、我々に守られた時点でその人物は強制敗退になるので気を付けるように。やり過ぎず、スポーツマンシップに乗っ取った闘いをお願いするよ』
ついに受験が始まるのかと思うと武者震いが止まらない。
心臓の鼓動も早くなった気がしてくる。
『対戦カードは完全ランダムであり、こちらでくじ引きをさせてもらうよ。5つの対戦場を用意しているので回転率は早いはずだ。では、第1試合の組み合わせといこう』
「ごくり」と唾を飲み込む。
焦りが収まることから縋るように、剣の柄を握る。
いつ呼ばれるのかと思うと、緊張で吐きそうになる。
真ん中くらいで自分の対戦カードが組まれないかと神に祈る。
…………契約さんではない、もっときちんとした神の方に。
『決まった。第1試合は一心学校のチアキ・グリエット』
「…………え?」
いきなり俺?と度肝を抜かれた。
ミサが心配そうに見つめる中、対戦相手の名前も呼ばれた。
『その対戦相手は同じく一心学校のスペリド・ワイズメルだ。いきなり第1試合で同門の試合が決まったようだ』
「おっと。これはかなりラッキーじゃないか」
「っ!?」
ミサの隣にいたスペリドが不敵に笑ってきて、額からツーと一線の汗が走っていく。
「嘘……。チアキとスペリド君が……!?」
ミサの驚きが小さく響く。
いきなり最悪の対戦相手が当たった……、と頭痛がしてきた。
「不戦勝みたいなものです。みすぼらしく負けるよりも棄権の方が情けない姿を晒さずに済みますよ」
「……やるに決まってんだろ」
「バカですよ、君は」
俺とスペリドがバチバチに火花を散らしながら、舞台に上がっていく。
アナウンスは次々と対戦カードを発表していつが、もはやそっちには興味すら沸かなかった……。
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