4、制限されていた本当の力
──にゃは!……さて。語りたいことが多過ぎてどこから説明をすれば良いかだが……──
『契約』を司る神……、面倒なので契約さんは小さい身体でうーんと悩んでいた。
自分で神を名乗ることも含めて、すべてが怪しい存在だと疑いの目を持って彼女を凝視していた。
──ま、いっか!そのカードには君の前世が眠っているよ。さぁ、前世を呼び戻すよ!──
「うっ!?」
契約さんが指を鳴らすと、脳内で知らない記憶が開花する。
知らない人を親と呼び慕っている姿。
一生懸命にノートと向き合い勉強している姿。
知らない大人に叱られながら落ち込んでいる姿。
大人なのに、子供のようなキラキラした目でカードゲームを楽しむ姿。
やがて、カードゲームの世界大会で完全優勝を勝ち取る姿。
25年ぶんの1人の人生が、カードを通して次々に沸き上がっていく。
ユート・タカハシという、前世の名前もハッキリ思い出す。
正確には日本語の名前であり、漢字で書くと高橋湧斗だっただろうか。
漢字ってなんだよ、懐かし過ぎる……。
15年ぶりに漢字という単語を思い出せた気分だ。
──にゃは!刺された瞬間に我の声が聞こえたのを思い出したかな?──
「あぁ、思い出したよ。1つ良いか?」
──驚きの連続だったか?なんでも質問するが良いぞ人間!──
契約さんは腕を組み、ドヤ顔をしながら頷いている。
その度に乳白色の髪がファサファサと揺れる。
「はい!なんで俺が対戦相手のボブに刺された時に、契約さんは助けてくれなかったんですか!」
──…………──
「ねえ?なんでなんで?」
純粋な疑問である。
彼女が本当に神様であるならば、ボブの凶行を事前に止められたのではないだろうか?という疑問が波のように押し寄せてくる。
その質問に答えにくいのか、契約さんは下を向き無言になっていた。
「契約さん?なんでなんで?助けられませんでしたか!?」
──ブァカもーん!──
「っ!?」
──自分の身くらい自分で守らんかーい!ユート・タカハシの人生が終えたらチアキ・グリエットの人生が始まる定めだったんだからお前がいつ死んでもこっちにはメリットもデメリットもないんじゃい!──
「ドライだなー!」
──にゃは!神は横暴なのだよ。これでも我は優しい方じゃよ。親友の『概念』を司る神なんかは本当に邪神でのぅ。魔法のない世界に特殊能力をバラ巻いて退屈を凌ぐような悪魔みたいに鬼畜な神に比べたら我の方がマシというものじゃろ──
「誰だよ、『概念』を司る神って……」
そんなに神様ってたくさんいるものなのだろうか……?
神様のルール自体よくわかんないので、とりあえず彼女の話に耳を傾ける。
──にゃは!カードゲーム最強の名を手に死んだ君は、こちらの世界に転生したことにより『ラストコンタクト』のカードゲームに登場したカードのモンスターや武器、魔法を自分の力にする加護が生まれたのだ──
「…………え?ちょっと待て!?『ラストコンタクト』に登場したカードの力を自分で使えるみたいなものか?」
──強いて言うならな。なにせ、お前は最強の加護を受け取り死んだのだからな──
前世ではただの遊びであった『ラストコンタクト』のカードゲームプレイヤーだっただけで、意味不明な加護を持っていたと言われても信憑性がない。
なぜなら、自分にそんな能力があることなど今さっき聞いたばかりなのだから。
頭を混乱させながら、すがるように契約さんに向き直る。
「はぁ……」と、深呼吸をして心を落ち着かせた。
そして、持参していた水筒の水をゴクリと飲んで喉を潤わせた。
無味無臭な液体で舌を濡らして、なんとか理解する。
「いきなり全部のカードの力が使えるのか?」
──ノンノンノン!当然、カードの力はカードを手にしないと使えないのだぜ。焦らずいこうじゃないか──
前世では5000枚程度持っていた『ラストコンタクト』のカードは1枚も所持していない状態だ。
集めていくのか、買っていくのかはわからないが、とりあえずはカードを入手していかないといけないのは頭に叩き込んだ。
──にゃは!お前はカードの力を使役する最強の人間だ。自信を持つが良い──
「最強だぁ?んなわけないだろ!?俺は学校一の『落ちこぼれのひよっこ野郎』だぞ!?自信なんか持てるわけないだろ……」
いつもミサの小さい身体に護られてばかりで……。
成長もしないまま年だけ重ねてきたのだから……。
弱さだけがただただ情けない。
──にゃは!お前が弱いのは我がチアキの力に制限をかけていたからじゃ──
「…………は?」
自分の弱さを嘆いていると、しれっとした表情の契約さんが小さい胸を張っていた。
ど、どういうことだろうか……?
──努力や経験値。そういった継続力がチアキには蓄積しないように我がセーブしておった──
「なっ!?な、な、な、な、何やってんだてめぇ!?」
通りで剣を握った1週間程度の子供にすら負けるはずだ。
俺の力は生まれてから1度も成長をしていないのだから……。
子供が天才とか俺が弱いとかの話ではなく、俺の努力が常に水の泡になっていたというのが真相らしい。
──強すぎる力に溺れるのを防ぐためじゃ。それに前世のユートの情報をお前の身体に上書きした時点で身体能力がユート時代のものになったのだ──
「はぁ?身体能力が前世の俺のものになったからなんだってんだよ」
俺の疑問に、契約さんは『ちっちっちっ』と小さい褐色の指を振って煽ってくる。
──この世界の100メートル走の平均は何秒じゃ?──
「14秒50とかだな。文武両道な元生徒会長のスペルドで13秒70とかだぞ」
因みに俺の100メートル走の記録は16秒ジャストである。
遅いとかそういう次元ではない。
情けなすぎて笑われるレベルで恥ずかしい……。
──この世界では14秒前後は当たり前。だが、お前の前世基準だと100メートル14秒なんてむしろ遅くないかのぅ?──
「あ……。確かに……。体感25年も前のことだからぼんやりだが、俺高校時代は100メートル程度12秒くらいでゴール出来たな……」
12秒を切るくらいだったはずだ。
え?
俺、前世ではスペルドより足が速いってことになる……?
──気付いたようじゃの!前世の世界に比べて、この世界の人間の身体能力はかなり低いのだ。お前は既にこの時点でこの世界ではかなりのフィジカル持ちの人間に成長している──
「おぉ!?なんかすげぇ!」
──そして裏切られ続けてきた努力の成果をこれからお前に還元する──
「っっっ!?な、なんだこれっっっ!?力が沸き上がってくる……」
筋トレをしまくっても一向に筋肉が増えなかった腕がガッシリしてくる。
ペターンとした壁だったお腹に筋肉が溢れてくる。
──魔法も、剣術も、筋力も、お前は敵なしの力を得たのだ。チアキ、これがお前の本来の力だ。封印から解かれたお前は最強だ──
「俺、本来の力……?」
──にゃは!漆黒学園の受験が楽しみじゃのう。だが、これはただの副産物。お前の最強はカードゲームが本領──
そう言うと、契約さんの周りには裏側になった『ラストコンタクト』のカードが30枚壁のようになり並べられていた。
──好きなカードを引くが良い。なんのカードが出るかはチアキの運次第──
展開されているカードはこちらからはまったく見えない。
ただ、ガチャのようなものが発生したらしく、俺に選択権が与えられたようだ。
「なら、そのカードにするぜ!」
1枚のカードに指を指すと、そのカードが表になりその正体を表す。
──ウェポンカード『契約魔剣』。
いきなりの究極レアカードをゲットしたのであった。
そのまま、『ラストコンタクト』のカードは俺の中へと消えていってしまった。
──これで、いつでもカードの使用が可能になった。良いカードゲームライフを──
そう言いながら、契約さんは空気に変化していくように消えていった。
「……………………はぇ?」
すべてが終わった時には、狐に化かされたかのように目を丸くしてアホっぽい声を出す自分しか残されていないのであった……。
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