そして光の羽が舞う
──悪姫ラセツ。長身に黒いセーラー服をまとった少女。
目元を覆う黒い仮面は、左右に角の生えた鬼面。
全身にまとった「すごく嫌な感じ」──黒いモヤと混じり合った
「愚か! 雑魚をかばう
彼女の足元で四天王の皆さんはすでに倒れ、土にまみれている。
対峙する伊吹も地に片膝つき、しかし顔は伏せずに視線を上げ、ラセツをにらみつけていた。
その背後に仰向けで倒れた千鳥。口元からは、鮮血がひとすじ流れている。
「ゆえに
宣告してラセツは右脚を、垂直に天へ振り上げた。
闇色のストッキングに覆われた美脚から、ローファーの
「──やめなさい!」
予想外の事態と声に驚いたのだろう。
黒い
反動でバランスを崩しよろめくラセツは、不思議そうに私の肩と自分の足を見比べている。
「藍崎……なぜ来た……いくらお前でも、そいつは無理だ……」
背後から、苦しげな伊吹の声がする。
なぜ来てしまったのか。
確かに、あいかわらず
けど少なくとも、
が、そんなことはぶっちゃけどうでもいい。
こっちは
したいようにする。理由なんかいらない。
──ここは自由な校風の、五百鬼女学園なのだから!
「
仮面の下の、ぎらりと血走る両眼を見つめる。
「おまえ、
苛立ちを隠さずラセツは、両手をするりと私の喉に巻き付けてきた。
そして尖った黒い爪を肌に突き立てる。
しかし
「グッ……
よほどお気に入りのネイルだったのか、本物の爪が剥がれたように表情を歪めつつ、歯を剥き出して必死に首を絞めてくる。
しかし力の掛け方が悪いのか、まったく苦しくはない。
「こら! それはひとに言っちゃダメ!」
暴力は大嫌い。物心ついて一度も、誰かに手を上げたことはない。
でも
首を絞めさせたまま、右手をゆっくり振り上げる。青い、空のほうに。
傷つけるためじゃない。
だから拳ではなく手のひらで、彼女の頬に「痛み」を
──
頭の中で聖女さまの澄んだ
手のひらが頬に達する寸前、その
パン
手のひらに頬が触れ、乾いた音が響いたのとほぼ同時に。
「──ぐぼぁッ!?」
異様な声がして、私の視界にはラセツの黒髪のはしっこだけが映る。
それは打った頬と逆方向に、彼女の体が猛烈な速さで吹き飛んでゆく瞬間だった。
「えっ?」
理解が追いつかない。
絶対にありえない話だけれど、私の平手打ちで吹き飛ばされた
そのたび、まとっていた「すごく嫌な感じ」──黒い
「「「えええ!?」」」
並木道の方から
あっ、これ、完全に私がぶっ飛ばしたと思われてしまってる。
えぇえぇぇェェェ……
さらに校舎の窓からもたくさんの声が響いてくる。
……ぉぉォオオおおおお────!
しかも途中から、歓声に変わっていった。
まずい。全校生徒にまで、
ただ、今はそんなことよりラセツが心配だ。
何が起きたかはわからないけど、あんなに吹っ飛ばされて無事では済まないはず。
どこかで外れた仮面の下は、気弱そうな顔立ちの少女だった。
困惑した様子で、周囲をきょろきょろと見回している。
意外と平気そう。あの黒い
胸を撫でおろし、ふと微かな「嫌な感じ」に足元を見る。
そこにラセツの黒い仮面が落ちていて、周囲に黒いモヤを漂わせていた。
これが元凶か。私がにらみつけると、仮面はビクンと震えてからサラサラと黒い砂になり、風に運ばれ消えていった。
彼女があんなに吹っ飛んだのは、平手打ちで仮面が外れたとき、抑えつけられていたものが解放されたから……とか……うん、そんな感じにしておこう。
「
足元のおぼつかない伊吹に手を貸しつつ、お願いする。
「お前がそう言うなら、そうするしかないだろう」
「……え?」
彼女は立ち上がると、一歩退いて千鳥を抱き起こした。
四天王の皆さんも
「お前は四天王を倒し、あたしを降参させ、その上でこの学園を守った。そんなお前に、言わなきゃならないことがある」
伊吹は私に向き直ると、まっすぐな瞳で私を見詰めてくる。
……この胸の
「ようこそ五百鬼女学園へ。────第十三代目総番長、藍崎アイノ!」
高らかに言い放って、
「──はい!?」
あっ……今のは了承の「はい」ではなく!
しかし見回せばすでに、四天王も他の
その光景が、
──これが、後に学園史上最強の総番長『
藍崎アイノは聖女で無敵 〜前世が聖女なJKは、最凶ヤンキー学園でも聖なる加護で無自覚に無双してしまう〜 クサバノカゲ @kusaba
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