第60話 『楽しい人生』に乾杯しまして
何か、なし崩しのうちに宴会が始まろうとしている。
「いや~、イイモン見せてもらったな~!」
「やっぱトモダチってのは離れちゃいかんよな、うん、うん!」
と、こんな感じでホムラとルイナを見て、野次馬共が盛り上がり始めたのだ。
そして、ここは夜の酒場。
当然、ただ盛り上がって終わるはずがない。
「酒だ酒だ~! ビストのパーティーに新しい面子が加わった記念だ~! 今日はビストが俺達全員を奢ってくれるってよぉ~! 野郎共、宴だァ~~~~!」
「「「ゴチになりやァァァァァァァァァァァァァァァァァ――――すッッ!」」」
という、俺にジョッキを当てられても懲りなかったAランクのオッサンのせいで、急遽全額俺の奢りによる大宴会開催となってしまった次第である。
「ちょっと? ちょっと、ウォードさん?」
当事者の俺達を完全に置き去りにした展開に、さすがに頬が引きつるのを感じる。
だが、ウォードさんはいきなりなれなれしく肩を組んできて言うのだ。
「ここで金出すくらいの甲斐性は見せとけよ、ビスト~」
「はぁ、何ですか、そりゃ?」
俺が眉をしかめると、ウォードさんはいきなり声を小さくする。
その目は、起き上がったばかりのルイナに向けられているようだった。
「あのルイナって子、おまえさんの仲間になったはいいが、あの気質じゃしばらくの間は気にし続けるんじゃねぇのか~? あ~ん? その辺、どう思うよ~?」
「ぐ、それは……」
俺は、咄嗟には答えられなかった。
酔っぱらいのクセに、見るべきところはキチンと見てやがるな、このオッサン。
「だからよ、そういうシコリの種になりそうな部分も、酒と勢いで押し流しちまえばいいんだよ。それこそ、おまえさんがいつも言ってる『楽しいコト』でな」
「むぅ……」
そう言われてしまうと、心の大半、納得させられてしまう。
ルイナはあの通りの性格だ。
かなり強引な手段で仲間に引き込んだが、魔王軍をやめることは気にしてそうだ。
けど、それは俺としてもあまり楽しくない。
だったらどうするか――、ウォードさんの言った方法が、最適解だよなぁ。
「…………」
「お、何だよ? その仏頂面はよ?」
「提案者が俺じゃなくウォードさんなのが、納得いかなくて腹立ちます」
俺が素直にそう告げると、ウォードさんは一瞬呆けたのち、すぐに噴き出した。
「カッカッカ、年季の違いってヤツだぜ、若人! ま、頑張んなよ~!」
「遠慮なしにバシバシ背中を叩かんでくださいよ!」
周りが大騒ぎになっている中、ウォードさんが笑いながら俺から離れていく。
クッソ、何か負けた気分だぜ……。あの人、こういう部分でもこなれてるよな~。
「ビスト君!」
敗北気分を味わっていたところで、ラーナがやってくる。
「おう、どしたよ、ラーナ」
「どしたよ、じゃないよ。……本当にやるの、大宴会?」
「ルイナがこっちに馴染むのに必要じゃねーかなって思うけど、どうよ?」
問い返すと、ラーナはしばし考えこんで、
「う~ん、そうかも。このあとでルイナさんを一人にしたら、ネガティブなこと考えちゃいそうな気がするし。あの人、根っこの部分はすごく気真面目だよね」
「それはそう。実はあんまり冗談は通じない。というか、真に受けるタイプだわ」
何せ、かつての『私』が現役だった頃に『
そうなる以前は、誰が見ても『お嬢様ッッッッ!』って感じの格好してたんだよ。
「ま、いい機会だよ。あいつの判断は楽しいものだったってことを、俺達がしっかりと教えて、伝えてやらないといけないからな~」
「そこは『正しい』じゃないんだ?」
「『正しい』のは当たり前の話じゃん? その上で『楽しい』判断ってことよ」
俺がそう言うと、何故かラーナがクスクスと小さく笑い出す。
「何だよ……?」
「ううん、何でもないよ。ただ――」
「ただ、何よ……?」
「わたしはやっぱり、ビスト君のそういうところ、好きだなって思っただけだよ」
「な――」
いきなりそんな告白をされて、俺は言葉を失ってしまう。
「『正しい』よりも『楽しい』じゃなくて『正しくて楽しい』。それがビスト君の考え方だモンね。やっぱり好きだな。その考え方も、その考え方をするビスト君も」
「あの、ラーナさん? どうしたの? もう酔っぱっぱなの?」
「あ、ひど~い! 褒めてあげたのにそんな言い方しなくてもいいでしょ~!」
ペシンと肩を叩かれた。
別に痛かないけど、変に褒められたおかげで心がムズムズして仕方がないんだが?
「あ~、ビスっちとラナっちが公衆の面前で衆人環視の中、威風堂々とイチャイチャラビュラビュしてるぅ~! いいぞいいぞぉ~、もっとやっちゃえぇ~!」
「ミミコォォォォォォ――――ッ!?」
俺が全力で叫ぶも、とき、すでにデッドエンド!
それまで気ままに話していた周りの連中の視線が全て、俺とラーナに向けられる。
「お、何だ何だ、ラビュってたのかガキ共が! 十年早いぜぇ~!」
「ラーナちゃんって、なかなか大胆じゃないの。いいわね、オトコがいるのって~」
ただでさえホットだった空気が、ミミコのチクリによってヒートにアップする。
そして視線が、視線が、視線が一気にこっちにィィィィィ~~~~!?
「あ、おにーちゃんの顔色が雑草みたいになってるぞ~!?」
「雑草って、ホムラ。ビスト様に失礼で――、本当に雑草みたいな顔色ですわ……」
口元に手を当てて衝撃受けてんじゃねーよ、新入りッ!?
クソ、クソッ、ふざけやがって! こうなったらやってやろうじゃねぇかァ~!
「ビスト君、目の焦点が合ってないよ、ビスト君?」
「フフ、フフフフ、ラーナよ、俺ァキレたぜ。寄ったかって注目しやがって……」
「この状態でビスト君に注目するなっていう方が無理じゃないかな~」
「そんな真実しかない事実は聞きたくない! ほれ!」
「あっ」
俺は、勢いのままに左腕のみでラーナをお姫様抱っこする。
外野共が俺に関心があるというなら、とことんまで見てもらおうじゃねぇか~!
「ちょ、ちょ、ちょッ、ビスト君!?」
「おまえらァ! こういうのが見たかったんだろ、こういうのがよォ~!」
「「「オオオオオオ! いいぞォ~! もっとやれ~!」」」
驚くラーナを抱き上げたまま、騒ぐ冒険者共を前に、俺はジョッキを手に取る。
「俺は逃げねぇぞォ! そーだよ、俺はラーナが好きだよ! ミミコもホムラもルイナも大切な身内だ! これから末永く仲良くやってくよ! 何か文句あるかァ!?」
「「「別にねぇけど、いいぞォ~! もっとやれェ~~~~!」」」
クソ、派手に盛り上がりやがって!
そっちがその気ならこっちだって楽しくやってやろうじゃねぇかァ~!
「待って、待ってビスト君! 完全に雰囲気に呑まれてるよ? 一旦、落ち着こう? 見て、ミミコさんもホムラちゃんもルイナさんも、揃って顔真っ赤にしてるよ?」
「あ~~~~ん?」
ラーナに言われて見てみると、確かに三人は揃って俯いていた。
「……ここまでハジけるのは予想外だよぉ~」
「……おにーちゃんに大切って言われちった」
「……何なんです? 本当に何なんですの?」
フ。
何だい何だい、天下の『五禍将』ともあろうモンが、随分とお可愛いことで。
だが安心していいぜ。と、思って、俺は力強くうなずく。
「任せろ。俺がラーナも、おまえら三人も、全員ひっくるめて楽しくさせて――、いや、こういうときはこう言っておくべきだな。全員、幸せにしてやるからよ~!」
「「「きゃっ」」」
三人が揃って赤くなった顔を手で覆った。やっべ~、何その反応。楽しいわ~。
「ビスト君? わたしは別にビスト君を独り占めするつもりはないけど、もう少し段階っていうモノを踏もうね? 多分、今のビスト君には言っても無駄だと思うけど」
「何言ってんだ、ラーナ。おまえのことだって幸せにしてやるからよ!」
「ほ~ら、全然わかってない……」
ウインクしたら、何故か呆れられた。
ヘヘッ、可愛いヤツだぜ。ちょっと照れちまってるんだな。
「オオオオ、ビストのヤツ、公開プロポーズしやがったぜ!」
「アヴェルナの冒険者ギルドに新たな伝説が刻まれた瞬間だな!」
「こいつは美味い酒が飲めそうだぜ!」
口々に冒険者共が騒ぎ出している。
いいぜ、いいぜ、美味い酒なら俺がいくらでも奢ってやるよ。
「よ~し、おまえら、杯を持て! 乾杯すんぞ~!」
「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ~~~~!」」」
俺がジョッキを掲げると、冒険者達が各々手にジョッキだのグラスだのを持つ。
「ビスト君もみんなも、完全に暴走してる……」
何故か、ラーナから刺々しい視線が送られてくる気がするが、気のせいだろう。
だって今、最高に楽しいからな。気のせいに違いない。
「それじゃあ、これからも続く『楽しい人生』に、カンパァァァァ~~~~イ!」
「「「カンパァァァァァァァァ~~~~イ!」」」
杯を重ねる音が、酒場全体に響き渡った。
翌朝、このときの暴走を思い出した俺がもがき苦しむのは、当然の話だった。
……死にてぇ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
※これにて『転生魔王のストレスブレイク冒険譚』は一旦区切りとなります。
ここまでお読みいただきましてありがとうございます!
近日中に新作を開始する予定ですので、またそちらの方をお会いいたしましょう!
あ、↓もよろしくお願いします!
『出戻り転生傭兵の俺のモットーは『やられたらやり返しすぎる』です』
【完結】転生魔王のストレスブレイク冒険譚~適度に人生を楽しみたいだけのモブ冒険者志望の俺が『魔王の力』を継いだおかげで全くモブになれない件~ 楽市 @hanpen_thiyo
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