火刑の夜
月井 忠
第1話
私は花火が嫌いだ。
どーんという音が空襲を思い出させる。
山の頂上から見た町は、夜に揺らめく真っ赤な絨毯のようだった。
多くの人が犠牲になった。
私は一人、山に逃げていた。
家族は皆、焼かれた。
私は空襲に救われたのだ。
あの夜、父が狂ったように母を殺した。
理由はわからない。
父が汚い方法で召集逃れをしたという噂があった。
そうしたことが原因なのかもしれない。
父は私のことも殺そうとした。
包丁を持つ父の形相を今でもはっきり覚えている。
取っ組み合いをするうちに、いつの間にか私は父を刺していた。
理由はどうあれ、私は父を殺した。
怖くなって山に逃げた。
その時、ふもとから空襲警報が聞こえた。
夜空には、いくつもの飛行機の影が見えた。
ひゅるひゅるという音がして爆弾が落ちてくる。
どーんという音とともに、真っ赤な花が咲く。
どこからか火の手が上がる。
町を焼き、父と母の亡骸を焼いた。
私は空襲に救われたのだ。
人殺しの罪をかき消してくれた。
しかし、私の心には今でも罪の意識が消えていない。
私は花火が嫌いだ。
どーんという音が空襲と、父の形相を思い出させる。
最後に見た花火はいつのことだろう。
火刑の夜 月井 忠 @TKTDS
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます