彼らの生い立ち

アルフィルニア王国。


神の啓示を受けて相手のいないままに身籠った娘ラディウスが産んだ子が、この国の創始者だった。


彼は常人には使えない、あらゆる力を持っていて、モノに触れずに動かしたり、風や天候を操るなどの神通力を持っていた。


それは現在の王族にも受け継がれていて、今の代の国王ステファルス様も、空高く飛んだり、肉体を変形させるなどの能力を使うことができた。


しかし、代々他の人間の血が混ざることで初代よりその力は弱まっているのは確かだった。


ステファルス様は何人か妻がいたけれど、なかなか子どもができなかった。

そんな中、国王様の妹で聖女として神殿にその身を捧げていたマグダリノス様が、まさにこの国の始まりと同じ、相手がいないまま胎内に命を宿したのだ。


そうして産まれた男児が、前世で私が仕えたエステリーア様だ。


彼を生み落としたのと引き換えに、マグダリノス様は息を引き取った。


この創始者と同じ奇跡の誕生により、次期国王はエステリーア様が推されるのは当然の成り行きだった。


彼の母、マグダリノス様が何者かと通じていたのでは……と怪しむ者たちがいなかった、という訳ではなかったけれど、正当な後継者のいない状況では、そうした声は目立って表に出ることはなかった。


また、妹のことを大事にしていた国王様はその忘れ形見としてエステリーア様のことを邪険にすることもなかった。


そうしてエステリーア様がすくすくと育つ中、国王様の正妻の地位が空席になり、そこに貴族家の中でも頭角を現し始めたサルアフィナ公爵家の子女アマルテ様が12歳にして収まった。


そして、彼女が15歳になった時……現国王の直系の後継者であるレスティス様が産まれたのだ。


いや。


正確には生まれたのは赤子の形をした”冷たい塊”だったのだそうだ。

しかも、そのお腹は大きく裂けていたという。


その光景を目にしたアマルテ様は正気を失い、国王様はすぐに”それ”を城の裏手の目立たないところに打ち捨てるように命じたのだ。


その存在は王国の歴史から消え去られるはずだったのに、それから1日もしないうちに赤子の泣き声が城の裏手から響き渡った。


生きていないはずであったのに蘇り、裂けていたお腹はキレイに閉じていた。


その場にいた誰もが気味悪がり、それでも息をしているものを放置し続けることはできないから、彼は城の中に戻された。


国王は我が子としての寵愛を見せることは一切なく、母であるアマルテ様も息を引き取るまで彼に会いにいくこともなかった。


そうしてずっと誰からも宮中で忌み嫌われ続け、孤独に彼は過ごし続けていた。


これから私が向かう仕える王族を決める2度目の選考会。この瞬間でさえも。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

凶暴な王子を無効化する方法 ねむりまき @um_mar

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ