凶暴な王子を無効化する方法
ねむりまき
プロローグ
仲間たちの断末魔の叫び声。
山の中の青白い月の光を頼りにあたりを見渡しても、見えるのは次々に倒れていく若い騎士達の姿だけだ。
その時、これまで感じたこともない寒気がゾクゾクと背筋を駆け抜けて、瞬時に後ろを振り返った。
そこには大きな月を背景に空から刀を振り下ろしながらたなびく、銀色をした長い髪。
こんなに間近で見るのは初めてだった。
切れ長の鋭い双眸に、白い肌、あまりにも整った目鼻顔立ち。
けれど、そこには作り物みたいな冷たさがたちこめていて、こちらに近づいてきながら、じょじょにその口元には不気味な笑みが浮かび上がった。
その姿を顔をあげて見据えながら、私の体は硬直して一歩も動くことができなかった。
どうして……どうして?
その刀を防ぐために右手に持った自分の剣を掲げなくてはいけないのに、それすらもできないのだ。
そして……
ズシャアッ!!!
ヤツの刀は私のお腹を串刺しににして、あっという間にそれを引き抜くと、私が倒れるのも見届けずにどこかへとまた飛び去っていった。
私の喉元には血の味がのぼってきて、口からボコボコと溢れ出した。
地面に臥しながら、体に力が入らなくなっていくのを感じながら、そこにさらに冷たい雨が叩きつき始めた。
ああ……私はここで死んでいくんだな。
あの魔物みたいな恐ろしい存在を止めることもできず、ただの捨て駒としての虚しい人生。
ザッ ザッ ザッ……
視界がぼんやりとしていくのを感じながら、雨とは違う音が耳元にかすかに聞こえてきた。
本当にぼんやりとだったけど、そんな私の目の前にしゃがみむ姿が見えた。
肩下まで伸びた柔らかそうな青みがかった髪の毛、長いまつ毛の思慮深げな黒い瞳。
「エステ……リーアさま……」
私の主であるその名前が口から漏れ出てきた。
そして、そこで私の意識は完全に途絶えた。
ドンドンドン ドンドンドン
なに…… なんの音?
「ミルニ! 起きろ! 今日は選考会だろ? まだ寝てるのかよ!!」
この声は……ハンス?
死んだと思ったのに、私の耳にはさっきその亡骸を見たばかりだった同郷の幼馴染みハンスの声が聞こえてきた。
そして、目覚めた私が眠っていた場所。
そこは5年前まで過ごしていた王宮騎士、訓練生時代に使っていた部屋。
この日は、帝国の勢力を二分する次期国王候補のエステリーア様、そして私を殺した張本人レスティス。
そのどちらの王族の騎士団に配属するかを決める選考会の日。
その日に私はタイムスリップしていた。
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