第7話:クラスメイト/ミリリの立ち位置


 投稿した動画は思いの外再生され、登録者が少しずつ増えていく。 数字を確認しては一喜一憂してしまう。


「よし、あと一回見たらやめよう」


 そう決めてしばらく、


「おはようございます? いやもうこんにちはですかね! 今日も一日よろしくお願いします!」


 異世界に行くとミリリは邪気の無い笑顔で言った。

 彼女の言葉に裏など無いことは分かっているのに、一瞬嫌みかと思ってしまう自分の汚さが嫌になる。


「うん、めちゃくちゃ頑張る!」

「おお、珍しく熱いですね!」





 そんなこんなでやってきた冒険者ギルド。

 いつもはむさ苦しいオッサン、貧相な装備の若者、堅気に見えない強面が多いギルドに珍しく、育ちの良さそうな若者の集団が居た。


「き、今日はやっぱりお休みにしませんか……?」と弱々しく言うミリリの態度で、俺はなんとなく察した。


 俺としては構わなかったので、賛成しようと思ったが少し遅かった。


「あれ? もしかしてミリリ?」


 集団の一人がこちらに気づいてしまった。


「……知り合い?」

「クラスメイトです。 彼女にだけは会いたくなかった……」


 ミリリは咄嗟に俺を盾に隠れるが手遅れだ。


「やっぱり! なんで隠れるのー? みんなミリりだよ!」


 彼女は親しげな様子でミリリを引っ張り出した。 悪意があるようには見えないし、一見ムードメーカーぽい人だと感じた。


「ほんとだ。 平民なのに無駄に頑張ってる奴?」

「まだやめてなかったんだね~」

「ふーん……そんなことより今日の依頼どーする?」


 しかしクラスメイトは貴族なのだろうか、聞いていた通りミリリの扱いは決して良くない。


「うん、お金もコネもないのに頑張ってるよね」


 親しげに見えた彼女は嫌みのようなセリフを平然と言った。


「諦めが付いたらいつでも声を掛けてね。 うちは魔法師でも優秀な人は大歓迎だからさ」


 彼女は俯くミリリの肩を叩いて、笑顔で去って行った。


「……なんか貴族って怖いな」

「彼女は特殊ですよ。 彼女には悪意はないんです」


 愚痴でも出るかと思ったが予想外に彼女をフォローするセリフに少し驚いた。


「彼女は精霊教の聖女アルル・ドルナドマク。 大いなる力を得る代償に心の一部を差し出した大バカです」


「さあ行きましょう」


 愛想笑いで促され、俺は何も聞けず頷くことしかできなかった。


 その日の冒険は考えがぐるぐる廻って集中できず、早々に解散となった。





 揺れる馬車。

 俺とミリリは近くのダンジョン都市へ向かっている。


「できた」


 手のひらに灯る炎、火属性の一級魔法だ

 手綱を握るミリリの横で、することのない俺は魔法の練習で暇つぶし。


「もう詠唱がなくても出来るなんて凄いじゃないですか」


 魔導士を目指す気はないが、魔法を使えるようになるのが楽しくて暇があれば遊び感覚でやっているうちに気づけば空間以外の属性もどんどん使えるようになっていた。


「自分で創れたらもっと面白いのに」

「それを成した人を魔導士と呼びます」


 俺たちがなぜダンジョン都市を目指している理由だが、それはB級冒険者に成る条件が大いに関係していた。


 冒険者は基本的に依頼を達成し、実績を積んで昇級していく。

 しかし例外もある。 英雄的な功績を遺したり、S級冒険者に推薦されギルドに認められた場合などは飛び級できる。


 そしてダンジョンの攻略は英雄的な功績にカテゴライズされる。


「ホントにダンジョンを攻略なんてできるのかな」

「期間内に達成する方法としては一番現実的です。 ダンジョンの中にもランクがありますから」


 ダンジョンは出現するモンスター、罠の危険度、階層数など総合的な要素で攻略難易度がピンからキリまであるらしい。 そして大事なのは難易度に関わらずダンジョン攻略は人類の平和に貢献したとみなされ、B級冒険者に昇級が可能となるようだ。


 俺としては異世界の定番に観光に行く気分で楽しみだ。


「ふーん、じゃあ他の奴もいるんじゃないの?」

「……だからこの方法は取りたくなかったんです。 しかし魔導士になるためやらねばならんのです」


 町で一つしかないギルドで全然ミリリの同級生と鉢合わせしなかった理由が分かった。 しかしこれからは頻繁に顔を合わせるかもしれない。 ミリリは俺とは対照的にひどく憂鬱そうだ。


――ミリリ~


「呼びました?」

「いや?」


 どこから声が聞こえた気がした。


 しかしここには俺たちしかいない。

 空耳かと思ったが、


「ミリリー!」


 すーっと、後ろから現れたのは俺たちのオンボロ馬車とは違って飾り付けられたいかにも貴族使用といった見た目の馬車だ。


 そこの小窓から顔を出すのは先日、冒険者ギルドで遭遇した聖女アルルだ。


「うへぇ」

「えずくなよ……」


 ミリリの過剰な反応に俺が苦笑いしているうちに「じゃあ先に行ってるねー」と行って彼女の馬車は先へ進んでいった。


「貴族様の馬車は性能も段違いなのか」


 ミリリから歯ぎしりのような音が聞えた。

 

「……口を閉じてください」

「へ?」

「飛ばしますよ」


 その後、ミリリの魔法によるブーストで俺たちの馬車は聖女を追い越した。

 しかしその代償はでかく、馬車は半壊、俺は胃の中身をぶちまける大惨事となったのだった。




 

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