濱川君が消えた日に

風邪

濱川君が消えた日に

 JSアラートこと、『人類消滅アラート』。アラートが鳴ってから10秒以内に人間が耳をふさがないと生きられない。これは、科学的に証明されている。

 そして、このJSアラートが鳴るのはいつかわからない。授業中かもしれないし、私の場合は夜寝るときに発動した。

 しかし、大丈夫。なぜなら、夜寝るときや、日常生活には完全防御耳栓たるものを付けている為からだ。

 しかし、残念ながら1日一回のペースで人は理不尽に消えていく。

 それが、家族だろうが、推しだろうが。


 ※※※※



「…きてッ……起きろッ!」

「ふぁえ?」

 どうやら私は夢の中に居たらしい。いや、6限目の数学は寝るだろッ。

「はあ、寝てる間にJSアラート鳴ったらどうすんの。」

 ちょっと言葉がキツいこの人は濱川君。意外と優しいが、よく他の男子を殴っている。そのせいか、モテない。

 ふてくされて頬杖をつく顔は心配と怒りが混ざっているようだ。ため息をつきながら前をむくと、ちょっと長めの前髪から、眼鏡越しにツリ目が見える。顔は前を向いているが、キレイな瞳が鋭くこちらを見つめている。

 きゃわええ……。濱川君きゃわええよぉ。

 私は顔を隠しながら幸せを噛みしめていた。濱川君は私にとっての推しである。でも、これは恋愛感情とは違い、本当に推しなのである。生きる価値である。



 いつだってそう。幸せは理不尽に消えていく。



 変な顔を元に戻し、改めて濱川君の方を見る。

「……え?」

 いない、いない。どこにも。濱川君がどこにも居ない。キョロキョロする。みんな、気付いていない。覚えていないんだ……。



 ※※※※



『JSアラート』にはもう一つ、科学的に証明されていることがある。

 それは、消えた人物を他の人が忘れてしまうこと。だから、覚えていない。と言うか記憶の片隅にすらいない。最悪のアラートである。

 さらに、これは都市伝説になりかけていること。

 人によっては、近くの人が消えた場合覚えていることがある。

 しかし、これは本当に稀のため科学的には証明されていない。




 …私の推しは?どこに行ったの?



 …まさか消えた、なんてね?




 ※※※※

 あなたへ。


 私はかれこれ考えました。どうしたら濱川君に会えるのか。

 …でも無理でした。

 だから許せない。人間が。

 あの後、私はドクターの元へ帰りました。そのとき、ドクターに私は聞いたのです。

「どうして人間が嫌いなのですか。私は、あなたと言う人間が大嫌いです。隣の席の濱川君をあなたが消したから。濱川君はドクターの嫌いな人間じゃないはずです。」

「…お前も失敗作か。」

 ドクターはそれだけを言い放ち、部屋を出て行きました。




※※※※




 ドクターはきっと、人間の心を持たないロボットを作ろうとしていたのでしょう。

 だけど、私も今までの兄弟たちと一緒の所に行くのでしょう。

 …人間の心を持ってしまったから。『推し』を作ってしまったから。

 ドクターの前では、ロボットになりきっていたのに。

 やはり、人間は嘘をつけないのでしょう。





 だから、覚えていてください。




 いつだって幸せは理不尽に消えていく。




 だから。あなたは、大切な人と生きてください。

 


                    濱川君が消えた日に人間の心を持ったKh-3470より。


































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