たっ↑きゅう↓~自分の進む道~

木春凪

たっ↑きゅう↓~自分の進む道~

(明転)


舞台に卓球台。布をかぶせて見えないようにしておく。

卓球台の前でインタビュアーにインタビューされている松平。キャラ作りの似非関西弁で応答する。片手にはミンティア。(本田圭佑リスペクト)


インタビュアー:全日本選手権優勝おめでとうございます。いやぁ圧倒的な強さでしたね。35歳という年齢を感じさせない動き。まさに魅せる卓球。


松平:まぁ自分もってるんでね。たしかに厳しい戦いやったけど年齢は関係ない。お客さんの応援でね、力でました自分もってるんでね。


インタビュアー:世界ランキング一位になり、日本のレジェンドとなった松平選手にとって、優勝するのはかなりのプレシャーだったのではないですか?


松平:プレシャーがないかと言われたらたしかにあったんですけど、自分はもう次の段階を思い描いてるんでね、オリンピックで金メダル。それだけです。自分もってるんで。


インタビュアー:オリンピック金メダルへ、日本チャンピオン、そして世界ランキング一位で臨むことになります。お気持ちをお聞かせください。


松平:世界の人にね、35歳でもやれるってことを見せたいなって思ってます。日本、そして世界のチャンピオンとして恥ずかしい卓球はできないですね。まぁ自分もってるんで。


インタビュアー:以上全日本選手権優勝の松平健太郎選手へのインタビューでした。ありがとうございました。


松平:俺もってる。


インタビュアーがはけきるまでどや顔をしている松平。

インタビュアーがはけたら、ゆっくりと体操すわりで床にすわりこむ。


松平:はぁ、俺はいつまでこんなことを続けなければいけないのだろう・・・


松平:スポンサーも所属会社も、みんな俺が優勝することが当たり前だと思ってる。さっきだってキャラづけを忘れるな、インタビュー中に五回は「おれもってる」って言うようにって言われたし・・・


松平:あぁそうだ、ただ勝つだけじゃなくて魅せる卓球をしろとも言われたな、観客を盛り上げるようにって・・・いつからだろう、自由に卓球ができなくなったのは・・・


松平:もう35歳だ、ここらで引退でもするか? 周りが絶対に許してくれないだろうな、所詮、俺はいい金づるだもんな・・・


松平:俺はどうしたいんだろう、自分がわからない・・・


後ろからゆっくりと案内人が現れる。


案内人:自分がわからないのなら、探せば良いのdeath。


松平:あんた、どこから入って・・・


案内人:私はたっ↑きゅう↓の案内人。地球で一番お強い松平健太郎様。あなたを招待しに来ました。といっても、参加は強制deathが。


松平:たっ↑きゅう↓?? 卓球だろ。それに招待って何なんだ。


案内人:いえ、たっ↑きゅう↓death! 早速移動しましょうか。 はいっ!


(照明を少し変化)


松平:なんだ?? 空間が変わった!? 俺、疲れてるのかな、これは夢なのか??


案内人:夢。そうdeathね、そう捉えていただいたほうがわかりやすいかもしれません。


松平:・・・それであんたの言う、たっ↑きゅう↓ってなんなんだ。


案内人:説明しましょう! たっ↑きゅう↓とは宇宙で一番強い、たっ↑きゅう↓選手を決めるサバイバルdeath!!!


松平:宇宙で一番強い、卓球選手を決める・・・?


案内人:たっ↑きゅう↓選手death! この空間には各惑星で一番たっ↑きゅう↓の強い選手が招待されています。あなたは地球代表death。


松平:ますます現実から離れていくな・・・


案内人:先ほど、自由に卓球ができなくなっていると言っていましたね? たっ↑きゅう↓は全てが自由death! 


松平:参加は強制なのに自由とか本末転倒だな。


案内人:細かいことには目をつむってください。ほら、向こうからだれか来るみたいdeathよ。


松平が振り向くと騎士が悠然と歩いてくる。


松平:なんだこいつ、剣みたいなの持ってるぞ? 本当に卓球やってるのか?


案内人:たっ↑きゅう↓death。松平様も運がない、いきなりやつと出会ってしまうとは・・・


騎士:新顔だな。私はテイルズ星の『白銀の騎士』。ここで会ったのも何かの縁だ。さぁ、互いに打ち合おうではないか。


松平:騎士とか、もう何でもありだな・・・打ち合うってこんな何も無いところで??


案内人:Let’s、Play、たっ↑、きゅう↓!


案内人、卓球台の上の布をとる。


松平:マジックかよ!


騎士:誰もが最初は驚くが・・・後は慣れるだけだ。そうすれば、この空間を楽しむことが出来るだろう。


案内人:『白銀の騎士』の言う通りdeath、楽しんでください。さぁ台について、たっ↑きゅう↓のルールはあなたの世界の卓球と呼ばれているものと同じdeath。一つだけ違うのは・・・


騎士:ラケットだ、私はこの刀で戦う。見たところ、お前のラケットはその木とゴムでできたもののようだな。初めてみる。実におもしろい。


松平:刀で戦う?? でもこの空間だ、『ピンポン玉が切れるだろ』とか、冷静に突っ込むのもバカバカしくなってきた・・・


案内人:素晴らしい適応能力death。たっ↑きゅう↓のラケットは自分の代表する惑星の技術の結晶。自分のラケットを信じてください。さぁ試合を始めます。


松平と騎士、台につく。案内人は審判をする。


松平:サッ!(サーブを打つ構え)


騎士:新顔とて、手加減はしない! 魔神剣!


松平:・・・! はやい・・・!


案内人:ポイント、『白銀の騎士』。松平様。気をつけてください。やつはたっ↑きゅう↓ランキング二位の実力者death・・・!


松平:二位!それは強いな、でも負けたくはないな・・・!


騎士:お前の全てを見せてみろ、そして楽しめ。


松平:楽しむ・・・?


騎士:勝負事は楽しくないと意味がないだろう? 私は自分の星ではもう、敵がいないんだ。毎日毎日、やんちゃなお姫様の警備に四苦八苦する日々・・・たっ↑きゅう↓は、自由に対等に戦える空間。私は楽しみで楽しみでしかたなかった。


松平:俺は・・・


騎士:玉に迷いが見えるぞ。思ったより手応えがないな。もう二度と会うこともないだろう。


松平:わからないんだ、自分がどうしたいのか・・・


騎士:軟弱なやつだ、よくそれで代表になれたな。言葉にできない思いなら、玉に込めればいい。それが私たち、たっ↑きゅう↓選手ではないか。


松平:・・・!


案内人:松平様。続けてください。


松平:俺は難しく考えて過ぎていたのか・・・ずっと玉を追ってきた、その先に答えがあるのなら、俺は打つ!


騎士:ようやく、いい顔になってきたな。見切れるか! 魔神剣・双牙!


松平:見える! 反応、反射、音速、高速!


案内人:ポイント、松平。


騎士:それがお前の本当の力というわけか! 実におもしろい!お前もそうだろう!


松平:もう少しでわかりそうなんだ。その曖昧な思いも全て玉に込める!


騎士:それでこそ、たっ↑きゅう↓選手だ! 次の技で終わりだ! 


松平:こい!


騎士:うおおおお! 塵も残さん! いくぞ! 魔王炎撃波!


松平:反応反射音速高速・・・もっとはやく! もっとはやく!!


案内人:Game Set Won by 松平。


騎士:いい、玉だった、楽しかったぞ・・・礼を言う。


松平:俺は・・・


騎士が松平に握手を求めようと近づこうとするが、案内人に吹き飛ばされる。

布か何かで舞台に隠しておいた鎌と人の首をもつ案内人。


松平:!? お前何を・・・!?


案内人:勝負を楽しむ? そんな甘ちゃんだから、お前は二位なんdeathよ、『白銀の騎士』・・・


騎士:お前は、まさか・・・!?


案内人:そう、私はたっ↑きゅう↓ランキング一位。Death of death !


騎士:death・・・! 案内人の振りをして、実力者を観察していたわけか! 死神の惑星の代表らしい悪行だな・・・!


松平:大丈夫か、騎士!


騎士:ああ、お前は逃げろ・・・! あいつは格が違う! 俺でも何分持つか・・・!


松平:逃げることはできない。後少しで自分がどうしたいかわかりそうなんだ!


騎士:いいだろう。少し時間を稼ぐ。見つけろ。自分がどうしたいか。そして、その思いを玉に込め、お前がdeathを倒せ・・・!


松平:騎士・・・!


案内人:すき放題言ってくれますね。今回のチャンピオンも私death! Deathメテオ!


騎士:はぁはぁ、魔神剣!


松平:騎士! あいつ、こんな状況の中で笑ってる!? この戦いを楽しんで、たっ↑きゅう↓を楽しんでいる! 俺は、俺も楽しかった、騎士との戦い。いままでの全ての試合、確かに楽しかったんだ・・・!


騎士:ぐああああああああう!


松平:騎士!


松平の近くに騎士の刀が飛んでくる。松平はそれを握る。


案内人:手こずらせてくれますね・・・次はお前death、くらえ!!


松平:わかった・・・! 自分の気持ち。俺は、自由に、この楽しさをみんなに伝えたいんだああああああああ! 


案内人:なん、だと、私が負けるなんて・・・


松平:次のオリンピックで、俺は引退する。そして、子どもたちに卓球を、この楽しさを伝えていくよ。招待してくれて、ありがとう。


案内人:・・・二度と戻って来ないでくださいdeath。


騎士:自分の道を決めたみたいだな。


松平:ああ、お前のおかげだよ。ありがとう。


騎士:礼など筋違いだ。誰もが自分自身について迷う。だがそれを乗り越えるためには、自分がいままでたどって来た道のりをもう一度思い返し、自分の気持ちに素直になることだ。俺との勝負はきっかけの一つに過ぎない。


松平:お前は俺が出会った中で、一番騎士らしいやつだよ。


騎士:ふん。当たり前だろう。俺は、騎士なのだから。


二人は熱く握手する。


(暗転)


(明転)


卓球台の前にやってくる立つ松平。高校生二人の練習を見ている。


松平:よし、今日の練習はここまで!集合!


高校生A:はいっっ!

高校生B:うぃーす。


高校生二人は松平の近くに体操座りをする。


松平:今日は頼まれていたものをもってきたぞ!


ポケットから二つ金メダルを取り出し、首にかける。


松平:じゃじゃーん!どうだ!


高校生A:うおおお! かっけーすっ! それがオリンピックの金メダルなんすねっ!!


高校生B:まぁ悪くないっすね、じゃあ、もう一つはなんすか??


松平:これか、これはなぁ・・・たっ↑きゅう↓、宇宙チャンピオンの証だ!


(少しずつ暗転を始める)


高校生A:たっ↑きゅう↓??

高校生B:宇宙チャンピオン?? 頭おかしくなっちゃったんすか?

松平:ふふ。お前たちも、いつかわかるときがくるかもしれないな。

高校生AB:??

松平:そのためには楽しく、練習あるのみだ!何かしたい練習はあるか?

高校生A:俺に熱い必殺技を教えてください!ツイストサーブ(エアケイ)とか!

松平:それは違う球技だ。

高校生B:松平先生! バスケがしたいっす!

松平:じゃあなんでここにいる。

高校生たちと松平激しくじゃれつきあいながらおわる。


(暗転)

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