第10話 花の閉架室
乾燥させた苺やオレンジ、ライム、姫林檎、キウイフルーツ、檸檬がふんだんに入ったハーバリウムやカーネーションとダリア、アイビーのミニグラス、南天と日本水仙、黄梅、レモングラスが飾られたグラスドームがまるで、百花繚乱な宝石箱のように店内へ多彩に訪問者を誘っていた。
こんなにドライフラワーって飾り物として愛好できるんだというくらいに。
「ここ、花の閉架室みたい。花の蔵書を集めた外国の図書館の閉架室みたい」
ドライフラワーの中には所々、スワロフスキーの細工もしてあった。
時折、ドライフラワーの中から燦然とした、スワロフスキーのジュエリーが斜陽に反射して、きらびやかに光る。
「いい例え。花の閉架室。僕もいつか、閉架室で寝泊まりしてみたいな。孤独な夜を過ごして」
店内にはドライフラワーの宵祭りが開かれていた。
大振りの白い芍薬の花のキャンドルスタンド、野ばらをあしらったローズスポットのネームスタンド。
スプレーギクで大胆に靡いた『Long time no see!』と書かれたウェルカムボード、ホウズキでできたハートのオプジェ、菫と白いレースフラワー、ローズマリーで象ったスクエアボトル、レース使いが可愛いブルーローズのフローラルボール、中にスワロフスキーの星型のビーズを埋め込んだピンクローズのラウンドグラス……。
「久しぶりだって。英訳も面白い。花園が久しぶりなんて」
君の笑った顔こそ、秘密の花園に咲く、一輪草のようだった。
「こういう癒される場所にずっといたい。世の中の汚濁を背負うより、ずっと。私が私でいられそうになるから」
私がドライフラワーの花園へ神隠しに遭っていると、君がふと私の頭上に何かを挿した。
「目を閉じて」
気配を感じる前に目を閉じた私は事が終わり、気付いた。
ああ、何か、髪飾りが頭の上に載ったんだ、と。花の王冠を私は店内にあった鏡で知った。
「これ、ドライフラワーでできた髪飾りなんだ」
私の前髪のほうに桜の一枝とピンクローズ、ガーデンシクラメンといった、ピンク系のドライフラワーで仕上げられた髪飾りが夕風に靡いていた。
入り口の隙間から春風が入ったためだ。
綺麗、と言う前に彼は私の背中からギュッと抱きしめて愛おしんだ。
「桜の花もドライフラワーになれるんだよ。一本の樹もまた来春には再び芽吹く」
ドライフラワーは思い出を閉じ込めた花だ、だから、懐かしいんだ、と彼は続ける。
「感性は僕が決めたい。誰から何と言われようとも。このドライフラワーに美を見出した人のように」
夕桜アンニュイ 桜の樹の下には死体が埋まっているのか? 詩歩子 @hotarubukuro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます