スフィア

風と空

第1話 ポータル

 スフィア。


 此処は大地が地平線で途切れている世界。

 地平線では年に少しずつ、海が、陸が流れて消えていく世界。


 だが、ポータルという四つの球体による支柱から、無限に大気が、空が、海が、陸が作り出されている。

 それは現存するものと、地平線に消えていくものが並行して作られ消えていく、調和の取れた世界。


 この世界の人は、異能が授けられて生まれてくる。

 但し、人を支援する能力だけ。


 スフィアは大気が水分で覆われ、「雨」というものを人は知らない。天候は常に穏やかな散歩日和が続く。


 人は支援異能に加え天候にも恵まれ、作物は豊作、文明も高度に成長し、穏やかながら豊かに暮らす事が出来た。


 だが人は探究心を持つ生き物。


 地平線で途切れている大地を「この世の果て」と呼ぶが、「この世の果て」と考えない人々も当然出てくる。


 それが学者達である。


 だがその中でも支援とは関係のない異能を持つ稀な人が、毎年出てくる。彼らは国として後見されて研究を行うため、栄誉ある特権として「この世の果て」送られる。


 そしてまた成人した学者である稀人が男女合わせて十人。

「この世の果て」の手前にある検問所に送られてきた。


「今回の栄誉ある稀人様方。良くおいで下さいました」


 出迎えた男はこの検問所の番人。

 異能〈ことわり〉と〈安定〉を持つ者、名をバリル。


 彼は稀人の中でも二つ異能を持つ特異な存在。〈安定〉の力でこの検問所を固定し、流されない様に長年力を使い続けている稀人として尊敬されている。


 彼らには憧れの人に会う事が出来た興奮と、これから共に働ける喜びがあった。


 一方、バリルはその様子を見て、人知れず口角を上げるのであった。


 その日はあてがわれた宿舎で、歓迎会でもてなされた一行。各々もてなしに満足し眠りについた。


 …… はずだった。



 

「起きろ!ジェス!」


 なんですか…… まだ起きるのに早いでしょうに……


「ねぇ!ジェス起きて!おかしいのよ!」


 …… ライナの声まで聞こえますねぇ。


「もう朝なんですかぁ?」


 ボリボリと頭をかきながら起き上がるこの男。黒髪黒目の概ね整った顔立ちの普通体型の青年。ジェス(21)。異能〈反転〉を持つ。


 今なおのんびりあくびをするジェスを呆れ顔で見る、ジェスを起こした青年。名はダグ(21)。茶髪に青の瞳の学者には珍しい筋肉質と整った顔立ちで異能〈影〉を持つ。


 ダグの側で不安そうにしているライナ(20)という女性。銀髪ロング小柄で可愛い系の顔立ちをしている。異能〈波紋〉を持つ。


「此処は…… 僕ら落とされましたかねぇ」


 のんびり周りの景色を見ながら、あっさり状況を掴むジェス。この男知識量と洞察力は持ち合わせているが……


「あ、ダグ。〈影〉からお茶出して下さい。まぁお茶にしましょう」


 かなりマイペースな男である。


「…… お前なぁ…… でもまぁ、落ち着かねぇとどうもなんねぇしな」


 ダグもまた、ジェスとの付き合いは長く似たもの同士である。


「ええっ!なんでこの状況で落ち着けるの?此処平原よ?宿舎で寝てたはずなのにこんなところにいるのよ?そもそも他のみんなはどこにいるの?検問所はどこ?」


 ライナはこの二人が心底分からなかった。言っておくが、ライナのこの反応は珍しい。普段は落ち着いた性格の持ち主だ。


「まぁまぁ、ライナもお茶飲みな。コイツ何か掴んだみたいだしな」


 ダグが自分の影からポットとカップをだし、興奮しているライナとジェスにお茶を渡す。


「もう!こっちは不安でしょうがないってのに!」


「ライナ、まず茶飲め。…… で、主席のジェスさんよ。何かわかったのか?」


 猫舌なのかふうふうとお茶を冷ましているジェスに、ダグは話しかける。


「…… アツッ。ああ、そうですねぇ。二人共僕が検問所に来る前の話し覚えていますか?」


「もしかして俺らが異端だから消される可能性があるって話か」


 ダグが真っ直ぐジェスを見る。ライナは何かを考えて黙ったままだ。


「そうですねぇ。ですから「支援」異能から外れる僕らはあの世界からいらない訳ですよ。人が増え過ぎたので調整の為にも切り捨てられたんでしょう。「この世の果て」はそういう意味で処分に適してますからねぇ」


「……じゃあ、国やバリルにも私達は裏切られてたの?」


「ライナ。ジェスが散々警告してたのは知ってるだろう?だがジェス、お前は何でそのままうけいれた?」


「いやぁ、勿論面白そうだからですよ!あの先に他の世界が広がっている可能性はありましたし、死んだら死んだで仕方ないですし」


 ズズズとお茶を啜りながら話すジェスに、唖然とする二人。


「だとしたらもう一つの仮定の「アカシックレコード」の存在もあるのか」


 ニヤッとするジェスに呆れ顔のダグ。


「わかったわ。こうなったら腹をくくりましょう」


 二人を見て頷くライナもまた付き合いは短いが、ジェスの洞察能力には信頼を置いている。


こうして三人は、他のみんなと消えた大地の情報全てが描かれている「アカシックレコード」を探す旅に出る…… 筈。

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