第4話おさがり

ふんふんふふ〜ん、と鼻歌を奏でながら上半身を左右に揺らす上機嫌な柚有莉。

ピンクのイヤフォンを耳に突っ込んでいる彼女。

彼女の右手の掌に収まりきらないピンクで揃えたウォークマンとケースに、俺の視線が釘付けになりながら訊ねた。

「柚有莉ちゃん、もし良かったら何を聴いてるのか教えてくれないかな?」

うん、と鼻歌を止まずにウォークマンのディスプレイを見せてくれる彼女。

ウォークマンのディスプレイには、CDのジャケットとアーティスト名、曲名が表示されている。

ミスチルのイノセントワールドだった。

「若いのに聴くんだね、古いの……柚有莉ちゃんって」

「流行ってる曲はそんななので……ヒサにぃって偏見ばっかですね、智夜ねぇが言ってたとおりです」

「わ、悪い、そういうつもりじゃ……」

柚有莉の指摘に耳が痛くなる俺だった。

智夜にも同様に非難されたことがあり、項垂れそうになる。

この娘、智夜にそっくりなんだよな……恐ろしいと感じてしまう。

「あのぉ……ヒサにぃのこと、傷付けてばかりでごめんなさい。えっと……」

「ああ、いや……俺こそみっともない姿を。おさがり、だよな?」

「ああっはい。そう……です」

彼女が頷いて、大事そうにウォークマンを胸に押し当てて返答した。

智夜との交際前にスマホを所持している彼女が、柚有莉が両手で抱えるように掴んでいるウォークマンで曲を聴いている姿が記憶に焼き付いており、確かめずにはいられなかった。

その際に、智夜に失言を漏らし、柚有莉と似た指摘を受けた。

「お母さんが智夜ねぇに譲って、智夜ねぇが私に譲ってくれたものなんです。私に、私たちにとって、これに入ってる曲は想い出深いものなんです」

「そう……なんだ」

「……」

リビングに流れる沈黙がいたたまれない。


嘉谷母親ひとが、二人の娘に譲り渡した、ねぇ……


嘉谷の親娘みたいに良好な関係は羨ましい……俺にとっては。


ふぅー、とため息がつい漏れた。


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いきなり押しかけてきたのは、元カノの妹でした!? 闇野ゆかい @kouyann

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