第4話 付き合ってます

だが、男の腕はビクともしない。

無理も無い。

今、僕を力で押さえつけているのは、クラスで一番の乱暴者、権田だ。

身長190cmもあって筋骨隆々の彼は、身長165cmのヒョロい僕を軽々と持ち上げる。


誰も彼を止めようとしない。


「お前みたいな雑魚がなんでだよ!」


僕が陽菜と一緒に帰るのを躊躇したのは、こういうことを無意識に恐れていたからだ。

彼女は天使であり悪魔なのかもしれない。


「何してるの!」


意識が飛びそうになった時、女子の声が聞こえた。

陽菜だ!

パタパタと駆け寄ってきた。


「やめて!!」

「うおっ?!」


権田が驚く。

まさか本人が現れると思わなかったのだろう。

嫌われるのを恐れたのか、僕を押さえつける力が弱まった。

僕はその場に崩れ落ちる。


「山田君、大丈夫!?」


陽菜が心配そうに僕を抱きかかえる。

彼女の温もりが伝わってくる。

心臓がバクバクと音を立てている。


「ごめんなさい! 私のせいで……」


陽菜が申し訳なさそうに謝る。


「いや、別にいいんだけどさ」

「良くないよ! 怪我してるじゃない!!」


陽菜の顔が青ざめる。


「保健室に連れて行かないと……」

「平気だって」

「ダメだよ!」


僕の意見を無視して、陽菜は彼の手を引いて歩き出す。

僕たちは保健室で手当を受けた。


「これでよしっと」


消毒液を脱脂綿で拭き取りながら、養護教諭の成田先生が言う。

世話焼きおばさんといった感じの優しい先生。


「ありがとうございます」

「いえいえ」


陽菜が頭を下げる。


「でも、驚いたわ」

「えっ?」

「あなたたち、知り合いだったのね」

「はい」


陽菜は笑顔で答える。


「仲良さそうだし、もしかして付き合ってるの?」

「はいっ!」


陽菜は元気良く答えた。


(え?)


「あらまぁ……。おめでとう!」

「あはは……」


照れ臭そうにする陽菜。

その顔は真っ赤になっていた。


「ところで、どうして二人は一緒に来たの?」

「実は、彼が階段から落ちそうになったところを助けてもらったんです」

「へぇ~。山田君、優しいのねぇ」

「い、いえ、そんなことは……」


僕は慌てて否定した。

だが、陽菜の咄嗟の嘘。

実際、助けられたのは僕だけど、それを他人に知られるのは恥ずかしかった。

そして……

事を荒立てたら僕と権田の関係が悪くなると察してのものだろう。

クラスでの僕の立場を考えてくれてる。


何て頭がいいんだ。


彼女の横顔は窓から太陽の光で、美しく白く縁取られていた。

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君がアオハル、になる時 うんこ @yonechanish

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