くせという個性 🦐

上月くるを

くせという個性 🦐





 司馬遼太郎さんの紡ぐ文章には、愛読者への思いがけないご褒美が隠されている。

 類まれなる博識で裏打ちされた、素気ないほど小気味よく、かつ、天晴れな断定。



 ――日本では個性のことを、くせとよんできた。(´ω`*)



 この一文に出会ったとき、橙子はカフェの店内に知らせたい気持ちを抑えかねた。

 いかにも!いかにも! そして司馬さん、残念ながらいまだに進行形なのですよ。




      ⚔️




 下剋上に不可欠な「くせ」が大手を振って罷り通った戦国期から一転、上への忠順が自分や家族の生存の大命題となった江戸の風潮は、現代へ連綿とつながっている。


 棟梁の自分を見限って出て行った臣下への報復を「あの男を雇うなら交流を断つ」各大名への回状という卑怯で果たした小器を、過去の浅慮として片づけてはならぬ。


 この国の、あるいは世界各国の狭い各種業界内で、日本の近世同様の旧弊がそれと見えないかたちで罷り通っていること、わたしたちはみな口に出さずに知っている。


 


      🪐




 いつだったか、そのころ地方紙の中間管理職だった友人に「ひとくせもふたくせもある新聞記者たちを束ねるのは大変でしょう?」四方山話に訊いてみたことがある。


 いま思えばなんということはない、自分自身がくせ(というよりアク)のかたまりだったのだから(笑)、問われた友人も臍が茶を沸かす思いを禁じ得なかったろう。


 地球という星に、勝手にちゃかちゃか動きまわる人型をばら撒いた神の太っ腹よ。

 一方では、さぞ面白かろうね~、くせだらけの人間どもを掌で弄ぶのはとも……。




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