第1章 7.目を覚ますと知らない天井

目を覚ますと知らない天井だった。


「知らない、天井だ――」


なんとなく、一度言ってみたかったセリフをとりあえず口にしてみる。


『おはようございます、タクヤさん。』


「アリア。おはよう。」


特に誰からの突っ込みもなく、アリアが朝の挨拶をしてくれる。


「えっと、ここってどこ?」


自分は森の中で意識を断ったはずであるが、今いるのはベッドの上だ。まだ身体のあちこちが痛いが、身体には包帯がまかれており、治療された跡があった。


『タクヤさんが眠ってしまった後に――』


――ガチャ


アリアが説明しようとしたところで、部屋の扉が開く。


入ってきたのは、俺がゴブリンから助けた女の子だった。


意識を失う直前に彼女の声が聞こえたのは間違いではなかったらしい。


「あ――」


彼女は、俺が起きていることに気が付くと、駆け寄ってきて俺の手を取る。


「よかった、目を覚ましたんですね!」


彼女は必死に俺の手を握り占めて、涙目でまっすぐに俺を見つめてくる。その素振りに彼女が本気で心配してくれていたことがわかる。


わかるのだが……。


「あー、えっと……」


可愛い女の子から、ぎゅっと手を握られ見つめられ続けて、思わず目をそらしてしまう。


「え?」


俺が目をそらしたことを不思議そうにした彼女であったが、自分がかなり至近距離まで詰め寄っていることに気が付き、慌てたように離れる。


「あ、あの、その……すみません……」


「い、いや、別に嫌だったわけじゃないから、気にしないで」


恥ずかしいせいで先ほど勢いよく駆け寄ってきた時とは打って変わって消えそうな声で謝ってくる。先ほどよりも少し距離を置き「わ、私ったら……」と恥ずかしそうにつぶやいている。


俺は俺で、嫌だったわけではないと若干本音の部分を言ってしまったことに後悔していた。


「「……」」


お互い、何を言ったらよいかわからなくなり、沈黙の時間が流れる。


「「……あの!」」


かと思うと今度は同時に声を挙げてしまう。


「ふっ、あははは」


同じタイミングで話しかけようとしたことが可笑しくて、思わず笑ってしまう。


「ふふ」


彼女も俺が笑ったことで少し緊張がほぐれたのか、先ほどからの緊張した面持ちから笑顔に変わっていた。


少し間をおいて、彼女のほうから話しかけてくる。


「あ、あの……昨日は助けていただいて、本当にありがとうございました。」


彼女は俺に深々と頭を下げる。


「いや、こちらこそ。倒れたあと治療してくれたんだよね。ありがとう。」


「と、当然のことをしただけです!生きていてくれて、本当に良かった……」


彼女は両手を握りしめて祈るように、安心したようにそうつぶやく。


その言葉を受けて、俺もこの子を助けられて本当に良かったと思った。


「俺ってどれくらい眠ってたんだろう?」


「丸1日眠られてました。父が傷は浅いから大丈夫だって言ってたんですけど、頭を打っているかもしれないし、目覚めてくれるまで心配で……」


どうやら、彼女の父親が俺を治療してくれたようだ。しかし、1日も経っているとは思わなかった。ずいぶんと寝てしまっていたらしい。


「そうだったのか、あとでお父さんにもお礼を言わせてほしい。」


「はい。あ、まだ自己紹介もしていませんでしたね。」


お互いまだ名前も教えていないことに気がつく。


「ああ、そうだった。俺の名前はタクヤ・ニシムラ。」


「私はリサ・シュタールです。あらためて、危ないところを助けていただいて本当にありがとうございました。」


「え?リサ?」


彼女の名前を聞き、俺は思わず驚きの声を挙げてしまう。


――彼女がリサ。


ゴブリンから助けたばかりのはずの彼女が、今回のクエストで救わなければならない張本人であった。


****あとがき****

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女神の暇つぶしに突き合わされた~異世界でセーブポイントから何度も繰り返すことに~ 谷翔 @tani-kakeru

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